アタシと不毛な仲間割れ?<楽園編84話>
またもや長いです。文字数記録更新。
「どうやら、我々が把握しきれていない魔法所持者たちが、まだいるようだ」
ボスは、アジトに来るなり全員を集めてそう言った。こんな直線的な言い方するのは珍しい。なんか怒ってる?
フツーは自分勝手に三々五々集まってくる連中なんだケド、今回はリーダーの非常招集があったんでけっこう集まりがいいな。集まれてないのは、どうしても外せないオシゴトがあるから、なんて殊勝なヤツはいなくて、「睡眠導入剤キメすぎてラリッてました」とか、そんなだ。
「大嶋剛司捕獲は延期するが、居所が判明し次第、また集まってもらう。役割を指示しておくので、各自連携をとってもらいたい」
「居所が判明し次第」ってコトは、やっぱり占いの“材料”は持ってこれなかったか。
でも、ゴールデンバットふかしながら仰いますがネ、連携って、ダメ人間ズが一番できないことデスよ?
矢なら3本束ねれば折れないカモだケド、ダメ人間は藁よりモロいから、何本束ねてもムダムダ。
ブタ三兄弟の長男のごとく、藁で小屋を作ったリーダーは、それに気づいてるんだろか。
「宇平君には、人除けの結界を頼む」
「……うぃっす」
ケンヂと呼ばれたら起こる宇平ケンヂは、缶ジュースのラベルを読むフリをしつつ、けったいな返事をした。アレは絶賛人見知り中を隠すためのポーズらしい。今日、人多いからね。って、アタシには心底どーでもいい。
「実行は、日笛さんのチームに任せる」
リーダーは日笛に指示を下した。
「分かりましたッ!」
ケンヂと真逆に、メッチャ気合いの入った返事をする元教師。コイツらと毒錆はいっつも張り合ってるから、直々のご指名で「一歩リード!」ってなしょーもない優越感に浸ってるんだろう。
ま、そうでなくとも、リーダーは、こういった「強権発動!」ってなトキ、参加者にボーナスをはずむ。お金の上でも嬉しいご指名ですわな。
「おい、真雲サンよぉ、オレ様に茶ぁー引いてろってか?」
予想通り、ドクサビがナンクセをつけてきた。コイツのは、カネより「甘く見るんじゃねえ」ってメンツの問題だろな。
「今回は、情報を搾り取るために、是が非でも生け捕りにしたい。日笛さんの魔法が適任だろう。君の魔法は強力すぎて、相手を殺す恐れがある」
リーダーの説得は、実にロンリテキだった。
「まどろっこしい、ザコどもの控えに回されてたまっかよ!」
犬歯を剥きだして威圧する。おーおー、ザコ扱いされた日笛たちがすっごい怒ってら。
「山刷君と猪寅君には、バックアップに動いてもらう」
「あぁ? オレ様に遊んでろとか抜かすなよ?」
ドクサビが爆発寸前のカオになった。ただでさえ今日不機嫌なのに、そうそう引き下がりそーもないな、コイツ。
「遊んでいる必要はない。身を隠していろ」
冷ややかなカオで殺気を撥ね返すボス。
「後で内密に話そうと思っていたのだがね」とか付け足してる。なーるほど、フキゲンの原因はドクサビにあったよーだ。
「んだと?」
口調はアレだけど、怒気が薄まった。心当たりオオアリってなことなんだろう。
「高架下の件だ。殺人、死体損壊容疑。君に指名手配がかかるのは時間の問題だ。姿を晦ますなら今しかない」
あーアレね。「ハズレ」だったときの。目撃者でもいたかな?
あ、周りがパニック起こしかけてる。ドクサビ心配してるワケじゃなくて、巻き添え食うが怖いのだ。
「地方に住処を手配するから、しばらくおとなしくしていたまえ」
なーるほど。ドクサビが捕まったら、黙秘なんてするわきゃない。一番困るのはカイシャに所属してるリーダーだ。
捜査が煮詰まる前に、体よく追い払おうってハラかいな。
……口封じに殺せば手っ取り早いのに。殺せない理由でもあるんだろーか?
リーダーの説得は打算ばっかりじゃなくて、ドクサビの身の安全を優先したものだ。ホントなら、下手こいたドクサビにとっても渡りに船のハズ。
ただですね、フンイキをまぜっかえす空気読めないヤツはどこにでもいるワケで。
「ぷっ、ダッセー、都落ちかよ」
ほーら、山刷がわざとらしく噴き出した。おーおー、険悪ここに極まれり、ってね。ちょっと前の「いきなり殴られた」ってウラミが、最悪のタイミングではみ出たか。
それと、リーダー自ら不要宣言出しちゃったから、自重する気がなくなったのか。ま、空気はダダ漏れだったけどさ。
「んだと? 山刷、テメェ……」
おお、野獣のような鋭い眼光。ボスならともかく、手下にバカにされたら面目丸つぶれだわな。
間に挟まれる形になった猪寅がどーしていいか分かんなくて固まってら。
「ど、ドクさんの覚せい剤のルートは俺が引き継いでやるッスよ」
青くなりながらも言い切りおった。「オメーもう用ナシだから!」発言ですな。いいぞー。
コレ聞いて、ドクサビがブチ切れないわけがないわな。今度は物も言わずに殴りつける。そりゃそーだ。手下にバカにされて黙ってるよーな性格じゃない。
やれ! クロスカウンターだ! で、相打ちになってどっちも消えろ!
鼻血を飛ばしながらあっさりすっ転ぶ三下。
「い、いてえ! ひぃいっ……!」
うわあ、カッコ悪。ケンカ売ったんなら根性見せろっての。
「妖術師キプリアヌス。毒錆右近を拘束しろ。魔法を使わせるな」
<わたくしめの聡明なるご主人様、御随意に>
薄気味悪い老人の声が響くや、リーダーの影から黒っぽい帯のようなモノが何本も伸びた。ドクサビにぐるぐる巻き付いて締め上げる。
妖術師キプリアヌス。ボスの使役する恐ろしい死霊だ。滅多に使わないケド。アイツ、はっきり言ってニガテ。セイリテキに合わないって言うか。
「何しやがるッ!」
そーとー強烈な力で締め付けてるらしく、ドクサビが足掻いても全く動けない。すぐに口元もぎうぎうに塞がれる。そのまま梱包して、どっかに捨ててきてくんないかな。
“樫杖の魔女”は強力だけど、キーワードを言わせなければ発動しないもんね。一応、主の命令は守ってるのか。
ドクサビは死ぬ気で暴れる感じじゃない。三下を殴ってちょっと気が晴れたからかな。リーダーのことだから、それを見越して殴る前には止めなかったんだろう。挑発した山刷の方も悪かったワケだし。
「U品のアパートは知っているね? 本日中にそこに入っておきたまえ。移動の時期は追って手配する」
帯の戒めを解かれて、通告される。うわ、腕の辺り痣になってら。
自由を取り戻しても、ドクサビは暴れなかった。コイツはバカだけど、足し算ができないワケじゃない。キプリアヌス1匹に軽くあしらわれたばかりなのに、暴走なんかしたらここにいる魔法使いたちまでもこぞって敵に回す。
「ザコども」なんて言っても、やはり魔法は侮れないのだ。例えば山刷の魔法「魔女の一撃」は、直撃さえすればドクサビだって半無力化させられる。決して床にへたり込んで鼻血を噴いている本人のようにみっともない魔法じゃない。
また、屋内で巨大化しても思うように動けずにいい的になるし、ちょっと暴れただけでも家は倒壊する。自衛隊がやってくるわな。
ここまで悪条件が揃ってて、それでも暴れるってんなら、ソイツはただの自殺志願者だ。
リーダーはドクサビを見捨てたくないようだケド、さっきのが最後通牒だ。今逆らえば、手心なく殺されるだろう。んで、味方もこれ幸いと加担する。
今までのドクサビは「嫌いだけど、戦闘で頼りになるヤツ」で、ギリギリ許容されてきた。でも、今回の件で「コイツのせいで警察に捕まるかもしれない厄介者」に格下げされちゃった。さっきからオロオロと心配してるのは猪寅だけ。
ま、今まで水面下でしかなかった嫌悪が、目に見える形で蠢き始めただけなんだケド。
結果、愚連隊は命知らずではあっても、自殺願望はなかったようだ。
「ケッ!」
悪態一つついて、ドクサビは出て行った。とーぜん、山刷はついてかない。狂相に気圧されて、モーセみたいに人垣が割れてゆく。
「アンタたち、絶対許さないからね!」
イノトラだけが後をついて出て行った。
「よし、この件は終わりだ。あとは細かい部分を煮詰めよう。対象の住所は……」
決定、とばかりに打ち合わせに入る。このイザコザはケリがついたと思ってるんだろう。結果的に、ドクサビの尻拭いしてやったわけだし。
高学歴っぽいリーダーの判断は、実にゴーリテキだ。無駄がない。最短距離を行き、リスクも最小を目指す、ってカンジ。
ただ、このテのヒトタチの欠陥は、「正解は正解なんだから、みんなに受け入れられる」って思ってるコトだと思う。大抵の人生ではそれは正解。
ただ、すっくない例外の1つが、コレみたいな、「ジョーシキやゴーリテキでは引っ込みがつかない場合」だと思うんだな。
アタシの「タオル遊び」もリクツなんかじゃ説明つかないしねー。
つーまーり、安っぽいプライドやら、リフジンな怒りやらは、計算に入ってないのだ。
非の打ち所がないからって、納得しないヤツバラはいるのデスよ。さっき出てった緑頭とか。
真雲リーダーは、この問題はもう片付いたと思ってるんだろう。
だけど、アタシの目には、地雷を踏みつけたよーにしか見えない。足を離したら、バクハツする。
ひょっとしたらリーダーってば、リーダーに向いてないんじゃなかろうか。どっとはらい。
この辺りは、間延びして話数をのばしたくないので、文字数が長くなってしまいますね。




