黒い幼女<楽園編3話>
新章から、人名に関する問題をあとがきに書いてます。
解かなくともストーリーに関係ありませんが、いろいろバレます(笑)
ヒントは「アナグラム」です。
「ま、まぶしっ!」
トイレの個室で、剛司は思わず目を覆う。満員電車の中であれば、ちょっとしたパニックが起こっていたであろう。
明滅は次第に収まっていく。光が、図形のようなものを描き出した。円の中に十字と四角形が入り混じった、随分複雑な図形だった。
「ちょっと演出過剰じゃないか? でもこの派手さは……」
期待していると、画面に大きく、<WRレア ゲット!>という文字が躍った。
「おいおい、マジかよ。当てちゃったよ」
にやけつつも、どんなキャラクターか確認しようとした。
だが次の瞬間、冷静さは吹き飛んだ。
『やっほー、お兄ちゃん、召喚してくれてありがとー♡ 私は、リーノ・カラスだよー!』
画面いっぱいに、幼女の笑顔が映し出された。本来なら、ゲームのキャラクターが話しかけてくるというのは、驚くような演出ではない。
だが褐色の、10、11歳に見える少女は、明らかに意思を持った瞳で剛司を見つめてくる。褐色の肌で、黒い髪をサイドポニーテールにしている。毛皮のような生地の、黒いワンピースを着ていた。ただし、ノースリーブで丈が短いので、肌色率がかなり高い。
『で、このコは“ク―ちゃん!” 私と一心同体なの!』
右手にはめている黒い手袋を突き出す。パペットのように目鼻がついた手袋で、犬の頭をしていた。パクパクと手を動かして黒犬が話す素振りをする。
<リーノ・カラス>だけではなく、右手のところに<クー>とアイコンが出ているのも、なかなかに芸が細かい。
異常に滑らかに動くことに、剛司は驚嘆した。
「え、あ、ああ、よろしく。俺は、大嶋剛司……」
相手のテンションに押されて思わず名乗ったあとで、自分はゲーム画面に向かって何を返事しているのか、と考えた。
『じゃあ、ごーしお兄ちゃん、って呼ぶね♡』
満面の笑みを浮かべた言葉に、剛司は度肝を抜かれた。こちらの音声を認識して、返事を返してくるとは。海外の技術だろうか?
どこまでがプログラムか分からないが、課金する価値は充分にあると思った。
実は、リーノの外見や喋り方は、かなり剛司の好みだった。彼は年下好きである。単にWRレアというだけでなく、大当たりを引いたかもしれない。
大嶋剛司は、教師の出頭命令も、掃除当番も無視して、帰宅の途についていた。
『ごーしお兄ちゃん、チャージしてっ!』
満面の笑みで両手を広げるリーノ。剛司は、「チャージ」なるものを、課金することだと判断した。
「いいぞ。いくら?」
『2っ!』
両手の人差し指を突き出して答える。2万なら、課金の額としてはかなりお安い。だが、もし20万の意なら、高校生に手が出る代物ではない。かといって、見逃すにはあまりに惜しい。
「……2万課金すればいいのか?」
キャラクターが滑らかに動いたり、話しかけてくる目的は、こうして露骨に課金を催促するためなのかもしれない、と思い始める剛司だった。例えそうであっても、後に退く気は毛頭ないのであるが。
『ちーがーうよっ! リーノと遊ぼ! 今から、リーノが言う数字を、スマホで押してね。がんばったら、ごほーびがあるよ! さいしょが、2!』
どうやら、ミニゲームを持ちかけているらしい。だが、動作がいちいち艶めかしい幼女だった。
(そんな機能もあるのか……?)
言われるままに、スマホの「2」をプッシュする。
『どんどんいくよー! 7、9! 4、6、0!』
次々飛んでくる指定を、難なくこなしてゆく。指示されたボタンを押していくうちに、画面下のゲージが増えてきていることに気付いた。
『ちゅーもーく! これが、“魔力ゲージ”だよ! 溜めると、すっごいいーことあるよー♡』
あのゲージを満たすことが、特殊なイベントのキーになっているのだと見当をつける。まだゲージは3分の1も満ちていない。
『あ、ごーしお兄ちゃん、あれ欲しいー』
突然、幼女が上を指した。思わず見上げると、雀が電線に止まってくつろいでいる。
「スズメか? どうしろってんだ?」
画面外の、外界のことまで認識できるのだとしたら、高性能にも限度がある。
『とって! カメラで!』
試しにスマホを掲げ、雀をパシャリと撮影する。すると、電線の雀が、まるで手品のように消えてしまった。
「……えっ?」
思わず目を擦る。やはりいない。
『見て見て、かっわいー♡』
画面では、幼女が雀を手の平に乗せて、嬉しそうにしている。雀は、CGでディフォルメされていて、元気に飛び回っていた。
「……は?」
いよいよもっておかしかった。
『あ、このトリさんのおかげで、ゲージがいっぱいになったよ!』
いつの間にか、ゲージがいっぱいになっている。さっきはミニゲームを頑張っても、3分の1も貯まっていなかったのに。雀一羽撮影したことが、そこまでゲージを稼ぐことになったのだろうか。剛司には基準がさっぱり分からなかった。
『さっき言った“すっごいいーこと♡”教えちゃうね! まずは、ヒトのいるとこに行こうよ、おにーちゃん』
「あ、ああ」
生返事をして、人通りの多い商店街を目指した。この幼女の言葉には、逆らい難い引力のようなものがあった。
『あー、おいしかった♡』
気が付けば、画面の雀はいなくなっていた。
解答1:「亜蘭樹」⇒あらんいつき⇒あんらつきい⇒あんらっきぃ⇒アンラッキー です。こんな感じです(笑)
新章の人名は全てこのようなアナグラムで作っています。
問題:大嶋剛司の語源は何でしょう?




