朝焼け
「・・・まぶしい」
あ。そういえば自分で電気消し忘れてたんだった・・・。
マコトは心の中でそんな後悔の言葉をつぶやき、目を覚ました。
「はぁ〜」
久しぶりにユウの夢、見てたのに。
そう夢の中のユウの顔を反芻する。
ユウはマコトの幼馴染の男の子で、高校が違うため中学卒業以来、顔を合わせていない。ついでに言うと、マコトの長年の片想いの相手なのだ。
しばらくしてマコトは緩んだ頬を引き締め、すっと窓の方に目を向けた。
「・・・暗っ」
窓には、たくさんの星が瞬いている。すると、まだ朝は早いということか。もしかしたら朝と呼べる時間でもないかもしれない。マコトは寝ていたソファから手を伸ばして携帯を手繰り寄せ、液晶画面の時計を見た。
「まだ四時半かぁ・・・」
――寝よう。
マコトは今度こそ電気を消し、ソファに横になって目を閉じた。
・・・が、しかし。
「――寝れない」
すっかり目が冴えてしまったマコトは、のそのそとソファから起き上がり、ベランダへと向かった。
マコトの家は海の近くだ。ベランダに出るだけで風に乗って磯の香りがふわり漂う。マコトはそれを思いっきり肺に収めるように深呼吸した。
朝のひんやりとした空気がマコトの体内を駆け抜ける。
しばらくそうしていただろうか。マコトは足元に温かい物体が来る気配で、閉じていた目を開けた。
「レオン!!」
足元に来たのはオスのゴールデンレトリーバーだ。ちなみにマコトの飼い犬である。
レオンは大きなしっぽをゆらゆら揺らして、マコトをじっと見つめている。
「・・・よし。散歩、行こうか」
その一言にレオンは“それを待ってました”とばかりにしっぽを振って、
「リード取って来て」
というマコトの言葉に部屋の中へ駆け戻った。
マコトはその後急いで顔を洗い、着替え、髪をとかし、玄関でレオンが持ってきたリードを彼の赤い首輪につけた。
するとレオンは“早く、早く”とでも言っているように靴を履くマコトを『おすわり』してしっぽを揺らしながらじっと見つめている。
マコトが靴を履き終わるとレオンは立ち上がった。
「よしっ。じゃあ、行こうか」
そう笑ってマコトとレオンは家を出た。
ザザー。ザザー。
波の音と爽やかな海の風が心地いい。
マコトはレオンと浜辺を歩いていた。マコトの横を歩くレオンもなんだか気持ちよさそうだ。
そんな感じで二人――いや、一人と一匹が海辺を散歩していると後ろからかかる声があった。
「・・・マコト?」
その言葉にマコトは立ち止まってくるりと振り返り、
「え・・・ユウ?」
と、目を丸くした。
目の前のユウは雰囲気こそ変わらないのだが、卒業式のときより少し背が伸びていて肌は少し焼け、マコトの胸はドキドキと音をたてて鳴っていた。
「あー、人違いじゃなくてよかった。違ったらどうしようかと思ってドキドキしたわ」
ユウはそういってニッと笑った。
小さなときからこの笑顔だけはずっと変わらないんだよなぁ。マコトは毎度のことながらそう思うのだ。
そんなマコトの胸の内など知らぬユウは、いきなりしゃがみこむとマコトの足元で『おすわり』の状態のレオンの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「おまえ、大きくなったなぁ」
前会ったときとレオンの大きさ、そんなに変わってない気がするけど。
マコトは心の中でひそかにつぶやき、小さく微笑んだ。
するとユウは顔を上げ
「そういえば、なんでこんな時間にマコトいるの?」
ユウの疑問は決して不思議なものではなかった。只今の時刻、午前五時。日の出はまだなので辺りは薄暗い。ゆえにレオンの散歩に出るには早すぎると思ったのだろう。
「・・・目、覚めちゃって。ユウは?なんでこんな時間に?」
「ああ・・・。朝日見たくなって」
そう言ってユウはマコトから目をそらして笑った後、数歩歩いて適当に座った。
「マコトも一緒に見ない?・・・朝日。もうそろそろ日の出の時刻なんだ」
ユウ少しはにかんで自分の隣をぽんぽん、とたたいた。
「うん」
マコトは微笑みながらレオンを挟んでユウの隣に座った。
するとユウは地平線を指差した。
「空が明るくなってきたから、もうそろそろだ」
空に目を向けると空がどんどん明るくなっていき、日の出の時刻が刻一刻と迫ってきているのがよくわかる。
すると青い海に太陽が顔を出した。
「――わぁ、綺麗」
マコトは思わず声を上げた。
その横でユウは朝日に目を向けたまま微笑んでいる。
「俺、たまにすごく朝日が見たくなるんだ。で、ここに来るんだけど・・・なんか、なんとかパワーとかもらえる気がしねぇ?」
ユウはマコトの方を見て笑った。
「なにそれっ」
そういうマコトも笑いながら、ユウ曰く『なんとかパワー』を全身に感じていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
作者としてまだまだですが、そんな私にアドバイスなどくださると嬉しいです。
よろしくお願いします!
芽衣