サーチャー(追跡者)<楽園編66話>
登場キャラはこれ以上そうそう増えないはずです(笑)
また、近いうちに人物相関図を作成します。
れいりのスマートフォンに住まう妖物、アルソニック・アルカナは精力的に特別ミッションへの参加を勧めた。
アルカナはすこぶる付きの美女であるが、どこか退廃的な雰囲気を醸し出している。加えて、ウロコ柄のドレスがまた悪趣味だった。
「えー、動くの嫌いだし~」
れいりは言わずもがなのことを言う。美女はなおも食い下がった。
『しかしだな、標的から金銭を失敬するのも限界があろう』
「うん、失敗ばっかり」
咀嚼しながら、素直に首肯した。
れいりは現在、アルカナから借り受けた魔法<毒の呪言>で、恨んでいる人間たちを「事故死にみせかけて殺害」することに執心していた。
そのドサクサで相手の財布を盗んで懐を肥やしていたのだが、その行為はほんの数回上手くいっただけで、標的が財布を懐に入れている場合は、奪うのが極端に難しかった。
また、上手くいっても、大抵は実入りの良い収入にはならない。大金を懐に持ち歩いている人間など稀である。
食べることの大好きなれいりにとって、軍資金の枯渇は深刻な問題であり、アルカナはそこを突ついていた。
『そういった問題を解決してくれるWRレアが当たるかもしれぬぞ。どんな高いモノでも、満足いくまで食べられような』
「そっかー!」
目からウロコが落ちたような表情のれいり。
――この肥満体のネジを巻くには、文字通りのエサで釣るのが良いわな。
奇妙な同居生活でアルカナが学んだことだった。
「じゃ、コレ食べたら出かけよ!」
大急ぎで残った3つのケーキを口に押し込んだ。
(これ以上この豚の元にいるのは、得策でないな)
どうにかやる気を出させた美女は、冷徹に考えていた。
アルカナは、その真名を聞けばオカルトに関わりの薄い人間も震え上がるほどの大悪魔である。
が、彼女を以てしても、スマートフォンは砕き得ぬ封印だった。
自由になるためには、れいりを堕落させる必要がある。
(自儘にならぬものよ)
れいりはアルカナの授けた魔法を使用して、無辜の人間を6人も殺害している。堕落と言う点では文句のつけようもないが、その先が上手くいかない。
悪魔には、それぞれが司る起源、悪徳というものがある。
例えば、リーノ・カラスは“殺意”を悪徳とする。彼女が実体化のための力を蓄えるためには、殺意を契約者、大嶋剛司に抱かせねばならなかった。
方向違いの悪意――例えば剛司が窃盗・暴行など――は、糧にならない。
だから、望む悪事の方向へ熱心に誘導することになる。リーノが言葉巧みに不良や酔漢を殴らせたのは、殺意へ昇華するためのステップアップに過ぎない。
アルカナの持つ悪徳は“妬み”である。大抵の人間が持つこの「他人を羨む感情」は、実はれいりを誘導するのにもっとも不向きな感情だった。
彼女にとって他者は「嫌悪」する対象でしかない。痩せている他人を恨むことはあっても、羨むことは無いのだった。
れいりが強烈に持っている感情はその「嫌悪」と、何と言っても「食欲」だが、所詮妬みとは別物だった。
とどのつまり、アルカナは魔法を貸し与えているだけで、将来的な見返りを期待できないことを察し始めていたのだった。
(便利遣いされては堪らぬ。コレが転換点になれば良いがな)
当初の手順では、新たな魔法を餌に「名前当て」を持ち掛けるはずだった。れいりが当てられるとは思えないので、晴れて彼女は「ランク:ヴィクティム」となり、ゆくゆくは身体を乗っ取る。この目論見から、事態は大きく逸れ始めていた。
――尾けられている。
帰宅途中、七瀬は勘取った。
意外なほど、人間は他人の視線に敏感である。視線が敵意を含んでいる場合、その感度は6割も上昇する。
加えて、少年はナーバスになっていた。剛司の死によって、障害の消滅どころか、朦朧たる敵の存在を確信するに至ってしまったのだから。
背後の立て看板から、中年の男が頭だけ突き出してこちらをうかがっている。いかにも素人の尾行だった。
立ち止まり、いきなり振り向くと、尾行男は立て看板の盾から出たところだった。慌てたように足を止め、手にしていたスマートフォンを耳に当て、話し始めた。そのまま自販機でペットボトルを買っているのは、追い抜きたくないからなのだろう。
「はい、不審者当確」
今日では、「“電話をしているフリ”は小学生にも見破られる」と言われている。それほどに、素人がやるとわざとらしい。トドメに、通話ランプが点灯していないのが、七瀬の側から確認できるような位置取りをしてしまっていた。
「あー、そういえば、大嶋君が襲撃してきたときも、通話ランプが点灯してなかったな」
大嶋剛司が貴美を襲った際、しきりにスマホを覗き込んでいたが、ランプがついていなかったことを思い出す。点灯していれば、暗くなりつつある時刻であったし、印象に残ったはずである。
「つまり、通話中でないのはすぐに分かったはずなんだ。我ながら注意力が足りないや」
尾行者そっちのけで自省する七割の男。
ちょうどその時、七瀬のポケットでスマートフォンが震えた。表示を見ると、「生徒会長」と出ている。剛司宅再訪問の首尾を訊きにかけてきたのだろう、と推測する。
尾行者の出現に被せるようなタイミングに逡巡したが、向こうでも不審者が出たのではと思い、出ることにする。
「はい」
手を口元に当て、音量を絞る。
「みいわい、ななせ君、かな?」
七瀬のものとは対照的に、はきはきした口調の、大人の女性の声が出た。
「すまんな、ぶしつけな電話で。私の名は伊勢乃木香都子。貴美の母親にあたる」
えらく久しぶりのアナグラム問題解答(笑)
岸手れいり のアナグラムは?
きしでれいり→りきしれでぃ→力士レディ でした(笑)
太ましい方に対する隠語ですね。ちょっと意地悪な問題ですみません(笑)
が、やっぱりキャラの特徴や役割に合わせたかったので。




