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夜宴に呼ばれるもの

伏線張ったり回収したりと大変です。

 市立の高校を前に、短身肥満気味の男が、ぼさぼさの髪を振り乱してわめき散らしている。


「そりゃああ! 魔女の火柱刑(ファイアーステーク)!」


 大仰おおぎょうなポーズをとった後で、両手を地面に打ちつける。

 玄関の床から巨大な鉄柱が突き出し、2階の床まで突き崩した。赤熱した鉄柱は風穴を開けるのみならず、周囲を類焼させ始める。


「ザマーみろ! ちょっとメグに付きまとったからって退学にしやがって! 何がストーカーだ、この四ツ角望夢(よつかど・のぞむ)サマのは純愛だっつーの!」


 無意味に大音声でたけっていた。七瀬は眉をひそめる。


滑稽こっけいですわね。酷刑こっけいに処したいところですわ』


「ま、はたから見てる分には喜劇だね。ところで、優雅がいないけど」


 小声で同意していると、息せき切った優雅が走ってきた。


「やめなさい! 宝石強盗の次は学校を破壊するつもり? ……あれ? 七瀬? 七瀬も言ってやってよ。この人、誰もいないからってお店や学校を襲ってるの!」


 四ツ角の背負っている重そうなリュックサックから、指輪の箱や宝石がはみ出している。


「あー、さっきからうっせえっつーの! せっかくいたと思ったのによ!」


 男は悪態をいている。優雅とはついさっき出会ったばかりのようだ。




挿絵(By みてみん)




「魔女以外は町から撤去させられたんじゃないのかい?」


 七瀬は使い魔に対して質問する。


『あらあら、ユウガさんの強固な意志力が、あの肉ダンゴの悪行を目撃することで、暗示を破ったのでしょう。かつてない珍事ですわね』


 フェレスにとっても予想外だったようだ。


神様オーディンの心理誘導を打ち破るのか、優雅の生真面目さは」


『ありえないはずですわ。億が一それを成したのなら、もはや魔法の領分ですわね』


 不満そうにため息をつく白尽くめ。


「誰もいないってことは、何してもいいってことだろうが。俺が何しても自由だっつーの」


 どうだとばかりに口の端を吊り上げる。本人は正論のつもりらしかった。


「あのね、百歩譲ってそうだとしても、“自由”と“責任を取らないでいい”は違うのよ?」


 内容としても、人の道としても正道である。問題は、相手に聞く耳がないことであるが。


「“必要に迫られれば正直者すら悪漢になる”ってデフォー先生は言ってたけど、正直者でないなら小悪党になるんだな。……ってそれどころじゃない、タンカーが来てるんだ!」


 ロビンソン・クルーソーの名言を挙げた後、大慌てで孤影を指差す。

 同時に、4人にライトが注がれた。船から降りて偵察していたらしい自転車数台が七瀬達を取り巻いていた。


「しまった、斥候せっこうを放っていたのか。歩みが遅いと思って油断した」


 自転車のサドルには運転手を気取っているのだろう、3輪車が乗っていた。


『戦術的には正しい判断ですわね。ナナセの注意力が七割であることを考慮しても』


 タンカーの船首がゆっくりと回頭する。人間を見すえているようだった。


「さっき、ゴミ箱とかマネキンに追い回されたんだけど、アレとは次元が違うわね」


 優雅も色々経験したらしい。自転車の車輪が猛回転する。

 アスファルトとの摩擦でゴムが溶け、嫌な臭いが鼻をついた。


「選ばれた勇者な俺サマがブッ殺してやるっつーの! ファイアーステーク!」


 大ゲサなポーズをとって地面に手をつけると、地面から鉄柱が突き出し、自転車と3輪車をもろともに串刺しにする。

 田楽になった車輪たちは、炎を上げて崩れ落ちた。

 七瀬も懐中電灯を浴びせかけて応戦する。


 だが、対処しきれない物量になりつつある。四ツ角の魔法も複数相手には使えないらしい。

 何より、ライトで照らされていることで援軍の格好の目印になってしまう。


 車たちは慎重に、仲間のライトの範囲に入らないように移動しつつ迫る。


「光が苦手なくせにライト使って追い詰めないで欲しいなあ。知は力なり、か。逃げよう」


 片手でスーツケースを抱え、空いた手で優雅の手を引いて逃げ出す。


「はあ? バッカじゃねーの? ゴメンだっつーの!」


 四ツ角は徹底抗戦の構えだったが、


「ぐずぐずしてると、タンカーにスルメにされちゃうわよ」


優雅の叫びで不承不承ふしょうぶしょう後を追った。


「自転車の入れないところに逃げ込みましょう!」


 優雅のアドバイスを聞き入れたいところだが、今は国道である。心当たりのある手狭てぜまな道までは、まだ少々距離があった。


「くそ、お前ら、もっと俺サマに気を遣えってーの!」


 肥満体の四ツ角は限界に達していた。あごは上がり、息を切らせてあえいでいる。


『散開して逃げていたらあの肉饅頭にくまんじゅう、さぞかし良いオトリになったことでしょうね』


「……まあ、そうもいかないさ。“魔法売ります!”関係者なら災厄を持ち運んでるんだから。それにしても、あんな性格でも“魔法売ります!”の有資格者なのか」


 少々の沈黙と、受け答えに人格が反映されていなかった辺りに、七瀬の本音が透けている。


『あんな性格だから、ですわ。ナナセは気付いていると思っておりましたけれど』


「はえ?」


 間抜けな声を上げる主に、フェレスは意地の悪い笑みを浮かべた。


オージンは意外と繊細なお方です。乳飲み子を抱えた母親に、ヴァルプルギスナハトへの参加を呼び掛けたりはしません。同様に、いとけない童に手紙を送りつけたりもしません。どちらも、遺された者に不幸が伝播でんぱしてしまいますから。死んで誰かが悲しむ人材を、消費したくないのです』


「つ、つまり……」


 そうでない者が、選ばれる。


『あの黒い手紙は、“死んでも誰も困らない者”にだけ送るのです』


明日は夜に投稿します。

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