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樫杖の魔女<楽園編27話>

なんと<楽園編>始まって初のバトルです(笑) バトル好きな方、申し訳ありません。話が進行するに伴い、戦闘は増えていきますので(平伏)


   

 下手人げしゅにんがだれかなど、一目瞭然いちもくりょうぜんである。毒錆どくさびは、この少女を殺そうと決めた。


「テメェがヤッたのか!」


 怒鳴っているのは義憤からなどではなく、ただの癖である。


「このヒト、ヒーローじゃないんだもん」


 悪びれもせず答える。浮世うきよ離れしているようにもとれるが、人を殺し慣れている、といった印象でもあった。


 毒錆の脳内に不穏な閃きがあった。相手は殺人者に違いない。魔法所持者の可能性もある。いや、たとえそうでなくとも魔法所持者だったことにしよう。 

見知らぬヤツに魔法で襲われた。そう言えば、このガキを殺しても、リーダーは文句を言うまい。


 最近暴れていないせいで、周囲から軽く見られている兆候がある。暴力団は安く扱うし、手下の山刷やますりは反抗的。

 夜宴のときには「共に戦おう!」などと言っていた日笛卓也ひてき・たくやらのグループも、今や目の上のタンコブである。


 ここで1つ大暴れして、奴等の目をこじ開けてやる。


 陽の当たる者から見て生産性がないことでも、彼らには看板メンツがかかった重大事であることが多い。


 毒錆は、良いストレスのけ口を見つけた。

 ただ、相手がまともな人間でないのも確かである。獣は肌で相手の性質を感じ取る。


「テメェ、けっこう殺してんな? ちょうどいいやな、オレがブッ殺しゃア、ハクがつくってもんだぜ!」


 善良な一般市民が聞けば、震えあがるような口上こうじょうだったが、


「アンタはお呼びじゃないの。怪人役がお似合いよ」


まったく意に介さない少女だった。毒錆どくさびは早々に会話を放棄することにした。


「オラァ!」


 大振りで殴りかかる。拳が少女に命中した瞬間、バシャリと水になって崩れ落ちた。踏み込んだせいで、全身に汚水を浴びる。


「1秒後」


 水塊と重なるほどの距離で再び実像を結んだ少女は、悪漢の顔面に躊躇ちゅうちょなく刃物を突き出した。常人ならばあまりに奇妙な事態に意表を突かれ、動きが止まって串刺しになっていたかもしれない。


 だが、この男の運動神経は獣に匹敵した。大脳を経由せず、ただ反射神経だけでかわそうと、強引に首をじった。こめかみの辺りを深く切りつけられながらも、直撃を避ける。


「ちっ!」


 珍しく、毒錆が距離をとった。だらだらと傷口からしたたってきた血を乱暴にぬぐう。


「けっ! やっぱりテメェ、魔法持ってんのかよ!」


 なんとなく、予想はしていた。いくら刃物を持っていたとはいえ、年端もいかない子どもが、大の男を無傷で惨殺ざんさつするのは難しい。


「どーでもいいでしょ、アタシ、ヒーローにしか用は無いの」


 少女は相変わらず、取り付く島もない。


「ヒーローヒーローうるせぇ! 変身してやせてやろうか、ヒーローみてぇにな!」


 毒錆どくさびは上着を脱ぎ捨てた。190cm近い長身、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な体格で、腕も足も盛り上がっている。手の甲から肩の付け根まで、トライバル柄のタトゥーがびっしりと刻まれていた。足も同様だった。足の甲から太腿ふとももまでタトゥーで埋め尽くされている。


「シールケ村の魔女、かしの杖を持ち出せッ!」


 語気荒く悪漢あっかんが叫ぶと、身体がわずかに痙攣けいれんした。身長が伸び、四肢ししが急激に肥大化してゆく。腕が、足が、膨らんでいった。シャツは内側から盛り上がる筋肉を抑えきれずに破れて布切れと化す。Gパンはももすねの部分が裂けて、さながら割れたラッパのようだった。


 魔法の準備が終わった頃には、体長3,8mの毒錆右近どくさび・うこんが、そこにいた。ただ、単純な倍加ではない。腕や胴部は倍以上に、異様に太くなっている。強調に強調を重ねたような、歪なシルエットだった。服装は、上半身が丸裸となり、Gパンは腰の辺りだけ辛うじて貼り付いているような有様だったが。


「さあ、おっぱじめようぜぇ!」


 両腕をバシンと打ち合わせる。

 樫杖の魔女(オークス・マイト)毒錆右近どくさび・うこんが黒い手紙によって与えられた魔法は、単純明快にして強力極まりないものだった。

 身体能力を増強させる。倍加ではなく、乗算で。


「ヒーローってたな? 見てみろ、変身してやったぞ! オレがヒーローってことだろうが!」


 少女の奇矯ききょうな言動を捉えて挑発する。毒錆右近どくさび・うこんがヒーローを問われてまず想起するのは、アメコミのヒーローたちだった。彼らは多分に筋肉を主張した体格とコスチュームをしている。


 少女はお面越しに怒気を放った。


「大違いよ、バカ! アンタのは、変身じゃなくて、ただ大きくなっただけ! ヒーローに1度やられて、謎の光線で巨大化した怪人じゃない! 今週のやられ役よ!」


 妙なこだわりがあるらしい。お面の上からでははっきり判別できないが、毒錆の変化へんげにも、まったく動じていないようだった。


「口の減らねえガキだ!」


 毒錆が走った。強化された脚力は、100mを5秒で駆け抜ける異常健脚である。勢いそのまま、拳を頭に撃ち下ろした。


「2秒後」


 少女がつぶやき、拳は水塊へと命中する。拳は水のクッションでも勢いが緩まず、水塊を縦に引き裂いてアスファルトを強打した。

 地震を思わせる不快な振動と摩擦音が去り、強固なアスファルトに蜘蛛くもの巣状に亀裂が走る。地面は打点を中心に、大きく陥没した。さながら、小規模な隕石いんせきの落下跡である。


 人生の大半を、他人を殴ることに費やしてきた毒錆である。格闘技経験などなくとも、彼の身体は十二分に鍛えられていた。肉体強化の魔法は生来の恵まれた体躯たいくと相まって、この上ない怪物と化すのだった。


毒錆の言葉にあった、「シールケ村」「魔女」そして魔法の「巨大化」で心当たりのあるけっこういるかも、私と霧の夜に乾杯しましょう。


フェレスが夜宴の時、単語だけ口にしてます。



【明日から使えない豆知識】


魔女にとって、杖は優秀な触媒というだけでなく、強さの象徴でもあります。中でも樫の杖はより高位の位階に位置する、力の証明でした。

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