化ける男<楽園編4話>
今さらですが、アナグラムは、オーソドックスなルールです。
濁点の移動あり、「カレンダー」を「かれんだあ」と、「ー」を母音で表記するやり方です。
こうしないと、アナグラムがすっごく限られてしまうので(笑)
人の通りが増え、賑やかになってゆく。大嶋剛司は、訳も分からず商店街に到着した。
『リーノの教えちゃう“すっごいいーこと♡”は、魔法だよ! <死刑囚の姿見>っていうの!』
大袈裟な身振りで、思いっきり両手を広げて表現しようとしている。
「し、死刑囚?」
なんとも不吉な響きの単語だった。「魔法」とやらは、何かの比喩なのか、と剛司は疑う。ソーシャルゲームではありふれた単語だった。
『だいじょーぶ! まず、魔法を選んで、……えっと、あのオジサンの影を踏んでみてよ!』
幼女が手袋犬の<クーちゃん>を使って示した方向には、緑の髪を逆立てた、凶暴そうな若者がいた。肩を怒らせて歩いている。高校一年生の剛司よりは年上には違いないが、20歳かそこらに思える。オジサンというほど年は取っていないようだった。
「あ、あいつ? こわいな。でも、影を踏むぐらいなら……」
少年は恐る恐る後を尾ける。
「あ、ドクさん、オツカレさまーっす」
男が通ると、若い連中が幾人か声をかけてきた。高校の制服を着ているにも関わらず、堂々と喫煙している者もいる。
「おー」
男は、偉そうに手を上げて応える。男は「ドクさん」と呼ばれているらしい。他にも数人の、素行のよろしくなさそうな若者が挨拶をしてきた。慕われている、というよりも、敬して遠ざけられている、といった様子だった。
「こないだ、妙に気に入らねえ男がいてよ……」
「武勇伝」を話し始めた「ドクさん」の足が止まった。
「ええっと、<はい>を選んで……」
押した。次に、用心深く近寄って、男の影をちょんと踏む。すぐさま離脱した。
『わー、おじょーず♡』
幼女がぺちぺちと拍手を贈る。
「こんなことでいいのか? それで、どうなったんだ?」
言われるままに実行したが、なにがなにやらさっぱり理解できていない。
『じゃーね、さっきあいさつしてたあの“やんきー”に話しかけてみて?』
さっき男を「ドクさん」と呼んでいた不良学生を指定する。
「うーん、声をかけるぐらいなら」
それにしたところで、剛司には大冒険である。内心では、そんなことはしたくない。不良は、特に苦手な生物に分類されている。だが、怖気づいてリーノに嫌われたくなかった。
路上に座り込んでタバコをふかしている不良少年に声をかける。
「あっの緑バカ、定員割れの工業高校に落ちやがって中卒なんだぜ? 血の代わりに葉緑素でも流れてんじゃねえの?」
何やら悪口を言って、ギャハハと下品に笑いあっている。
「あ、あの……」
話しかけた瞬間、若者は弾かれたように立ち上がった。
「あっ、ど、ドクさん、どうしたんっすか?」
大慌てでタバコを揉み消して、愛想笑いを浮かべている。
「ドクさん?」
剛司には意味が分からなかった。先の男と剛司とでは、髪の色も、髪形も、体つきも、何もかもが違う。辛うじて合致しているのは、目と鼻の数ぐらいである。
『この魔法を使うと、みんなはごーしお兄ちゃんのことを、“影を踏まれた人間”だと思い込むようになるの!』
リーノが得意げに説明する。
「……つまり今、俺は、あの“ドクさん”だと思われてるわけか」
それならば、この不良学生たちの反応も納得できる。
「で、何の用っすか? 煙草買ってきましょうか?」
相手は微塵も疑っている様子がない。
「い、いや、いいんだ。悪かったな」
適当にあしらって、その場を離れた。
一応何度か試してみたが、誰も彼もが剛司を「ドクさん」として応対した。
面白かったのは、「ドクさん」にまるで人望がないことが分かってしまう点だった。「頭にオガクズが詰まってるクセに偉そうに」とか、「狂犬病に罹った狂犬」といった実に多彩な悪口が耳に入ってくるのだが、剛司が近寄った途端、「今日もゴキゲンっすね!」などとおべっかを使い出すのだった。
ただ、アンタッチャブルな疫病神にしか思えないが、周りがへりくだってくるのはいい気分だった。
3人目に話しかけたのは、赤茶けた髪の不良だった。教師を殴って高校中退、と剛司は勝手にイメージした。
「ドクさん」には、「ゴロー」と呼ばれていた。表裏がある人物らしく、「ドクさん」がいるときはまるで忠犬よろしくつきまとっていたのに、いなくなった途端、「ああやっとけば、あんなバカ簡単に操れるんだぜ」とか仲間に息巻いていた。
「おいゴロー、コーラ買ってこい」
調子に乗って、命令してみる。
すると、いままでへいこらしていた不良の表情が一変した。
「ああ? あにハジケてんだこのガキ!」
思いっきり、鼻っ柱を殴られた。まったくの不意打ちだったので、無防備にもらってしまった。鼻血が噴き出す。
「す、すいませんでした!」
鼻血とともに血の気が引いた剛司は、一目散に逃げだした。
「マテやコラァ!」
追ってくるのは怒声だけだったので、簡単に逃走できた。
公園で一息つく。
「はぁ。怖かった。なんだったんだ……痛っ!」
トイレの水道でハンカチを濡らした。鼻を拭うと、鈍い痛みが走る。幸い、出血はもう止まっていた。
『ごっめーん! あの魔法は、10分しか保たないの、言い忘れちゃってた!』
リーノが、両手を合わせて謝る。
「そっ……まあ、いいや」
そんな大事なこと、『言い忘れた』で済ませるな! という怒号を、剛司はすんでのところで呑み込んだ。怒鳴ったところでどうにもならない。
考えようによっては、パンチ一発で済んだのは幸運と言えるだろう。場所とタイミングが悪ければ、袋叩きに遭っていたかもしれない。
スマートフォン内のゲージを確認すると、また空になっていた。
解答2:本鳩勇⇒ほんばといさむ⇒ほんとばむさい⇒ほんとはむざい
⇒ホントは無罪、です。
ストーリーの役どころも踏まえたアナグラムを心掛けているのですが、ちょっと苦しい(笑)
問題1の「岸手れいり」に関しては、ストーリー進行の都合もあるので、正解発表はもう少し控えます。




