夜宴の始まり
お待たせしました。いよいよ始まります。
翌日、5月1日。
七瀬は6時40分にソファで起床した。気だるげに身を起こす。
前日と同じく、フェレスは家にいる間はほとんどパソコンの前から離れない。よって七瀬もパソコン周辺から遠出できなかった。
ディスプレイを見ると、今回は「薔薇」で検索している。好きなのだろうか。
「さて、朝御飯を作るか。フェレス、苦手なもの又はリクエストあるかい?」
『和食が良いですわ。卵焼きと焼きノリ、納豆あたりで。なんだか郷愁を誘います』
外見に反し、日本人的な味覚の使い魔だった。
早く起きたのは、客間に優雅が泊まっているからだ。七瀬のことを気遣っていたが、やはり昨日の件はこたえたのだろう。
疲労がたまっているようだったので、夜道を帰すのも危険と思い、客間をあてがった。ドアをノックする。
「おはよう、早めに食事にしよう。服や教科書とりに一旦帰るんだろ?」
ところが、少女はノックが終わる前に出てきた。すでに身じたくを済ませている。
「おはよう、七瀬。私もう出るから、ご飯は遠慮するわ」
玄関に移動しながら言う。
「え? 何か急ぎの用でもあったっけ?」
昨日は特に言ってなかったが。
「早く出るのは当たり前じゃない。だって……」
至極当然に言葉を続ける。
「だって、今日は5月1日なんだから」
だって、とそれに付随する言葉との関連性が理解できない。行くという優雅を止める方便もないので、玄関で見送る。
「やれやれ、なにがあったんだか」
キッチンに帰ってすぐ、電話が鳴る。受話器をとると、七瀬の母親からだった。
「母さん? 今日の朝帰るって言ってたけど」
(今日? 今日は帰れないわよ。だって)
さも当然、とばかりに言う。
(だって今日は、5月1日じゃない)
通話は切れた。ここに至り、何かがおかしい、と七瀬も悟る。
外に飛び出した。
道路は人と車でごった返していた。それも、今の時間帯は市内に入る道路が混雑しているのだが、今日に限っては逆である。徒歩の者も車も皆、市の外を目指している。市内に入ろうとするものは皆無だった。
「お、おい近藤!」
人の群れに混じる知り合いを見つけ、声をかける。
「どこに行くんだ?」
「まだ決めてねえよ。でも、今日はここにいちゃだめだろ。5月1日なんだから」
旅装の同級生はそれだけ告げてさっさと歩み去った。
10分後、辺りはすっかりと無人になる。
「そして誰もいなくなった……って、古典の名作をひねり出してる場合じゃないよな」
閑散とした町並みを眺めてつぶやく。
『当然ですわ。今日は5月1日ですもの。この街には魔女しかいられないのです』
いつの間に外に出たのか、フェレスが訳知り顔に言う。
呼応するように、天空に異変が生じた。昇りかけていた太陽が向きを変えて沈んでゆく。午前7時。辺りは真闇に包まれる。
「5月1日? 魔女?」
『主なる神が死んで、光の届かぬ日。全てがひっくり返る日ですわ。貴方は主賓です。ようこそ、ヴァルプルギスナハトへ!』
今回は短いです。




