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神の不在

説明回です。セリフ多いです。


「どしたんだい? 御祝みいわい君を追いやるような真似をして。どんな魔法もらったのか聞きたかったのに。ひょっとして預かり物が“地獄”なんてのだったから恐くなった?」


 少年と別れた後、林道は女性にいた。出会ったときから超非社交的な彼女だったが、御祝七瀬への接し方は群を抜いてひどい。

 琴音ことねは無言で頭を振る。


「怖がる必要なんてないか。琴音さんの“ビルヴィス”は俺のほうきよりずっと強いからな」


「嫌よ、あんな物騒なの」


 林道の抗議を聞き流しつつ、琴音はタロットカードをめくった。


「林道君みたいな嘘吐うそつきじゃなかったけど、あの子とは一緒に行動しない方がいいわよ。……ほら、あの子の暗示」


 カードを見せる。翼の生えた、醜悪な異形の絵が描かれていた。


悪魔デビル。あの子、悪魔に魅入られてるのよ、これが」






「なるほどね、影は強い光を嫌うのか。無防備に思えても、ココは安全なワケだ」


 自動ドアに導かれて無人のコンビニに入るが、商品が動き出す気配は無かった。店員もい

ない中、ラジオだけが熱心に働いている。


『絶対的に安全ではありませんが。強い影や大きな影は光を意に介さないですから』


 物珍しそうに陳列棚を見物している使い魔。


「これでコーヒー成分を補充できる。フェレスは欲しいものあるかい?」


 深煎ふかいりの缶コーヒーを数本、買い物かごに確保しながらたずねる。


『そこのビスケットとチョコレートをお願いします。飲み物はナナセのおすすめで』


 子どもらしい嗜好しこうを披露する。七瀬はリクエストの商品をかごに入れ、レジに向かった。


「消費税の計算が面倒だな……レジって、どうやって動かすんだろ」


 レジの操作をあきらめ、電卓で消費税まで計算してトレイに置いた。

 飲食スペースに移動して、腰を落ち着ける。プルトップを引き上げ、深煎りコーヒーを一気飲みした。


「ふー、美味い。五臓六腑ごぞうろっぷに染み渡るなあ」


 味わいつつ、2本目のプルトップを開ける。

 ひざの上のフェレスにも同じ物を飲ませてやった。熱いので、息を吹きかけて冷ましてやる。


『随分とオヤジ臭い表現で生の実感をしてらっしゃるようですけど、この“ふかいり”とやら、わたくしには苦いですわね』


 頬を膨らませる仕草はいかにも子どもらしい。


「ん、ならカフェオレにしよう。おススメはこれかな」


 白い缶を1本手に取った。

 飲ませてやると、今度はお眼鏡にかなったようだった。


「さて、人心地ひとごこちついたところで、ワルプルギスの夜と“魔法売ります!”について聞きたい。君が頼りだ」


 少女は嬉しそうにうなずいた。


『先にも言いましたが、ヴァルプルギスナハトとは、”神が死ぬ日”のことです。神とは、オージンオーディンのことですわね。他にもヘルメスなど、別名も多々ありますけれど』


 単語だけは聞き覚えのある神だった。


「えっと、北欧神話の神様だっけ。片目の老人とかっていう。姿が想像しづらいけど」


 ゲームで得た浅薄な知識を披露する。ヘルメスはギリシャ神話での名前だった。


『姿なら、さっき年増女に見せてもらったでしょう? タロットカードのハングドマン(吊られた男)は、オージン(オーディン)がモデルですわよ』


 説明されて、琴音がかざした首吊り男のカードを思い出す。


「ああ、あれ神様なのか。初対面が自殺図とは。いや、それは対面って言わないか。それにしても、神様でも自殺するんだ」


 自殺を神聖視する宗教もあることを思い出す。


『5月1日に自殺して、至高神となって5月2日に復活するのです。オージン(オーディン)はそれを10年おきに繰り返しています。つまり今年の5月1日は、神が1日だけ不在の日なのです』


「あー、太陽が沈んだのってそれが原因か。太陽は神様の後をついて回るって言うもんな。神様がいないと職務放棄するんだ。それで、ワルプルギスの“夜”に夜祭か」


 ポンを手を打ち合わせる。


『太陽以上に重要な問題は、今日ばかりは、"機械仕掛デウス・けからエクス・てくるマキナ”が機能しないことです』


 少年はあっ、と声を上げた。"機械仕掛デウス・けからエクス・てくるマキナ”。悪が働こうとすれば神による制裁を受ける仕組み。今日はその庇護ひごが受けられない。


「そうか、神様が死んでるんだから天罰装置が働かないんだ!」


 常は神の威光によって抑えられている存在が、5月1日だけは自由になってしまう。


『そのための“魔法売ります!”なのですわ。オージン(オーディン)は魔法を生み出した神です。事前に有資格者に魔法を貸与し、箱詰めした災厄を送りつけて“お守り”をしてもらうのです』


 喋ってのどが渇いたのだろう、目線で催促する。七瀬は給仕をしてやった。


「地獄なんか野放しにできないもんな。君を送り込んだのは神様で、僕は金庫番ってワケだ。“魔法売ります!”って神様からの手紙だったのか。“現実は常に公式からはみ出す”ってファーブル先生が言ってるけど、限度がある。……ん、待てよ」


 コーヒーを注入したからか、思考が冴え始める。


「多分、犬小屋や木の影ってのも災厄の一部だよね。梱包こんぽうされてないのにも理由がある?」


『わざと梱包しなかった、というのが実情でしょうね。アレは別に自由意志を持っているわけではありません。あえて言うなら人間の影、鏡なのです』


 フェレスの説明を独力で理解するのは困難だった。


「……すいません、無学なわたくしめにもうちっと分かりやすい講義をばお願いします」


 見栄を張っている状況でもないので、素直に頭を下げた。


『素直でよろしい。かいつまんで言いますと、多血質(エーテル体)粘液又は星遊体(アストラル体)をあわせ持つのは人間と動物しかおりません。あの木や犬小屋の影は、人間のエーテルやアストラルの残滓ざんしによって突き動かされているのです。影にいて、本体を動かして』


「全然(かゆ)いところに手が届いてませんが、と講義に抗議したいです」


 小さく手を上げておずおずと言う。


『要は、人間がそのもののことをどう思っているか、に影響を受けるのです。例えば、先に襲ってきた樹木などは、常日頃人間から鬱陶うっとうしく思われていたのでしょう。注がれた負の感情の影響を受けて、敵対的な行動をとる』


「あ、あの木、落ち葉の掃除が面倒だから切りたがってるとか聞いたことあるな。要は、仕返しか」


 隣家の事情を思い出す。


『人間の負の感情を燃料に動いていますから、強弱は疎まれている期間や度合いに拠りますわ。大抵は光で照らせば撃退できますわね。人間に必要とされている物――使われているもののことですが――は敵対しないはずです』


 コンビニに陳列された商品が動き出す気配が無いのは、光云々(うんぬん)以外に、必要とされているからでもあるようだった。



次の目標は10万字です。

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