クラスメイトへの疑念
ヒャアア! 夜まで我慢できねえ! 外出前にもう一話投稿だ!(意志薄弱)
「樋口啓二、高校1年生。親しい友人はなく、クラスでも孤立気味。授業中立ち歩いたり大声で独り言を言ったり、とかく問題行動が多い生徒だね」
昼休み。食堂で七瀬はピラフを口に運びつつ、後方に居る同級生の評判を述べていた。樋口は陰気な顔でパンを食べているが、時折くぐもったような笑みを漏らしている。
「両親がモンスターペアレントって噂もあるわね。樋口君が暫く学校に来なかった原因は、“うちの子どもが遅刻しないよう教師が車で送り迎えしろ”とか要求したからでしょ?」
隣の優雅は弁当を食べつつ同意する。学級委員の彼女は、殊の外彼に手を焼いていた。 報告される側である白尽くめは、聞いているのかいないのか、真剣な面持ちで食事に臨んでいた。七瀬が運んでやる麺を器用にすする。
『オリエンタルの粋ですわね、この稲庭うどんは! 神が農耕を欲深いと定義したのは誤りのようですわね』
七割の男お薦めのうどんを食べて絶賛していた。どうにも子どもらしい一面を持つ使い魔である。銀髪、銀の瞳に似合わず、味覚も日本人に近いようだった。
「オリエンタルの粋に感動してるときに無粋なこと言って悪いけど。生き物に口が1つで耳が2つ備わっているのは、人の話をよく聞くように創られてるからだと愚考するんだ」
迂遠な表現である。フェレス相手だと、なぜか強く出られない七瀬だった。
『心配せずともきちんと拝聴しております。早く食事の続きを』
催促されて、親鳥の真似事を再開する七瀬。優雅は冷ややかな視線を鳥の親子に送った。
「私たちの情報はこれだけ。正直、樋口君が人殺しをするような性格か、判断するには材料が足らなさすぎるわ。掃除や班単位の実験でも無視を決め込んだり、不真面目だとは思うけれど」
「絶対に殺人などやっていない」とは言わなかった。
「そうかな。鬱屈した人物だと僕は思うけどね。学校で色々やらかすのは、注目して欲しいとか、人とは違うと思い込みたいからとか」
給仕のせいで冷めてしまった中華スープをすする。
「うーん。主張したいならスポーツとか勉強でアピールすればいいのに。じゃあ、両親がモンスターペアレントなのは?」
建設的な意見を述べる優雅。実直な彼女には想像しづらい人物像であろう。
「愛情じゃないな。子どものご機嫌取り。腫れ物に触るように接してるんじゃないかな」
七瀬の人物観察は的確で冷酷だった。
「おお、観察力は七割じゃないのね。スポーツとか勉強で使いなさいよ、それ」
手放しの賞賛とは言い難かった。どう受け取ってもやぶ蛇である。
『教室でも誰とも会話しておりませんでしたし、食事も1人なのですね』
誰にも話しかけないし、話しかけられない。他者にとっては空気同然の存在である。
「“孤独を愛する者は野獣か神のどちらかだ”ってベーコン先生は言ってるけどね。血の臭いさせてて神様はないな。神様に会った事ないけど」
樋口がどちらに橋かけているかは自明だった。
「あのさ。血の臭いで、どこまでのことが分かるんだい?」
うどんを運ぶ手を止めて尋ねる。警察犬のような真似はできませんよ、と断っておいて、
『血に混じる鉄の臭いですが、錆臭いものと新鮮なものがあります。古いのは2日ほど前、新しい臭いは今日の未明ですわね』
ある意味警察犬以上の成果を語る。報酬をよこせと言わんばかりに目でうどんを催促した。
「七味追加しとこうか。……2日前ねえ」
その単位に聞き覚えがあった。
「確か、樋口の両親から学校に連絡が来なくなったのも2日前ぐらいからだったよな」
「まさか……!」
優雅も、少年の言わんとしている事を察して絶句する。
「……まさか、樋口が両親を殺した、のかな?」
空恐ろしい仮説を口にした。
「まったく、いい気分だ」
樋口啓二はご満悦だった。こんなに清々しい気分になったことなど今までない。
どうでもいいことばかり喋ってコミュニケーションを強要する両親も、自分より優秀な成績を誇示する嫌味な兄も居ないのだ。
彼らは樋口のせいで物言わぬ存在となってしまったが、何らの痛痒も感じなかった。インターネットの書き込みでうっぷんを晴らすような、コソコソした行為はもうする必要がない。彼には直接手を下せる力が手に入ったのだ。
「さて、今日はどこで”狩り”をしようか」
まるでゲームにでも興じているような感覚。現実感覚など備えたことは一度もない性格だった。
食堂で薄笑いを浮かべる彼には、誰も近寄らなかった。
今度こそ次話は夜に投稿します。すいません。