夜宴の舞台裏
語ってない裏話もありますが、長くなるので割愛。
眼前の、黒矢を従えたフクヌシユウガは、自分を“偽物”と言った。
「すり替わった、って……じゃあ本物の“優雅”は?」
本物が幸せになっていればここまで話がこじれていない、と分かってはいた。
『何となく、悲惨な結末をみたことは想像がつきましたけど』
無感情に加える使い魔。
「鋭いわね。私がそんな簡単な真実にたどり着けたのは、全てが終わった後だった」
逼迫した子どもは思い至れなかった。“本物”が自分の身代わりになったことに。自分の存在を、肩代わりさせられた人間がいたことに。
単に“あの家”から、子どもは、居なくなったのだと思っていた。
「本来の“優雅ちゃん”は、私の身代わりとして廃屋に、あの酷い両親と棲むことになってしまった。そして入れ替わって間もなく、私の父親に殺された」
静かに、頬を涙が伝った。
「随分後に、事件が明るみに出て私はそれを知った。そこでやっと、私は“優雅ちゃん”を犠牲にしたことを知ったのよ!」
血を吐くような叫び。
「死にたかった。死にたいほど後悔した。でも、そんなことは許されない。どんなことをしてでも、“優雅ちゃん”を助けなければならないの。だから優雅ちゃんの存在を奪ってのうのうと10年、この夜を待った」
少女は、「優雅」と呼ばれる度に。何を思って10年を生きたのだろう。
『10年後のヴァルプルギスナハトを。5歳の子どもが、ですか』
「そうよ。願い事を叶えて入れ替わったのなら、もう1度入れ替わるよう願えばいい」
ふと、七瀬に疑問点がよぎる。
「……待てよ。それって、“今の優雅”はどうなるんだ? 10年前は生者と生者の取替えっ子だったんだろ。でも今回は」
一方の「福主優雅」は既に故人である。
『生者と死者の交換、ですわね。恐らく現在のユウガさんが死に、替わりに本物の優雅さんが甦ることになるのではないかと』
至って冷静な分析をする白尽くめ。
「なっ……! 何考えてんだ!」
「だって、それが本来の正しい筋道でしょ? 本当なら10年前に殺されてたのは私だったはずだもの。“福主優雅”を返す。奪ってしまった10年も、必ず償う。悪魔に魂を売ってでも」
ユウガは、至極当然、といった風で答えた。
「私が死んで、“優雅ちゃん”が生き返る。悪人は死んで、善人が救われるの、ハッピーエンドじゃない」
悲壮感はなく、やはり彼女は整然と己を悪人と、己が死ぬことを正しいことだと言った。
「七瀬は私のことを“真面目だ”って言ってたでしょ。当然よ、入れ替わった後、“優雅ちゃん”に立場を明け渡すんだから。帰ってきたあの子が、困るといけないもの」
「……なんてことだ。やっぱり僕は、七割の節穴だ」
七瀬の知る「福主優雅」が誠実で清かったのは。踏みつけて奪ってしまった少女に対する償いだったのか。
瞬間、少年に不吉な仮定が走った。
―――願いの叶え方に、ルールがあるんじゃないか?
―――ユウガも、それを詳しくは知らないのではないか?
仮定は突破口ではなく、更なる疑惑の入り口だった。
ユウガが話を続けている。
「七瀬の手助けが必要なの。きっと、私にはトランクの所有権が移らないから」
フクヌシユウガは切実な表情で言った。彼女はいわば、招待状を持たない闖入者である。
正規の手紙の主たちのように、持ち主を殺しても所有権が自分に移るかどうか、甚だ疑問だった。証左もなしに試してみるのは、リスクが大きすぎた。
トランクの所有者は、七瀬でなければならなかったのだ。
「ああ、そういうことか」
トランクに貼られた白いラベルを見て納得する。だからユウガは、トランクを盗み去る機会があっても実行しなかった。
「協力して、七瀬。“福主優雅の交換”を願うのは、所有者でなければならない。そのために私は生きてきたの」
手を差し出す。七瀬はたじろいた。
「い、いやだ! 今の優雅には手を貸したくない! 自殺するからロープをくれって言ってるようなモンじゃないか!」
少女に背を向けて走り出した。トランクが惜しいというわけではない。少女が死ぬきっかけを作ってしまうのが怖かった。
黒矢が飛来する。真横にあったビルの瓦礫に命中し、消失した。
「今のはわざと外したのよ。でも、煮え切らないのね、七瀬は。こっちは引かないわよ。第一、私はあなたのことを利用してたんだもの」
「り、利用? 何辺で?」
動揺する七瀬。同意したのは使い魔だった。
『そうですわね。ナナセを利用しなければ、ヴァルプルギスナハトに再戦できませんもの』
ピクリ、とユウガの動きが止まった。
『夜宴に参加する資格のある人間は、“魔法売ります!”に選ばれた者だけ。でも今の彼女、“福主優雅”に手紙は届かないでしょう?』
「あ、そうか。今の優雅は“死んでも誰も困らない者”じゃない……!」
「……私がどんなに価値の無い人間でも、“福主優雅”はそうじゃない。両親から愛情を注がれ、学校で期待される人間。“優雅ちゃん”が還って来たときのために用意した環境よ」
そのお陰で、手紙が届かないだろうことが彼女にも予測できた。
フェレスが抱いていた優雅の、人造物のようなイメージ、歪みは懺悔と決意の現われだったのだ。
「だから、考えたのよ。“死んでも誰も困らない人間”を探し出して、5月1日近辺に張り付いていれば、ワルプルギスの夜に乱入できるかもしれない、って」
誰に目をつけたかは、言わずもがなである。
コーヒーがおいしかったので、今日中にもう1話投稿できそうです(意味不明)




