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出題される男<楽園編22話>

ちょっと早く投稿できました。これで90話です!


久しぶりのおススメ本コーナー。今回は佐伯泰英です。時代小説中心。私は「吉原裏同心」が好きで、全巻読んでます。ただ、同じ佐伯先生の小説でも、「古着屋総兵衛」は大嫌いと、極端です。この差は、「カッコつけの演出がどこまで許せるか」にかかってる気がします。


 大嶋剛司おおしま・ごうしは、体育倉庫の裏で昼休みを過ごすことが日課になっていた。誰にも見られない、話しかけられないので、わずらわしい思いをしなくて済む。


『だぁーい丈夫! ごーしお兄ちゃんには、リーノとクーちゃんがついてるよ!』


 膝の上に置いていたスマホが勝手に起動し、リーノが姿を現す。犬型手袋の<クーちゃん>を突き出して、能天気に請け負った。


「ははは……そうだな」


 力なく同意する剛司ごうし。この時ばかりは気休めにしか感じなかった。弁当を半分も食べていない。悩みから、食欲が失せてしまっていた。


『ほーら、やる気出して! グッタイミン、だよ! ごーしお兄ちゃんに、リーノの“とっておき”を教えてあーげる! そしたら、こんな問題どってことないよ!』


「とっておき……?」


 そういえば、リーノは昨日も同じようなことを言っていたことを思い出す。つまりは、“とっておき”とやらが、この切羽詰せっぱつまった窮境ピンチの打開策になりえる、と言いたいらしい。


『えっとねー、リーノの貸してあげれる魔法は、ホントは2つあるの。2つ目の魔法さえ使えれば、ぜーんぶ解決、なんだけど~……』


 思わせぶりに言葉を濁す。


「なにか、問題があるのか?」


『でもね、新しい魔法は、いまのごーしお兄ちゃんのランク:ネオファイトじゃ、使えない上級魔法なの』


 よく分からない用語を告げられる。要するに、現在、自分は「ネオファイト」とやらにランクされているらしい。そして、ネオファイトのままでは次の魔法は習得できない、ということだろう。


「ははあ、レベルを上げないと上位の魔法を憶えられない、ってのはゲームでは珍しくない設定だもんな」


剛司は、リーノ・カラスが“Scооting Meed!(報酬へ駆け出せ)”というソーシャルゲームで引き当てたキャラクターだったことを思い出した。


「ど、どうすればランクアップできる?」


 今さら「課金しろ」はないだろうな、と考える。おそらく、もっと厄介な方面に連れてゆかれるのだろう。


『簡単だよ♡ ごーしお兄ちゃんは、もうランクが上げられるぐらいポイントは溜めてるの。あとは、ちょっとしたクイズに正解さえすれば、もう使えるようになるの。これが、リーノの言ってた“とっておき”だよ♡』


 いつもよりも過剰に媚態びたいを振りく。「ポイント」とは、ゲームで言うところの経験値みたいなものか、と脳内で置き換える。それにしても、そのことに関する説明は、リーノの口からは今に至るまでされなかったのだが。


「そ、そうなのか。良かった」


 だが、もはや剛司にすがるものはない。リーノは驚かせたくて、こんな手の込んだ言い方をしたのか、と勝手に安堵あんどする。


「でも、ちょっとしたクイズって何だ?」


『はーい、じゃあ、今からクイズを始めまーす♡』


 間髪入れず、リーノが布告をする。すると、大きなファンファーレが鳴り響き、画面に大きく、「ランクアップクイズ」の金色の文字が躍る。

<クーちゃん>を振ると、派手派手しい演出が消失し、スマートフォンの画面が真っ暗になった。リーノの露出過多の姿だけが浮き出ている。リーノについていたアイコン等も、消え失せてしまった。


有無を言わさぬ迅速じんそくさだった。剛司に、「考える時間をくれ」と言う隙を与えない。


「い、いきなりだな」


 心の準備がしたかったが、もしリーノにへそを曲げられて、『もうやらないから』などと言われてはかなわない。


『安心して、簡単だから! ではいきまーす!』


 剛司は慌てて深呼吸をし、どうにか気を落ち着ける。


「よ、よし来い!」


『リーノの名前は、なーんだ?』


 出題された。が、理解するのに5秒を要した。


「…………なまえ?」


『そうだよ! 名前って、契約にすっごい大事なんだからね!』


 <クーちゃん>をブンブン振り回して力説する。


 名前は、リーノ・カラス。忘れるはずもない。そんなことのために、わざわざスマホの背景まで消したのだろうか。


(簡単すぎるような……。正解しろ、ってことか? いや……)


 即答を避け、暫し考える。この日の剛司はえていた。今までのリーノとの会話を反芻はんすうする。口数の多い彼女の話の中で、わざとらしく繰り返している表現があることに気付く。


(一心同体? 自分の一部? ……よし!)


『じゃ、答えよっか!』


 リーノが催促した。剛司は最後に覚悟を決めた。


「名前は、リーノ・カラス……と、<クー>、だっ!」


 腹に力を込めて宣言する。ことあるごとに、リーノは犬型手袋を<クーちゃん>と呼び、「自分と一心同体だ」と主張していた。ならば、名前にも<クー>を挙げなければならない。


 今日の大嶋剛司おおしま・ごうしえていた。


 一瞬真顔だったリーノが、すぐに破顔した。


『よくできましたー♡ これでごーしお兄ちゃんは、ランク:ヴィクティムにランクアップしました♡』


 満面の笑顔で宣言する。剛司には「ヴィクティム」がどんな意味か、さっぱり分からなかった。


「よ、よし、正解なんだな?」


 リーノの反応から、賭けに勝ったと確信する。


『やったね、ごーしお兄ちゃん!』


 <クーちゃん>が諸手もろてを上げて万歳の恰好をする。現実的な問題はまだ何一つ解決していないが、剛司にとっては大きな前進だった。


『では、新しい魔法を教えてあげるね♡』


 おほん、とわざとらしくセキをする。


『リーノの貸してあげれる魔法は、ホントは2つ。1つめが<死刑囚の姿見すがたみ>で。んで、2つめが<断頭ギロチン籠手こて>なの』


断頭ギロチン籠手こて>。<死刑囚の姿見すがたみ>に負けず劣らず不吉な響きだった。


オカルト世界(特に魔術)では、「名前」は、命以上に大事なものです。作中の「名前当て」は、実は儀式に則った正当な手順(の1つ)です。

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