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卑怯者の殺戮遊戯

帰宅したので投稿です。

 授業が終わり、下校する樋口を尾行する人影があった。


「学級委員の優雅が樋口ひぐちのことを気にかけるのは義理堅いで済むけど、僕が付き合う理由はないぞ? さっさと帰って、テレビでバカな2世議員を見物する方がマシだ」


 半ば引っ張ってこられた七瀬は不平顔である。


「世界一不毛な時間の潰し方じゃない、それ。どうせ体空いてるんでしょ。第一、七瀬だって思うところがあったから、大人しくついてきたんじゃないの?」


 その通りだった。嫌な予感がしたのだ。食堂でフェレスが言った台詞。


『人間が堕ちるキッカケは、権力や暴力であることが多いですわね』


 訳知り顔でフェレスは言った。無論、1高校生に過ぎない樋口啓二ひぐち・けいじが権力を得ることはあるまい。

ならば、何かしら別種の力を手に入れたことになる。


「まさか、“魔法売ります!”に手を出したんじゃないだろうな」


 焦燥しょうそうの源はそこだった。


「自分のことを棚に上げてると、非難は楽でいいわよね」


 優雅の再三の念押しにもかかわらず、“魔法売ります”に手を出した(使い魔を受諾してしまった)七瀬に言う権利はない。


「……あー、うん、すみません」


 都合の良い偉人の名言が検索できず、素直に謝る。


 視線の先にいるクラスメイトは尾行に気づいていないようだ。


『可能性はありますわね。彼は有資格者ですもの』


 独り言のつもりだったが、フェレスが返答する。


「へー、魔法に資格ね、素質じゃなくって。私には資格あるの?」


 なぜか鋭い視線を白尽くめに送りつつ、質問する優雅。


『無い方が、わたくしには喜ばしいですわね』


 にべもない返答だった。




 樋口は昨日2人が帰宅した通学路をたどっている。


「もう少し歩けば私の町内会に入るわね。樋口君の家って、近所じゃなかったはずだけど」


 七瀬は「ああ、あの“廃屋”の近くだな」と言いかけて、優雅の機嫌が悪くなりかねないことに思い当り、とっさに飲み込んだ。


 やがて通学路を外れ、狭く暗い界わいの細道を入り込む。


「ここって、学校が“犯罪が多発してるから近寄るな”って言ってた辺りだよな」


 名刺を出しただけで捕まる業種の関係者が多く、その予備軍も多い。そのせいか犯罪事件も多い。昨日七瀬が遠回りしてでも優雅に同行した原因だった。


 入り込んですぐに、樋口は2人連れの男達に呼び止められた。あまり人相のよろしくない2人組は、早速さっそく樋口を怒鳴りつけている。難癖をつけて、金品を巻き上げるつもりのようだった。


「いやー、カラみ方とかすごみ方とか、堂に入ったもんだ」


 妙な方面で感心している少年。大声だったので内容まで聞き取れた。


「あの人達、恐喝や窃盗せっとうの常習犯よ。地域新聞に載ってたわ」


 地域活動にもマメに参加している優雅である。


「さすが優雅。道路清掃のリーダーを務めるだけあって、社会のゴミにも詳しいね」


 辛らつな事を言ってのける七割の男。


 樋口が何事かささやいた。声が小さくて2人には聞きとれなかったが、黒いモヤのようなものが立ち込めて消える。

 途端に2人組の一方が苦しみだし、目を押さえてアスファルトを転げまわった。そこに、金属の輝きが一閃。樋口が刃物で切りつけた、と理解したのとほぼ同時に、男は首筋から血を流して倒れこんだ。


 赤黒い絨毯じゅうたんが広がってゆく。

 それが何を意味するか七瀬が理解するよりも早く、物陰から飛び出すたおやかな影があった。


「ちょっと、樋口君っ! 何やってるの?」


 優雅である。いても立ってもいられなかったらしい。


『早死にする御仁ですわね。残念ですわ、中世でしたら良い騎士になれてたでしょうに』


 ちっとも残念そうでない口調のフェレス。


危死きしの間違いじゃないかな。参った。瞬間、潔癖症なのを忘れてた」


 樋口が犯罪に関わっていると判断がついた時点で、こんな事態を招くことを予想しておくべきだった。慌てて七瀬も少女に追随する。殺人者はまだクラスメイトの接近に気づかず、残りの不良にかまっていた。残忍な笑みを漏らしてつぶやく。


「ナイトコバル、息を吹きかけろ」


 今度は七瀬の耳にも届いたが、意味はさっぱり分からなかった。再び黒い霧が立ち上り、不良に吹き付ける。先の仲間と同じく、目を押さえて絶叫した。


「ぇねえ! 暗ぇ! マジか? マジで?」


 しゃがみこんで、嬰児みどりごのように震え始める。


「ビンゴだな、運悪く」


 明らかに超常の部類に入る力。悪い予感は的中したようだった。


「止めなさい、樋口君!」


 優雅が息を切らせて叫ぶと、ようやく男は外野がいることを知った。


「委員長かよ。尾けてたのか? ちっ、面倒臭え」


 バタフライナイフを不良の背中に突き立てた。断末魔の悲鳴が響く。凶器を引き抜くと、血が糸のように尾を引いた。


「だ、大丈夫? すぐ救急車を……」


 制服が汚れるのも構わず傷口を押さえようとする彼女に、樋口が酷薄な笑みを浮かべる。


「ナイトコバル、息を吹きかけろ」


 仕組みは分からないが、効果は明らかだった。3度(みたび)黒い息吹が巻き起こる。


「逃げろ、優雅!」


 七瀬の叫びは一歩及ばなかった。少女は黒い霧を浴びる。優雅はおろおろと取り乱した。


「真っ暗に……。……音も……」


 目は開いているが、焦点が合っていない。あらぬ方を見つめていた。


「へえ、七割もいたのか? 丁度、2匹殺ったぐらいじゃ物足りなかったんだ」


 樋口の目には憑かれたような、常軌じょうきを逸した光があった。心の均衡を欠いている。元からそうだったのか、殺人を重ねて変質したのかは定かでない。




挿絵(By みてみん)




「今日は4匹、新記録だ! ナイトコ……」


 言いさした殺人鬼に、とっさにカバンを叩きつけた。油断していたところをまともに食らって転倒する。期待通り、言葉を中断したら黒い霧は湧き出さなかった。


「逃げるぞ、優雅!」


 目の見えぬ優雅の手をとり、有無を言わさず引っ張った。


「きゃっ……七瀬?」


 なんとなく相手を認識したらしい少女は、たどたどしくついて来る。


「くそ、殺してやる!」


 殺人鬼の怒号が2人の背中に叩きつけられた。



13日中にもう少し投稿する予定です。

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