表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/184

七瀬と剛司<楽園編59話>

もう少しで、夜宴編から登板してた重要キャラ・悪魔Aさんのイラストが完成します。

いやはや、難産でした(汗)

「“出ていった。じゃーね”、か」


 七瀬は剛司の言葉を反芻はんすうする。「出る」という名状は、リーノとやらの意志で移動した、ということなのだろう。



(リーノ?が大嶋剛司をこんな風にして、スマホから抜け出て、自分の足で出ていった、と?)


 

 脳内で点と点を繋ぎ合わせる。



(他人のスマホに移動した、とかの可能性もあるけど。どちらにしても、もう大嶋君は用済み、ってことなんだろうな)



 つまり、得体のしれない悪魔が1匹、野放しになっている危険性がある。



(リーノの目的とか正体とかは、長々答えられる状態じゃないか)



 いたところで、知らないだろうと半ば決めつけた。


 剛司の命の期限は刻々と迫っている。できれば、もう2,3の質問に答えさせたかった。


 後で推測できることは訊くべきではない。要となる点を問いただし、その後自力で繋げて(推測して)線と面にすれば良い。


「仲間、他に魔法使える人間を、知ってるかい?」


 仲間の定義が怪しかったので、すぐに軌道修正して言い直す。


「いない」


 即答だった。剛司は一匹狼だったようで、仲間割れの線は消えた。敵性の者が増えなかったことに、七瀬は安堵あんどする。


「でも……いじが、へんな」


 続けて吐き出された言葉に、耳をそばだてる。声が途切れがちになっているが、「けいじ」と発音したようだった。


「刑事が?」


 そっと先を促す。


「かげ、が、起きて。指を……」


 玄関前に転がっていた指を思い出す。あの警部補は、五指全て備えていた。やはり、あれは大嶋剛司のものだったようだ。



(かげ……? あの警部補と、ひと悶着もんちゃくあったのか。魔法使いでほぼ当確。そして、「仲間ではない」と)



仲間≠魔法を使える人間 ということは、少なくとも剛司は敵として認識していた、ということだろう。

 やにわに、“リーノ”と刑事(東洋警部補)の間に、剛司のあずかり知らぬ密約があったのでは、と疑わしくなるが、確証はなかった。



 「かげ」とやらの詳細を訊きたかったが、思いとどまる。もう猶予はない。もっと、先の見通しが立つような質問を投げかけなければ。

 

 思い切って、一番疑問に思ったことを物問うた。


「じゃあ、次の質問。リーノとは、何者だい?」


 分からなくて元々、分かれば値千金あたいせんきんであろう質問だった。この答え如何いかんによっては、レーシャ含む妖物たちの正体に迫れるかもしれない。


「りーの……さいご、に名前、ええと、……かーく……」


 だが、質問が広範過ぎたのか、剛司の記憶のスイッチを押してしまったのか。暫時ざんじ押し黙ってしまった。


 そして、目に光が戻る。


「……そうだ。キミ、会った、こと、あるね」


 前触れもなしに、自分を見下ろす侵入者の正体を思い出した。声に力が戻る。

七瀬は急変についていけずに戸惑うが、


『おやおや、臨終だね』


 レーシャのつぶやきを聴いて、察した。持ち直したわけではない。命の灯が消える前の、最期の盛りだった。その証拠に、亀裂の侵攻は止まるどころか、今にも剛司の頭部を微塵みじんに砕かんばかりである。


 覚醒したように見えて、やはり知覚は著しく削ぎ落とされているようだった。そのお陰で、手足が無いことの恐怖、七瀬が家に上がり込んでいることへの疑惑に達していない。



 意識と死の端境はざかいに足かけているのだ。

もう誘導は困難であろう。少年は、質問の催促を諦めた。


「生徒会書記だよ。昨日会った」


 素直に答えたのは、打算からではなかった。


「そっか。ああ、いせのぎ、生徒会長には悪いこと、したなあ。あ、君にも」


 取ってつけたように謝罪を追加する。


「はは、首だけ人間見て、驚かないねー」


 渇いた笑みに、恐怖が貼り付きつつある。死の実感が湧いてきたようだった。


「似たようなトラブルに巻き込まれたことがあってね」


「ふうん、やっぱり、“そっち側”だったんだ。<ギロチン>を避けられたとき、そんな気はしてたよ」


 遠い昔を見る目で、剛司は語る。

 違う、自分に力はない。という反論は押し込めた。


「ね、ねえ、虫がいいとは思うんだけどさ……“そっち側”なら、魔法とか、持ってるんだろ? 助けてくれないか?」


 一応、その可能性は模索したのだ。だが、そんな都合のいいものは持ち合わせが無かった。


「……残念ながら、できないよ。僕は、夜宴(不思議の国)に紛れ込んだだけの、無力な闖入者ちんにゅうしゃだ。生き延びることができたのは、フェレス(三日月ウサギ)喧嘩屋スケアクロウ優雅(マッドハッター)が助けてくれただけなんだ」


 心に傷を負った少年の、偽らざる本音だった。かけがえのない仲間の犠牲があって初めて、フェンリルウルフ(ジャバウォック)石の花嫁(ハートの女王)を打倒することができたのだ。


「そ、そうか……うらやましいなあ」


 剛司は落胆の色を隠さなかった。


「そ、そりゃ、悪いことしたとは思ってる、よ。でも、こんな、みじめな死に方をしなけりゃならないほどのことを、したのか?」


 神ならぬ七瀬には答えようがない。


(悪魔は、暴利を貪るんだ。君は辻を間違えた。そして、悪魔に取り込まれた。ほんとうに、それだけだよ)


 音声にはしなかった。大嶋剛司はそもそも、答えを欲しがっているわけではない。


「でもさ、リセットしたら明日には元通り、なんてバカが起きないかな、なんて。だって、まだ……」


 目を細める。


「何も、してない。何にもなれてない。……ない……くない」


 目を限界まで見開いて、苦悶くもんに顔を歪める。


「……たくない。しに、たくない。………たす……」


 言い終える前に、縦に生じたクレバスが、剛司の顔面を2つにいた。




 ある夏の土曜日。大嶋剛司は未練とともに息を引き取った。



 カシャン、と砕けて宙を舞い、ほこりに紛れてしまう。大嶋剛司が存在していた証拠は、消え失せてしまった。


正直、この程度だと、私はまっったくグロ・残酷描写ではないとおもっております。

でも、昨今は基準が厳しいのかもしれませんねー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ