トワイライト クラッシュ!<楽園編38話>
私が書きたかった話の1つです。ちょっと長くなりました。
こういった展開が好きな方、大好きです(笑)
猫好きの老人を探しに、一緒にドリームランドへ行きましょう。
――サイドN 1時40分――
妹を寝かしつけた後、深夜までかかって、七瀬はソーシャルゲームについて調べていた。インターネットで軽く検索をかけ、幾つかをピックアップして、掲示板を覗き込んで回り、2、3は実際に登録してプレイしてみた。
だがいずれも、少々進めてみた段階で、怪しげな点を認められずに切り上げた。
藪の中を手探りで進んでいるような気分だった。
「次は、コイツか。ええと、“Scooting Meed!”(報酬へ駆け出せ)?」
“Scooting Meed!”(報酬へ駆け出せ)というゲームはユーザー人口が多いので怪情報も目立っている、といった様子だった。それも、他愛のないデマや憶測がほとんどのようだった。
メインページへ飛んでみる。画面には、大きくコミカルな字で“Scooting Meed!(報酬へ駆け出せ)”とある。所狭しと「今ならレア〇〇もらえます!」やら、「初回無料ガチャ5回分プレゼントキャンペーン中!」などのアオリ文句と、露出過剰なアニメキャラの画像が貼り付けられている。結構手の込んだ作りだった。
猥雑ではあるが、七瀬の知識にある他の同系統のソーシャルゲームと、大差ないように思えた。
「ガチャを回して、カードのキャラと装備を育てていく対戦ゲームみたいだな」
七瀬が基礎知識を確認する。キャラクターも装備もいわゆる「ガチャ」で回して手に入れるようだ。ガチャは課金で1回200円(まとめ買いすると割引きあり)だが、ガチャチケットは、運営が各イベントで気前よく配ってくれるらしい。
C~SRまでのレアリティがあり、当然高ランクの方が、育てて強くなる。
「これで違ったら、片っぱしからソシャゲ総当たりするしかないのかな」
陰鬱な気持ちになってくる。そもそも、ソーシャルゲームを疑い始めた根拠からして薄い。大嶋剛司の、言いさした言葉尻からの推測でしかない。
縦しんば着眼点が正着であったとしても、「何が怪しいのか」といった判断さえ曖昧なのだった。何をやったら魔法に類したものの存在が明らかにできるのか。ゲームのストーリーを一定まで進めなければならないのかもしれないし、課金額がものをいうのかもしれない。
実行に移したと仮定して、何百通りの徒労と出費が控えているのだろうか。
「空想に慄いてる場合じゃないや。ユーザー登録しようか」
ユーザー登録してみることにする。アドレスに続いて、パスワードの設定に移る。
「パスワードは……Feresuで。あ、文字数足りないや。Feresu0501」
大いに5月1日を引きずっている少年だった。
登録して早々、
<スペシャルガチャチケット、ゲット!>
とメッセージが出る。
すぐにスペシャルガチャとやらを検索してみる。
「ふうん、このゲーム、ユーザー登録した最初にだけ、“Twilit Crash!(黄昏を壊せ)”とかいう、特別なガチャが1回だけ回せるみたいだな」
“Scоoting Meed!(報酬へ駆け出せ)”のホームページの画面右上には、赤いカプセルの画像と、“Twilit Crash!(黄昏を壊せ)”というロゴがあった。
この超限定ガチャには、他のガチャでは絶対出ない、WRというSRランク超えのキャラクターが入ってるらしい。ものすごい低確率であるらしいが。
ロゴの下に、「最初にだけ、WRレアが当たるチャンスがあります! WRレアは、課金には決して実装いたしません」と宣言している。少年があまり聞いたことのないシステムだった。
「んんー? 妙なシステムだなあ」
七瀬は怪訝な表情になった。
こんな再チャンスのないサービスなど、不満が溜まるばかりである。課金や、営々時間をかけて鍛えたキャラクターよりも、最初に運否天賦で手に入れたカードの方が強い、とくれば、今までの努力をないがしろにされたと思うだろう。
課金意欲を削ぐシステムで、経営戦略上、損にしかならない。
念のため、他のソーシャルゲームも偵察してみたが、このようなシステムは珍しいようだった。いわゆる限定ガチャは星の数ほどあるが、課金さえすれば何度もチャンスはある。しかも、限定とは銘打っていても、頃合いを見計らって期間後でも課金ガチャで実装するものらしかった。
が、“Twilit Crash!(黄昏を壊せ)”のWRレアに限っては、絶対にしないと運営が公言している。
これまた、言わなければいいだけのことである。言わなければ、「いつかは課金ガチャでWRレアがゲットできるかも」とユーザーを繋ぐことができる。
公言してしまっては、ユーザーは離れるし、思い直してWRガチャを課金で実装したとしても、「嘘吐き」の謗りは免れない。
レビューを見るに、目当てのものを引き当てるまで登録と退会を繰り返す、いわゆる「リセットマラソン」にも対策が講じられているらしく、何度再トライしようが、1度目と同じカードしか引けない仕様になっているらしい。
先のデマや憶測も、大半はこのWRレアが当てられなかった者たちのやっかみが原因のようだった。
「でも、ユーザーは多いみたいだな」
閲覧したレビューでも、“育成システムがちゃんと作りこんである”、“限定イベントが多い”と、概ね高評価だった。“Twilit Crash!(黄昏を壊せ)”以外の課金ガチャには太っ腹で、頻繁に無料チケット配布しているようである。
ユーザーを飽きさせない要素はたくさん持ち合わせているのだろう。
ただそれだけのことで、明確に疑わしい点はない。WRレアにしたところで、奇を衒った話題作り、と言えばそれまでである。
この段階ではまだ、七瀬の心中では「疑わしいとさえ言えないゲーム」でしかなかった。
「“Twilit Crash!(黄昏を壊せ)”か、変な名前だなあ。ストーリーに関係あるのかな」
眠気飛ばしに濃いめのコーヒーを飲みながら独り言ちる。近頃は、疑問は口に出す習慣がついていた。
悩みは脳内に漂わせていても重荷になるだけである。言葉にして口から体外へ排出することで、頭だけではなく、身体全体が連動して解答を探す方向に向かう。
「第一、黄昏なんか壊してどうするってんだろう? 黄昏を壊す……終わらせる?」
心の底部が、異音を発する。黄昏時が終わるとどうなるか。
「黄昏が終わると……夜がくる。夜。ヴァルプルギス、ナハト。夜宴が……くる? いや、来させる?」
異音が警告へと変性される。忘れるはずもない、5月1日の夜宴。
七瀬は、“Scooting Meed!(報酬へ駆け出せ)”に、初めて危機感を抱いた。
「考えろ。これは、糸口だ」
七瀬は5月1日、魔法を持ち越さなかった。現況の彼は無力な一高校生に過ぎない。
だが、彼に遺された財産はあった。格上の妖物たちと相対したことで身についた、経験則。
石の花嫁やポルツク公フセツラクは、人智など遥かに及ばない超越主だった。
だが、彼の者たちでさえも、総てを縦にできたわけではない。
ロックブーケは“ブランヴィリエ”という過去の名に括られ、フェンリルウルフには“チュールの剣”という泣き所があった。
超常の者たちにも、それを縛る“律”が存在するのだ。
理不尽に卓袱台をひっくり返すのは、神様だけで充分なのだろう。
「悪魔にとっての“律”とは儀式のことである」
“猫好きの老人”の書物の語句を復唱する。かの老人に拠れば、悪魔などは、儀式を執り行ってもらわなければ、人間の前に姿を顕せないルールであるらしい。
ならば、もし怪しいと仮定するならば。
“Twilit Crash!(黄昏を壊せ)”という語にも、儀式めいたなにか、あるいは制約が籠められているのではないか。
制約とは、探る者にとっては、ヒントと同一である。
「なら、この言葉には、別の側面がある……?」
深読みすれば、Twilit Crash!というアルファベットは少々変わっている。小中学生がメインターゲットに組み込まれているなら、「トワイライトクラッシュ!」とカタカナで表記した方が、ユーザーの理解が速い。
事実、七瀬のあやふやな記憶では、そうした書き方が他のゲームでは一般的だったように思えた。
「考え過ぎかな。柳が幽霊に見えてるだけなのかな?」
それでも一度棲み着いた疑念は収まらず、アルファベットを漫然と見る。
ノートを引き寄せ、Twilit Crash!と大きく書いた。
「夜宴、悪魔、魔女……」
次に、適当に単語を並べていく。視覚情報へと転写して、発想の転換を図ろうとした。
「アルファベットねぇ。魔女なら……ん?」
魔女の綴りは、Witch。
「w、i、t、c、h。Twilit Crashの中に、単語が全部ある。……あ、ああ? アナグラム、か?」
大急ぎで、ノートに“Witch”と書き、Twilit Crashから、該当する単語を斜線を引いて消していく。
芽吹いた疑念が大樹へと根付く。
残ったのは、Tlirasの6文字。
「t、l、i、r、a、s……」
新たな単語を模索して、幾通りもノートに並べ替えてみる。
やがて、
「trials、だ。Witch trials。意味は。…………!」
アナグラムで組みあがった熟語の意味を察して、戦慄した。
「Witch trials……魔女裁判!」
ストーリーの進み具合を鑑みて、投稿ペースを少し早めるかもしれません。
絵を描く時間を小説に回す、というだけなんですが(笑)
絵はちょっとゆっくり描きます。




