アタシとフユカイな仲間たち<楽園編7話>
「サイドK」は、1人称で記述しています。理由はずいぶん後に説明できると思います。
――サイドK 9月20日夕刻――
あー、やだやだ。アタシはひっそりと嘆息した。タイクツだったからアジトに寄ってみたら、いきなりケンアクじゃない。
部屋のど真ん中で、2人のオトコが激しく口論してる。いや、片方が一方的に怒鳴ってるだけか。頭痛持ちのアタシに、これ以上頭が痛くなるような光景を見せないでほしい。
「だから、もう待てねぇっつてんだろ!」
歯をむき出して叫ぶ男は、20代前半、いや、10代後半だったかな? 訊いたことはなかったりする。正直、この程度の差はどーでもいい。だって、仲良く話したことなんて、1回もナイし。
髪を緑に染め上げて逆立てさせていて、ピアスは耳と唇に合わせて8つ。冬に寒くないんだろーか。目は残酷そーな光を放っていて、アタシはいっつもホオジロザメを連想する。粗暴、といったカンジ。
で、その印象を裏切らない内面の持ち主なことは、短い付き合いで嫌というほど実感していたりする。そりゃもう。
アタシの嫌いな要素を、余すことなく備えている男。はっきり言って、大嫌いだったりする。
アタシの大好きなマンガで例えるならば、「面白い要素が1コもねぇ!」ヤツ。 ヘイオンな日常をこよなく愛するアタシの大敵である。
問題は、コイツの“魔法”が、極めて強力なこと。コヤツを抑制できるニンゲンが、少ないのだ。
アタシは、この緑男――毒錆右近という、時代劇にでも出てきそうな立派な名前である――について、頭から尻尾まで「嫌い」しか感想がない。
ちなみに、ちょっと並べ替えると、「ドク・サビ・ウンコ」と、湧いたら迷惑なものが3つ並ぶことになり、ヤツの存在を表しているようで笑える。小学生か。アタシは。
もっとも、アタシ以外にもこの発見をした幼稚な奴は多い。ドクサビに面と向かって言ったニンゲンは、だいたい口の中に電球を入れられたアトに、アゴを蹴り上げられたらしいけど。割れたガラス片が口内をズタズタにして、大変効果的な私刑なんですと。
「またかい、毒錆君。生活資金なら、つい先日渡したはずだが……」
対する男は、うんざり、といった様子で受け答えしている。まあ、最近文句言われてばっかだしね。30代後半の中年で、ややよれたストライプ地のスーツを着てる。
タバコを口の端に咥えて、吸いながら喋っているのは、器用と言おうかモノグサと言おうか困る。無精ヒゲがまばらに生えているアゴを擦ってるのもオヤジ臭い。
私たちのリーダー? まあ、頭脳みたいな立場なのだが、服装といいユルそうな動作といい、だらしがない。ブランドものの背広が泣いてるぞ。
「あんなハシタ金じゃ、何もできねーよ! 魔法持ち越したトキにゃあ、もっともっと派手に遊べると思ったのによ!」
叩きつけるような口調。
「そーっスよ! アンタ、ドクさんのこと安く見てんじゃねぇっスか?」
「ドクさんはアタシらのアタマなんだから、下に置くと許さないわよ!」
うわ、緑の取り巻きがしゃしゃり出てきた。うっとうしい。赤い髪の山刷吾郎と金髪の猪寅カヲルは金魚のなんちゃらみたく、ドクサビにひっついて離れない。
3人でがなり立てるのは勘弁してほしい。頭痛がひどくなってくる。最近、ただでさえ痛み止めが効きにくくなってるんだから。愛用の痛み止めが発売中止になっちゃって、ソレの“S”とやらが代わりに売られるよーになったんだけど、私にはちっとも効かないんだもん。
アタシがハマってる「タオル遊び」も、頭が痛いとちっとも楽しくない。
「だけどねえ、今は大事な時節なんだ。グループの資金を軽々しく使うわけには……」
「いつもの方便」でなだめようとする中年リーダーを見てると、なんだか中間管理職の悲哀みたいなのを感じる。アタシの父さんは働いてないから、想像でしかないんだケド。ドクサビに暴発してほしくないから、懸命デスね。
「うるせぇ! そのお題目は聞き飽きたぜ! テメエらの貧相な財布に誰も期待してねえよ!」
エッラソーな言い様に、周囲のヒトたちの目つきが険悪になった。
「3人集まると派閥ができる」ってのは人間の習性みたい。でも、ココのダメ人間ズを見てると、自分勝手な連中が派閥を作るのが一番生産的でないっぽい。いがみ合ったり、足の引っ張り合いになるってことがよ~く分かるんだな、コレが。
私は別に、狂犬のことなどどーでもいい。実際私のノーブランドの財布は貧相だ。私は眉間を指で優しく揉んだ。「アンタってば、老けた?」とか知り合いに言われ出してるってのに、皺を増量してたまるか。
うーむ、帰るチャンスを逃しちゃった気がする。ざわつく前に、さっさとアジトから退散すれば良かったのに。アタシ、危機管理能力が低いぞ。
ドクサビは床に唾を吐いた。汚い。誰が掃除すると思ってるんだ。……誰かな? アタシだったら本当に嫌だ。
「こっちもよ、今日は金をタカろうってんじゃねぇ! 例の“生き残り”の居場所を教えろって言いに来ただけだ!」
威圧的にしか話せない人種って嫌い。本人は迫力があるとか思ってるのかな。威厳とかないんで、開幕1ページで脳天を破裂させられるモヒカンにしか見えないんだけどね。汚物を消毒しそこなったり。
中年男の目が細くなる。
「……知ってどうするんだい?」
試すような口ぶりだった。あ、怒ってる。リーダーの影が、まるで水面のように波打ってるのは、ヤバい兆候だ。
山刷と猪寅がひるんでる。最後までつっぱれないなら、しゃしゃり出てこなければいいのに。
「ソイツらも“あの夜”を生き延びたんなら、カネだか宝石だかの“お宝”をゲットしてるはずだろうが! 仲間じゃねえヤツんなら、オレが奪っても文句はねぇだろ!」
名案、とばかりにまくしたてる。名案と言えば名案かな。倫理や社会や、道徳に顔見せできないことを除けばね。
問題:毒錆右近、山刷吾郎、猪寅カヲル(いのとら・かをる) の語源は何でしょう?
取り巻き2人は簡単です。




