愚連隊の陥穽(かんせい)<楽園編29話>
98話目です。年内100話が見えてきました。
ただ、今の週一ペーズがもうしばらく続きそうなので、一話ごとの文字数を増やそうかと考えています。今が原稿用紙7枚なのですが、何枚ぐらいにしたものやら。今から頭をひねってます。
「まったく、クソ面白くねェっ!」
悪態を吐くのは、彼の習性のようなものだった。毒錆は上着を肩にかけた。樫杖の魔女のせいで、上半身は裸、Gパンも腿から下は裂けている。およそ、文明人に似つかわしくない見てくれだった。
苛立ちの原因は、怪少女を取り逃がしたことだけではない。
八木誠志の惨殺体を睨む。
「こんなとこで殺されやがって! もう使えねェじゃねェか!」
殺人事件が起きたとなれば、この駐輪場は警察が厳しく捜査する。以後、ここを覚せい剤の取り引きに使用するのは絶望的となった。
覚せい剤の密売は、リスクは高いがリターンが大きい。仮に、100万円分の覚せい剤を全て売り捌けば――リピーターが多いので、どんな量でも確実に売り切れるが――900万以上の利益が見込める。ただ、その内400万ぐらいは、守り代だ、情報提供料だと、なんやかんや理由をつけられて暴力団にピンハネされる。沼男のことも、その押し付けられた情報にあったはずだった。
何より、警察の目が厳しい。床1枚下には地獄が口を開けているような稼業だった。
この駐輪場は誰の縄張りでもないし、高架下なので見晴らしが悪い。つまり、遠距離からの内偵を気にしなくていい、取引には格好のスポットだったというのに。
ずかずかと遺体に近寄る。血に塗れた八木の背広を引っ剥がした。躊躇なく財布を漁る。
「チッ、2万かよ、シケてやがる」
死者を恐れたり、敬意を払ったりという思考は、毒錆の脳内選択肢には存在しない。角が血で汚れた一万円札を、ポケットに押し込んだ。
「なんだってんだ、メンドクセェことばっかり起きやがるぜ」
金はいくらでも欲しかった。彼には金でやりたいことが山積みなのだ。
だが、現実では金から縁遠くなるようなことばかりが頻出する。
リーダーに「夜宴の生き残りに関わること」を禁じられ、リターンの多い商売もこのザマである。
一度、真雲に内緒で魔法を使ったことがある。魔法で強化した腕力で、人間の全身の骨を折ったのだ。「骨を全部折ってタコのようにしてみたい」という戯れでやったことで、哀れな犠牲者は、何の罪も所縁もない、単なる通行人だった。
発覚したとき、リーダーはさすがに激怒した。そして、滅多に使わない魔法を行使したのだった。
「……くそっ!」
あの時のことを思い出すと、毒錆は灼けつくような痛みを思い出す。それが燃料となって、いつまでも脳内に恨みとして燻り続けているのだ。反省、自省は生まれた時に親の胎内に忘れてきたらしい。
「カネだ。カネさえありゃあバカにされねェ。それに、アイツを手に……」
最近、ご執心の女ができた。だがその女は、金がなければ一向に靡かない。と、毒錆は思い込んでいる。
もう一度、怒りを籠めて亡骸をねめつける。
その瞬間、天啓が、いや、悪魔の囁きが訪れた。
口角が徐々に吊り上がってゆく。
「そうだ。コイツにも“使い道”があるじゃねェか……!」
どこから手を付けようかと考える。まず、人の目だ。この現場を隔離しなければ。さっきの乱闘で派手な音が響いたはず。さっさと手を打たなければ。
上着のポケットからスマートフォンを取り出す。20コール目で、いかにもしぶしぶ、といった感じで相手が出た。
「オセェぞ、ケンヂ! ……あ? 文句言ってんじゃねェよ! 宇平! 宇平って呼べばいーんだろが?」
不機嫌そうな抗議の声に、怒鳴り声で応答する。
「オマエ、どうせH丁堀の家にいるな? M場町の高架下の自転車置き場にいますぐ来い! っと、よく切れるモンも持ってこい! ……ああ? 包丁とかだ。カッターとかハサミはダメだからな!」
電話口から、弱々しい反論が聞こえた。
「ガタガタ言ってっと、両腕へし折るぞ! いいな、20分で来い!」
脅しは、本気にしか聞こえなかった。言うだけ言って、一方的に通話を切る。
もはや、毒錆の目には遺体がお宝にしか見えていなかった。
人は確信的に一線を越えるとき、猛悪な顔も凶悪な顔もしない。
醜悪な顔をするのだ。今の毒錆のように。
――サイドK――
アタシはいつものように、アジトに入った。アジトとか言うと愉快な響きになっちゃうケド、地下に秘密基地があるワケでも、悪の科学者が「ふははは!」とか笑いながら巨大ロボットとか作ってるワケじゃない。残念ながら。
ほんのちょっと郊外、田舎ぎみの、貸し家だったりする。周りに家とか少ないから、不特定多数の男女が集会してても目立ちにくいのだ。借りてるのはもちろんリーダー。こういった根回しは、リーダージツにソツがない。
もし、市内のマンションとかアパート借りてると、こーはいかない。狭い部屋に出入りしているダメ人間ズなんて、人目を引いちゃってしょーがない。ダメ人間を侮るなかれ。ヤツらは、居るだけでワルメダチする天才なのです。
誰もいない時間帯を狙って、こっそりアジトに入る。よーしよし、誰もいないな。出前どんなにとってもリーダーが払ってくれるし、本もパソコンもあるし、ダメ人間さえいなきゃ快適なのですよ、ダメ人間さえいなきゃ。
「やっほー、綺羅ちん」
アタシが落ち着くタイミングを狙っていたかのように、声をかけてくる女が一匹。
……うん、今日は巡り合わせが悪い日みたい。
最近読んだミステリ。
探偵「犯人は、30分で、眠らせた社長(80kgぐらい)を背負って雪山を300m昇り、空き家の屋根に死体をくくりつけたあと、引き返したんだ!」
……いや、無理があるだろ、と(笑)




