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ブレイブ・ウーマン<楽園編15話>

 加速装置が暴走して、なんと1日で書くことができました。(嘘です、下書きはずいぶん先まで進んでます)。「警視庁24時」は今回で一旦終了です。

 今回、とある主要キャラの家族が登場します。


 おすすめの作家3人目は大倉崇裕おおくら・たかひろです。「刑事コロンボ」のゲフンゲフン(一応自粛)してた方なので、コロンボが好きな方は気に入るはず。


 勝手に占拠していた会議室を出ると、ばったりと上役うわやくに出くわした。


「おや、会議室で密談かね? 東洋玄時とうよう・くろとき君」


 駆け足を止めて声をかけてきた。縁なしの眼鏡めがねをかけた女性は、きっちりとスーツを着こなしている。30代後半のはずだが、実年齢よりずっと若々しかった。



挿絵(By みてみん)



「大した悪巧わるだくみは思いつきませんでしたよ、伊勢乃木いせのぎ部長」


 警部補も軽口で返す。本来なら懲罰人事ものだが、相手の器の大きさを見越しての応対だった。

 茶化した言動で声をかけてきた女性は、伊勢乃木香都子いせのぎ・かつこ。県警本部にあっての役職は部長。階級は警視長。国家一種試験合格のキャリアである。


 下っ端顔負けの激務をこなしているはずなのに、疲労が微塵みじんもうかがえない。化粧も完璧で、ノリのきいたスーツを隙なく着こなしている。


「い、いつもお綺麗きれいですね」


 顔を赤くしつつ、光一後輩が声を上げたのは、嫌みでもお世辞せじからでもない。生気に満ちあふれた女傑じょけつだった。


「ははっ、ありがとう豊文ほうむん君」


 闊達かったつに笑って答える。伊勢乃木警視正にとっては、すべての署員の名前と顔を憶えるなど造作ぞうさもないことだった。特に、「ほうぶん」「とよふみ」など憶え間違い・言い間違いの多い豊文光一ほうむん・こういちの名前がごく自然に出てくるあたり、ただものではない。


「で、急ぎ足でどうしました?」


 東洋とうよう警部補が質問する。忙しい身で、まさか世間話のためだけにこの警視正が足を止めたなどとは思っていない。


「おお、キミら1課(殺人事件担当)は大至急大会議室へ集合。殺人事件だ」


 キャリアは間違っても殺人ゼロイチとは言わない。


死体マルタが出たんですね? 被疑者(太夫)は?」


 東洋警部補は矢継ぎ早に質問を投げかける。警察は死体が出なければ、殺人事件と断定はされない。


「いや、詳しくは後で話すが……どうやら手口から見て、また“沼男スワンプマン”とやらの仕業しわざのようだぞ」


 警視正が声を潜めたのは、怪人さながらの呼び名が、目撃者とマスコミによってわざとセンセーションに命名されたものだからだった。


「……最近、大人しかったと思ってましたがね。またうごめきだしたか」


 警部補は顔を歪めた。大きくうなずくと、伊勢乃木警視正はきびすを返した。


「大会議室に仕出し弁当と栄養ドリンクを50人前用意させてある。私のオゴリだ。たっぷり食べておけ、大いに働いてもらうぞ」


 片手を挙げて、颯爽さっそうと去っていった。


「はあー、伊勢乃木警視正、いつもパリッとしてますねえ」


 光一こういち刑事が感嘆交じりにつぶやく。


「“日本史上初の女性警視総監に最も近い存在”の呼び声も高い傑物けつぶつだからねえ。気前もよくて豪快だ」


 キャリアは地方署にずっと勤務することはなく、いずれ中央に帰ることになる。よって、ひたすら穏便に任期を終えて経歴に傷をつけたくないばかりの「骨なしキャリア」が多い。のだが、あの女性は例外だった。とにかく精力的に動く。あらゆる事情に首を突っ込む。


 超男性社会とも言える警察組織の中で、頭角とうかくを現して出世を続けているのは並大抵の努力ではないだろう。


「さ、行った行った」


 後輩を急かして大会議室を目指す。


(“沼男スワンプマン”か。あの殺人鬼のお陰で、こっちの活動が目立たなくなるのは都合はいいが……これで数日は身動きがとれん。さっきの“魔女”の捜索はこれで遅れるな。どうするか)


 東洋警部補は冷静に計算を始めていた。





「被害者は音頭梨里香おとず・りりか、17歳。殺害現場は、N川通りの細道と推測される。遺体はそこに遺棄いきされていました」


 主任が資料を読み上げる。大会議室に座った一課の強面コワモテたちは、緊張した面持ちで手元の資料をめくったり、手帳に書き込みをしている。


「殺害方法は、左の肩口を細身のナイフで一突き。被害者は死んだと気付くこともなかったでしょう」


 刑事たちがざわつく。とある忌まわしい殺人鬼が常套じょうとうとする殺害手段だった。肩口に突きこまれたナイフは、骨にも邪魔されずに心臓に達する。被害者は即死。心臓を突き破ったナイフを引き抜けば、犠牲者は派手に鮮血を噴き出すことになる。目撃者は、赤黒い血の海に沈んだ遺骸を見ることになる。この目撃証言から、口さがない人間たちマスコミが名付けた異名が、“沼男スワンプマン”。


「おいおい、これで8件目か? またマスコミがやかましいぞ」


 年嵩としかさの刑事がぼやく。もっとも、「表面化していない犯行」がいくつに上るかは勘定かんじょうに入っていない。最低でも8人目、ということだった。


「沼男、か。昭和の都市伝説だな。我々の捜査力も昭和で打ち止めかね?」


「「「違います!」」」


 伊勢乃木いせのぎ警視正の挑発に、一課の猛者もさたちが期せずして唱和する。


よろしい! その誇りと覚悟を抱いて捜査に臨みたまえ。昇進と金一封が待ってるぞ!」


 面々に喜色が浮かんだ。実は、警察で手柄を立てた時にいただく「金一封」は、一律500円と相場が決まっている。どんなに手柄が誇らしくとも、大の大人に不満がないわけでもない。


 だが、伊勢乃木警視正が言うときの「金一封」は、彼女が個人的に用立てた褒賞を意味する。その額50万円。彼女がどうやってその予算を捻出ねんしゅつしているか、誰も知らない。法の網にかからない方法ではあるのだろう。受け取る側にも、賄賂わいろにはならない「配慮」をする。  


公権力を行使する機関として感心できるやり方ではないが、こういった「動く人間のしんに火をいれる」戦略が警視正の信条だった。


「さあ、闘志に油を注いでやったぞ。理屈は後回しだ、結果を出せ!」


 実に扇動アジテーションの上手い警視正だった。



問題:「伊勢乃木香都子いせのぎ・かつこ」警視長の語源アナグラムは何でしょう? ノーヒント。


問題:「豊文光一ほうむん・こういち」刑事の語源アナグラムは何でしょう? ヒント・職業

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