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背負う者、鍛える者<楽園編21話>

話の切れ目の関係で、少々長くなりました。今回はストロベリーな内容です(断言)。



 午前中は、平和に終了した。御祝七瀬みいわい・ななせは、昼休憩に生徒会室で昼食をとることにした。

 焼きそばパンの袋を破るのと同時に、生徒会室の扉が勢いよく開かれた。言わずと知れた、生徒会室の主である。


「御祝書記、いるな。入ってもいいか?」


 言いつつも、伊勢乃木貴美いせのぎ・たかみはどっかりとイスに座りこむ。


「……返事を待つ気がないように思えるのは、僕のうつわが小さいからですかね、先輩?」


 闖入者ちんにゅうしゃの、有無を言わせない強引さにツッコミを入れる。


「これでも貴美は繊細なのだ。御祝書記に“イヤだ”と言われては傷つくではないか」


 押しの強い生徒会長だった。手製の弁当を膝の上に広げる。


「そりゃあまあ、この部屋の主に、嫌とは言えませんけどね」


 七瀬は半眼で上級生の恰好かっこうを見やった。隙なく制服を着こなしているが、ややスカートが短いように思える。


「ちょっとスカート短くないですか? 生徒会長が校則違反だと締まりませんよ?」


 朝見た時は、校則通りの長さだったような気がするが。


「御祝書記を買収すれば問題ないだろう? はい」


 七瀬の机に、80円のパックのコーヒーを置く。


「安っ! ……あんまり人を安く買うと、女っぷりが下がりますよ?」


 言いつつも、取り合えずコーヒーを受け取る少年だった。


「おや、母上のようなこと言う。か弱い少女のささやかな“お礼”にケチをつけるようでは、男っぷりが下がるぞ?」


 どっちもどっちの応酬だった。


「生徒会長が“か弱い”にカテゴライズされるなら、全人類の99.7%は立っていられないぐらい弱い、要介助者に分類されそうなんですが」


「……ふむ、どうやら御祝書記は、車椅子の介助を欲していると見える」


「はい、すいませんでした」


 さすがに、年長者に対して言葉が過ぎた。平身低頭して謝る。




「で、あの生徒に、どんな暴露したんです? 1年の大嶋、でしたっけ」


 食事を終えてから、朝の件を切り出す。


「うむ、大嶋剛司おおしま・ごうし君だ。……だが、まるで世迷(よまよ)ごとだぞ。この目で見た貴美からして、信じ切れていないのだからな」


 長い脚を組んで、腕組みまでする。その言葉を聞いて、俄然がぜん、七瀬の興味が高まった。


「いや、多分事実ですよ、それ」


「正着ではないな。まだ30点だ。論拠は?」


「もし会長の壮大な勘違いなら、あそこまで大嶋が追い詰められた反応をしない」


「ああっ、もっともだ。笑い飛ばせば済む話だな」


 腕をほどき、手をポンと打ち合わせる生徒会長。

 そして、貴美の自信に反比例して、七瀬が意欲を高めたのは、この目撃談が、相当な与太よた話であると確信したからだった。

 そこまで不合理な事実が絡んでいるのなら。


(魔女が関わっている可能性が高い……!)


 思いがけず光明が見いだせそうだった。


「しかし君は、ああいった人種に妙に慣れているようだな?」


 探るような目つきの生徒会長。


「5月1日に開催された、“全日本ダメ人間博覧会”にエントリーしたんですよ」


 真実ではないが、虚偽きょぎでもない説明をする。


「その理屈で言うと、御祝書記もダメ人間ということになるな」


 これまた間違いとまでは言えない。


「何があったか、できるだけ詳しく教えてください」


 勢い込んで席を近づける。


「いいのか? 正直、貴美は気が進まないが」


 生徒会長の口は重かった。


「? どんな内容でも、言いふらしたり、バカにしたりしませんよ?」


「0点! 御祝書記がそんな人柄でないことはとっくに分かっている!」


 一喝いっかつされてしまった。


「貴美が危惧きぐしているのは、御祝書記の方だ!」


 鋭く人差し指を突きつけられる。


「ぼ、僕が? 何故なにゆえに?」


茶化ちゃかすな。色々と、背負い込んでいるのだろう。今の君に、これ以上背負わせるのも、どうかと思うのだがな」


 背負う、という言葉は、七瀬を狼狽ろうばいさせた。生徒会長の勘の良さをまだまだ甘く見ていたことを、はっきりと自覚した。


「御祝書記は、重荷に押し潰されていても、まだ背負い込もうとする人間に思えるのだがな」


 七瀬には自分のことがそこまで分からない。だが、声高く否定する論拠も発掘できなかった。


「やれやれ、仕方がない。貴美が協力してやろう。1人よりも、2人の方が、出来ることが多いだろうからな」


 なぜか、ちょっとそわそわした様子で言い張る生徒会長。


「……つまり、重荷を半分背負ってもらえる、と?」


 少年は最も望まない提案を予想して、渋面じゅうめんを作った。「他人の命を、自分の都合で賭けること」を何より嫌うようになった七瀬にとって、超常にゆかりのない生徒会長を巻き込むことは、不本意の極致きょくちだった。


「こら、女に荷物を持たせようとする奴があるか! 野暮にも程があるぞ」


 ところが、予想に反して生徒会長に叱咤しったされてしまう。


「す、すいません?」


 つい、反射的に謝ってしまう。どうやら今日は、謝ってばかりの日になるようだった。


「人に責任を押し付けて、“身軽になった”などと喜ぶ性根ではないだろう、御祝書記は」


「うっ……」


 所詮しょせん、生徒会長と書記では役者が違った。性格の底までを、しっかりと読み切られていた。


「どんな重荷を背負うことになっても潰れないよう、貴美が鍛えてやると言っているのだ」


 七瀬の背中をバシンと叩いた。


「第一だな、御祝書記の人生、これからもいろいろ背負しょい込むことになると推察するぞ? 道程(人生)の半ばどころか16歳(2合目)を上げている場合ではあるまい」


 七瀬の完敗である。手厳しいが、まったくもって精確だった。


「……言いにくいこと、言いがたいことがあるのは貴美も分かっているつもりだ。それらと照らし合わせて、問題なさそうなことは教えてくれ。詮索せんさくはしない」


 生徒会長は、随分と譲歩した条件を突きつけた。「言いたくないことは、言わないでいい」と。


「……それでいいんですか?」


「無論、本意ではない」


 即答される。「伊勢乃木貴美」というパーソナリティの主義に反することは想像に難くなかった。


「ですよね~」


「だから、御祝書記が笑い話にできるほど強くなったときに、必ず話してもらうぞ!」


 語気強く宣する。だが、手形の期限は切らなかった。


「……ありがとうございます。その時には、会長も背負えるぐらい強くなれてたらいいんですけどね」


 むしろ、他人の人生を平然と支えて生きていける人材だ、と貴美のことを考えていた。


「背負われるのは好みではない。そうだな、いずれ、お姫様抱っこでもしてもらうか」


 くすり、と楽しそうに微笑む。


「いえ、腕を痛めるので無理です」


 真顔で応答する書記。実際、七瀬と長身の貴美では身長はほとんど変わらない。体格的にも横抱きは難関と言えた。

 が、生徒会長のささやかな望みは、そういったことを問題にしているのではない。生徒会長は、ゆっくりとてのひらをかざす。


「……マイナス80点! よくよく、女心を解さない傍輩だな、君は!」


 書記の背中を、先刻の7割増しの力で猛打した。



解答12:「音頭梨里香おとず・りりか」(15話)の語源アナグラムは何でしょう?

おとずりりか⇒とおりずかり⇒とおりすがり⇒通りすがり でした。正解者様はいるのですが、名前は「非公開で」という要望でした。照れ屋さんです。

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