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黒い淑女

午前中に投稿できました。

「うわー。すっげえ! あの怪物が御祝みいわい君の魔法か! いいなあ!」


 鎧巨人から約200m離れたビルの屋上から、林道が歓声を上げた。


「おーおー! 車をスルメみたいにノしてら。強い強い。聞いた通りだ。逃げるんなら手ぇ貸してやろうと思ったけど、必要ないな。全滅させちまいそうだ」


 足元には数本の鉄パイプ。隣で琴音がタロットカードをもてあそびながら見物している。


「アレが、琴音さんの言ってた悪魔デビルのカードの正体だな? 凶悪そうな面構つらがまえだもんな」


 周囲の建造物よりも、倍以上の高さを誇る巨体を指差して言う。


「林道君。君、古典ぐらいは読んだほうが良いわよ?」


 琴音は直接返答せずに、カードを1枚めくって、醜怪なデビルの図柄を林道に見せた。


「ホントの悪魔ってのはね。この絵やあんな怪物みたいに、分かりやすい出で立ちはしてないの。紳士然として、あるいは無害そうな顔をして、親切そうに手を差し伸べてくるものなのよ、これが」


「無学で悪うござんしたね。……お? あれは」


 倉庫から、見知った少女が飛び出した。逃走に気づいた数台の自転車が追い始める。


「あれは、生徒会書記の福主ふくぬし君? 彼女も魔法もらったクチか? 助けてやろうか、カワイイしな」


 最後に本音がこぼれ落ちる。

 予算の折衝せっしょうや会議などで度々顔を合わせる仲だった。運営に関する相談もよくしている。

 ただ、林道が救う気になるかどうかの価値基準は親しいかどうかではなく、あくまでも、台詞せりふの最後にあった。


「また同じ高校の生徒なの? 助けに行くんなら1人で行きなさいよ……あら」 

      

 一目見て興味が湧いたのか、琴音は少女の顔を注視する。おもむろに地面にタロットカードを並べ始めた。マイペースな性格である。


「福主君の占い? 今回は本格的な方式だな。俺や御祝みいわい君のときは略式りゃくしき占いだったのに」


 少々不満そうに言う。琴音は全く気にした風は無いが。

 本来は占う対象に、カードに念を込めてもらうのが通例だが、琴音の手法は我流だった。並べ方(スプレッド)は3枚を1直線に並べるスリーカードオラクルという形式。それで、相手の現在、過去、未来を占うのだった。


「ちょっと面白い相だったから、彼女。現在は、っと」


 真ん中に伏せられたカードをめくる。あらわれたカードは女教皇(The High Priestess)。


「現在の暗示は“信念”」


 もう1つの暗示は、“秘密”。


「はは、それっぽい。信念強すぎて融通利かないけどな」


 手を叩いて喜ぶ林道。

 続けて、右側のカード。めくられたのは星(The Star)。


「未来の暗示は“希望”、“財産”」


 もう1つの暗示は、“放棄”。


「なーんだ、つまんねえ、完璧な成功者じゃないか。そりゃそうか、人望あるし、次期の生徒会長間違いなしって逸材いつざいだ」


 求心力と有能さゆえに生徒会長への立候補を勧められたが、「1年で立候補するには役者不足」と本人以外の誰もが首をひねる理由により、今期は断ったという逸話いつわがある。


 最後に、左のカードをあらわにした。琴音は眉をひそめる。


「ナニ固まってんだい。どうせ最後は過去の暗示、とかだろ?」


 林道にとっては、最も興味のない部分だった。


「月(The Moon)……暗示は、敵・欺瞞ぎまん・手ひどい失敗……」


 面食らったのは、普段の優雅を知っている林道である。


「そればっかりはハズレだな、失敗とは縁がありませんって顔して生きてる子だよ。反目する連中もいるけど、敵ってほど嫌われてないし。いっつも人の輪の中心にいるような娘だぜ?」


 林道は、占いをハズレと決めつけたようだった。


「知らないわよ、でもこれだけは言えるわ。あの子、危ういわよ、これが」


 言ってカードを片付ける。言いたいことは言い終わったらしい。


「ふーん。ま、心に留めとくさ」


 釈然としていない様子の林道の目線が、ファストフード店の看板の上にたたずむ黒い女性を捉えた。

 やみごとき黒いドレスを着こんだ女性は、黒い長手袋、顔の上半分をヴェールで覆っている。わずかに見える素肌の部分は、死人のように白い。


 驚くほど露出が少ないのだがしかし、素顔が絶世の美女であることはなぜか確信が持てる。発散される怪しげな妖気のたぐいのなせるわざか。


何時いつまでれているつもりじゃ、リンドウ』


 黒く引かれた口紅を通して、底冷えのする声がつむがれる。


些末さまつなことでわらわを待たせるな。乱痴気らんちき騒ぎは好かぬ』


 長手袋から伸びる人差し指を、首の辺りで水平に引いて見せた。


「へいへい、忘れてねえですよ、お姫様」


 林道は肩をすくめてみせた。琴音は我関せず、といった調子で背を向けて煙草たばこをふかしている。


「ところでさ、琴音さんのビルヴィスって魔法だけど」


 黒い女性にウインクをして、鉄パイプを拾い上げる。ゆっくりと振りかぶった。

 琴音は気だるそうに答える。


「ん? おっかないだけが取りの農夫がなに?」


「俺、それもらうわ」


 占い師の後頭部に、鈍器を振り下ろした。

 



今日中にもう少し書けそうです。

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