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交錯する男<楽園編19話>

「魔女たちの夜宴」のレビューいただきました!

ヨンヒイ 様からです! すっごく嬉しくて舞い上がってます(笑)


今まで別場面で行動していた登場人物たちが、徐々に交叉していくようになります。



 御祝七瀬(みいわい・ななせ)は、通学路にある自販機で足を止めた。


「……懐(なつ)かしいな」


 硬貨を投入して、ボタンを押すと、缶コーヒーが吐き出された。受け口に手を伸ばして缶を回収する。


「ないか、やっぱり」


いつぞやのようには、黒い手紙は入っていなかった。





 大嶋剛司(おおしま・ごうし)は肩で風を切って歩いていた。意気軒昂(いきけんこう)に校門をくぐる。

 近頃は充実していて、毎日が楽しい。これまでの人生でついぞ経験したことのない達成感と幸福感に包まれていた。


 やったことといえば、<死刑囚の姿見(すがたみ)>の魔法で、暴力や権力を捏造(ねつぞう)しただけなのだが、

 

『ヒーロー! 今日もガンバろーね!』


 四六時中、心地よく持て囃(はや)す者がいれば、誰でも否(いや)が応(おう)でも有頂天(うちょうてん)になってしまう。スマホに住まう<リーノ・カラス>も、あれからずっとご機嫌だった。


 相変わらず露出度の高い衣装で、本人が「一心同体」と公言している犬型手袋の<クーちゃん>を振り回している。


「ああ、今ならなんだってできそうだ!」


 特にそういった扱いを受けてきたことのない剛司(ごうし)には覿面(てきめん)だった。

彼は、錯誤による万能感に支配されていた。



「大嶋君、少々時間をもらってもいいか?」


 下足場(げそくば)で、目立つ女生徒から声をかけられた。剛司はやにわに硬直する。

 2年の生徒会長、伊勢乃木貴美(いせのぎ・たかみ)だった。


「べ、別にいいけど」


 剛司にとって貴美は、好意を抱いている上級生である。彼の性格上、遠目で眺めているだけだったが。その意中の女性に話し掛けられて、舞い上がっているのだが、緊張でまともな受け答えができない。自分の名前と顔を憶えていたことも嬉(うれ)しかった。


(やった、朝からツイてる! “生徒会に入ってくれないか?”とか言われたら、どうしようか)


 捕らえてもいないタヌキの皮算用を始めてしまう。緊張と歓喜で、考慮が飛躍しつつあった。


「えー、なんだ、あー……」


 意外なことに、呼び止めた当人が切り出し方に戸惑っている。妙に歯切れが悪い。即断即決が身上の生徒会長には珍しいことだった。


「君は昨日、N川にいなかったか? その……別人になったように、貴美には思えたのだが」


 剛司(ごうし)は思考停止した。パニックにさえ陥ることができないほどの衝撃。

 見られていた。それも、一番見られたくない人物に。


 ポケットの中で、妖物(リーノ)が薄い笑みを浮かべていることに、大嶋剛司は気付けなかった。


「あ、う……」


 言い淀(よど)む。その停滞こそが何よりの肯定だった。


(どうしよう。どうしよう。どうしよう)


 思案は壊れた蓄音機のように堂々巡りするばかり。脳内に浮かぶ映像は、なぜか、錆(さび)ついて、軋(きし)みながら回転する歯車だった。


(バレた。どうする? バレた。どうする?)


 どうしたら、「なかったこと」にできる?


 急速に、目に狂気が灯ってゆく。突然の灯明ではない。既に、赤頭(ゴロー)を殴打(おうだ)した瞬間から、火種は点(つ)いていたのだ。


 どうしたら、「なかったこと」にできる?

 「なかったこと」にするには。

 目撃者を――。


「会長!」


 狂想(きょうそう)は、第三者の声によって遮断された。大慌てで男子生徒が駆けつけてくる。確か、生徒会の一員だった。はっきり覚えているわけではないので、自信はないが。




「会議の議事について、アドバイスお願いします!」


 御祝七瀬(みいわい・ななせ)は、貴美の肩を掴(つか)んで、そう言ってきた。貴美は怪訝(けげん)な顔をする。放課後の会議など、今すぐ打ち合わせの必要なものではない。それを、わざわざ他者との会話に割り込んでくるなど、いつもの“御祝書記”らしくなかった。肩を掴(つか)む強引さも、普段の彼からは似つかわしくない。


「御祝書記、その話ならば昼休みにでも――」


 言いさして、口を噤(つぐ)んだ。七瀬の目に、全く余裕がない。険しい目つきだった。懸命に何かを訴えかけている。貴美に危機感を促しているように思えた。



 伊勢乃木貴美は、「会議の議事」というのは、どうにか捻(ひね)り出しただけの口実なのだろう、と推測をつける。

 建前(たてまえ)で割り込んで来て、真意を口にしないのは、「この場では口にできない」ということだろう。


 つまり、御祝七瀬の目的は、会話をすることではなく。


 ――大嶋剛司との会話を止めること、か――


 もとより観察眼の優れた女性である。割り込みの情実をすぐに察した。それにしても、七瀬の切羽詰(せっぱつ)まった様子が異常ではある。


「うむ、そうだな。確かに火急の件だ。すまないな、大嶋君。さっきの内容は忘れてくれ」


 そそくさとその場を後にした。


「た、助かった、のか?」


 取り残された剛司(ごうし)の呟(つぶや)きが、風に乗って幽(かす)かに聞こえてきた。



解答10:「長幸之利(ながゆきこれとし)」の語源(アナグラム)は何でしょう? ながゆきこれとし⇒ことながれしゆき⇒ことなかれしゅぎ⇒事なかれ主義 でした。村スライム様が正解しました!


まんま性格です。名前だけで、おそらく本編の出番もありません(笑)

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