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疑わしきもの

土曜中に投稿できました。めでてぇ。

 七瀬は巨大なランスを突きこんだ。唯一縫い目がほどけていた胴部へ、穂先が抵抗なく突き刺さる。

 縦横じゅうおうい目が一斉にほころび始めた。


「お、おいっ?」


 腕や頭がグラグラと揺れ始めて、林道が狼狽ろうばいする。


「タンカーの方が歯応えがあったね。優雅の無事を確認しないまま死ねるか」


 すきだらけの怪物の頭部を、戦槌ウォーハンマー殴打おうだした。縫い目が全て千切ちぎれ飛び、それに繋ぎ止められていた身体が、粉々に砕ける。


「ぐふっ」


 体内から掘り出された林道が地面に倒れる。同時に肉塊の残骸は煙のように消失した。

 それを確認した後で、七瀬は喧嘩屋けんかやを影に格納した。民家の影から姿を現す。


『快勝でしたわね』


 疲労ひろうした様子の少年に、フェレスが呼びかける。


「どこが! 三半規管がイカれるくらいなぐられたよ。それで、林道先輩、優雅は?」


 林道の肩をつかんで詰問きつもんする。焦点しょうてんの合わない目で、男は七瀬を見た。


「優雅……? だから、誰だよ、そいつ」


 ほうけたような声。嘘をついているようには見えなかった。激昂げっこうしたのは七瀬である。


「ふざけないで下さい! 駅の構内ですか? 怪我けがなんてさせてないでしょうね?」


 ガクガクと肩を揺さぶる。


「優雅ねえ。確か俺は駅で……あ……」


 顔色が徐々に変質してゆく。悪鬼のごとき形相に。


「あ、あの女ぁ、よくも俺に……!」


 続いて吐き出されたのは、言葉ではなく、血だった。尋常じんじょうでない量の喀血かっけつをして、横転する。


『ナナセ、これを!』


 使い魔は、バイクの近くに転がっていた水筒とクーラーボックスを主人に投げ渡した。持ち主が死ぬときに、これらの災厄さいやくを手にしていた者が、新たな所有者となる。


「おっとっと。壊したらえらいことだ」


 林道から手を離してキャッチする。滝のように血を吐いた林道は、それきり動かなくなった。土気つちけ色の死相を確認し、処置のしようがないことを悟る。


「し、死んでる。喧嘩屋での負傷がまずかったか。フェレスの機転のおかげで、災厄を解放せずに助かった」


 さすがに申し訳無さそうに、七瀬は林道に合掌がっしょうした。

 クーラーボックスと水筒の黒いラベルが、七瀬の所有であることをあらわす白に変化した。


『道化が死んだか。まずまず、舞台を盛り上げたかのう』


 氷のように冷たい、血の通わぬロックブーケの声だった。


『あの女、とはどなたのことでしょう?』


 意味ありげな視線を送る少女。


「喪服美人のことじゃないかな。弱い喧嘩屋だったもんで、逆恨みしたんだよ。きっと」


 黒い貴人を見上げて七瀬が答える。林道と直前に接点があった「女」ではある。


『そうでしょうか。わたくしは……』


「七瀬、無事だった?」


 けげんな顔をするフェレスの言葉にかぶせるように、構内から飛び出した優雅が叫んだ。


「優雅こそ、怪我してるじゃないか」


 口元を伝う朱を見て明らかに狼狽する七割の男。


「唇を切っただけよ。気を失ってたみたいだけど、他には何ともないわ。七瀬こそ、半殺しどころか七割殺しになってないか心配したんだから。……林道先輩?」


 遺骸に言葉を詰まらせる少女を、値踏ねぶみする目つきの悪魔が1人。

 優雅のソックスに、黒ずんだ丸いあとが残っている。恐らくは逃亡防止のために、林道に傷を負わされたのだろう。


 だが優雅は、痛いそぶりも見せず駆けてきた。しかも前日、樋口からの逃走の際に痛めた方の足であるのに。

 更に、林道の最期の台詞せりふと自分の疑わしげな声はどちらも中途でさえぎられた。林道の死は本当に七瀬との争いが原因だったのか。使い魔の言葉は本当にたまさか遮られたのか。


『疑わしきもの……なんじの名は女なり、ですわね』


 使い魔の声は闇にまぎれて消えた。







 薄汚れた借家前は、野次馬と青い公僕(警察)で埋まっていた。物々しい雰囲気が、犯罪がらみであることを嫌がおうにも知覚させる。

 大方、借金を返せなくて強盗でも働いたのだろう。少女は冷えた目で景色を見やった。


「そういえば――さんの家、前から子どもの姿見てなかったわ。心配してたのよ」


 近所の主婦のささやきが聞こえる。自分は、その主婦には声をかけられたことすらもない。しょせん、話の種になる程度の「心配」なのだろう、と久しく忘れていた暗い考えがよぎる。 


 自分の姿を見ないのは当然のことだ。自分は生まれ変わったのだから。

 だがそれが、警官や「心配」とどう結びつくのか判断がつかなかった。


「床下から発見されたんですって。母親の方は搬送先の病院で死亡したって」


 黄色いテープを貼る警察官を、見るともなしに見ていた少女に疑問符が浮かぶ。

 何が発見されたと言うのだろう?


「まだ5歳だってのに、可哀想よねー。子どもを殺害して、毎日のように埋めた死体の上でんだくれてた父親は最低よね」


 義憤ぎふんにかられて大きくなる野次馬の声が、遠くで聞こえた、気がした。





バトル続きます。

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