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王の現生(下)<楽園編37話>

挿し絵描きました。12人目です、たぶん。

大嶋剛司おおしま・ごうしです。出番は多いですが、坂道を転がるように不幸になってます(笑)

友人からは、「コイツ描くんなら、リーノ・カラス描けや」って文句言われました(笑)


ちょっとギャグテイストです(笑)

<楽園編>2話にのせています。


―――現在―――




『どうしたのだ、カイシャイン、また愚痴ぐちか?』


 男にとって、王様はいなくてはならない相棒になっていた。と言っても、あくまで話し相手として、である。意外なことに、王様は聞き上手で、会話することを喜んでいた。



 与えられた“魔法”とやらを使用したことはなかった。スマートフォンの説明だけでは、イマイチ要領を得なかったのだ。

 第一、仕事が忙しすぎた。たまに帰宅しても、今度は妻とのいさかいが勃発ぼっぱつする。


 正直、魔法などと遊んでいる時間も体力も気力も枯渇していたのだった。


「悪いね、最近こんなことばっかり話して」


 いつからか、王様は男のことを「カイシャイン」と呼ぶようになっていた。   

金と時間に縛られない王様から見たら、自分の立場はさぞ滑稽こっけいに見えることだろう、と男は皮肉な視点で考えてもいる。



 だが、王は渾名あだなに反して、男を馬鹿にしたことはない。豪放な性格らしく、厳しいことを遠慮なしに言うが、裏や陰湿さをかけらも含んでいないものばかりだった。



 他に漏らす心配がない話し相手は、現実では得難い存在である。


 男は、あれから随分と王様と会話した。王様は、地位に似合わず話を聞くのが好きなようで、男はついつい様々なことをしゃべってしまう。酒を飲みながら、とりとめのない話を聞いてくれた。いくら飲んでも、酔った風はない。しかも、聞くべきところはないがしろにしなかった。



 男は釣られるように、多くのことを話した。自分のこと。カイシャがブラック企業同然なこと。去年結婚したが、妻が今のカイシャを嫌がっていること。などなど。


 愚痴ぐちに近い内容を、楽しそうに聞いていた。もっとも、「男の身の上」に興味があるのではなく、「世の中の現状」を知りたがっているだけのようにも思えた。




 王様は不思議な存在だった。知識が現代離れしている。あるとき、男が、


「そういえばアンタ、外国人なのに日本語うまいな」


と言ったことがある。ゲームのキャラクターに言語について問うのも野暮というものだが、つい思ったことを口に出してしまうのが男の欠点の1つだった。 

 王様は猫をでながら、男の疑問を笑い飛ばした。


『ニホンゴなど知らんぞ。ワレがこうして話しておるのは唯一言語(プロト・プロト・プロト言語)だ。第一カイシャインは、西方唯一言語(セルティック)すら喋れんだろう?』



 さらりと、10万年以上前の、つまり、バベル以前の言語を口にする。虚偽きょぎに聞こえない何かを王様は備えていた。




 酒は、たまには男が差し入れてやるが、大抵は王様がそこいらから失敬しっけいしてきた。窃盗せっとうではあるが、男は黙認した。王様が好む酒は、5本で自分の月給が吹き飛んでしまう代物ばかりだった。




「……でさ、カミさんが、出産すんのイヤだって。1人で育児させられたくないとか言うんすよ。ほら、俺、泊まり込みも珍しくないから」



 結婚する前は、あれだけ男の職業を喜んで吹聴ふいちょうしていた妻も、カイシャの実情が分かるにつれて態度を変えていった。最近は、「ワンオペ育児なんて絶対しない」とテレビで聞きかじった言葉を振りかざしている。



定命じょうみょうの者の考えは分からんな! 金銭のために寿命を削るというのは、本末転倒だろうが』


 王様は耳に痛いことを楽しそうに言う。




『ところで、ワレの授けた<四方王陣>は使わんのか?』


「いやー、スゴイとは思うっスけど、使い方があんまり……」


 使いたいと思ったことはある。ただ、新しいことを試みる気力がかなかった。



 会話を楽しんでいるうちに、カイシャに到着してしまった。20時に一旦帰宅許可が出て、22時に非常招集で呼び出された。普通では考えられないブラックである。

 今日も泊まりだろうな、と考えるとうんざりした。別に仕事が嫌いなわけではない。手を抜くような真似もしないが、達成感などとは無縁だった。




 ふと、駐車場に目をやると、目立つ高級車があった。確か、部長の車だったはずだ。直接の上司ではないが、主義は保身、やることは責任転嫁と自慢、といった人望がまったくもって備わってない御仁ごじんだった。間接的にではあるが、男も煮え湯を飲まされ続けている。



 普段は出向しているはずだが、今夜はカイシャにいるようだ。車を大事そうに磨く部長を想像して、胸がムカムカし始める。




 さりげなく周囲をうかがう。人目はなかった。イチョウ並木に目隠しされ、カイシャから駐車場は見えない。背面は川だった。


「ぃよっし……」


 男はスマホを操作し始めた。


『お、使うのか?』


「ちょっと復讐ふくしゅうをば」



 <魔法を使用しますか?>の質問文の後に続く、<はい>という選択肢を指の腹で押す。続いて、<どの魔法を使用しますか?>という質問が出る。1つしかない<四方王陣>の項目を押し込んだ。


 だが、作業はそれだけで終わらなかった。更に、<王を配置してください>という質問がなされる。


「は、配置?」


『何だ、用途ぐらいしっかりと見ておかんか! あのクルマとやらがにくいのなら、囲むように四方を指さしてみろ』


 王様がアドバイスをしてくれる。


「りょ、了解っス」



 駐車場の隅の一点を指差す。そこに、石像が現れた。王笏おうしゃくを持ち、マントを着込んだ老人をかたどった石像だった。スマートフォンに、<北の王を配置しました>とメッセージが出る。


 他の一点を指すと、今度は剣を掲げ、鎧を着込んだ石像が現れる。<南の王を配置しました>と出る。同じように西、東も指差す。石像が計4体()えられた。




 だが、その後が分からない。


「王様~」


 助けを求める。正直、もう止めようかと思い始めていた。


たわけ、男が1度決めたなら、最後までやれ! クルマとやらに、何か命じてみろ』


 言われた通りに、「進め」と頭の中で命令してみる。


 クルマが、思った通りに前進した。


「お、……おお?」


 今度はバックさせてみる。思い描いたのと、寸分の狂いもなく高級車が動いた。更に、スピンターンまでやってのける。


「動く、動く! すげえ!」


 夢中になって、ラジコンと化した車を動かした。





「部長の車、どうしてやろうか。壁を突き破って、川に落とすか。でも、橋とか壊したらイヤだな」


 車の処遇に頭を悩ませていると、


たわけ、王の貸し与える魔法であるぞ! カイシャイン、今の貴様は、そのクルマの、王内の空間(すべ)てを支配しておるのだ。その程度で悩むな!』


何故か怒られてしまった。動かす以外にも頭を使え、と言っているようである。


「んー?」



 物は試しと、車のボンネットが大きくへこんだ場面を想像してみた。



 ベコン! クルマのボンネットが音を上げて歪んだ。男の思い通りに。


「まさか……」


 更に別の、遥かに難しいことを脳内で命令してみる。



 次の瞬間、車はガラガラと部品をき散らして崩れていった。壊した、というわけではない。ネジ1本に至るまで、全てパーツごとにキレイに分解されて、整然と地面に並んでいる。



「分解しろ」と命じた通りに、車が自らをバラバラにしたのだ。




「はは、マジかよ」


 かわいた声を上げる。恐らく、プラモデルのように組み立ててゆけば、完品の車に戻るのだろう。傷1つ、ネジ1本(たが)うことなく。



「……」


 4体の石像に囲まれていない場所に転がっている石を見て、


「割れろ」


 と命令してみた。反応はない。



 次に、王に囲まれた範囲内にある小石に同じ命令をしてみた。


 ビキッ! 小さな音を立てて、石は真っ二つに割れた。



 男は現下、石像に囲まれた空間すべてを支配しているのだ。生殺与奪せいさつよだつの権利を一手にした、まさに王であった。



 目の上のタンコブだった上役にささやかな復讐を果たした。車を見て悲鳴を上げる情景を想像して、思わず笑いが漏れる。車を損壊したわけでもないので、罪悪感は薄かった。



胸がスッとすると同時に、男の胸に入り込んできたモノがある。




「こ、これって、範囲内の人間に、し、”死ね”って命令とかしたら……?」


『ん? 無論自決するにきまっておるだろう。割れた小石とニンゲン、何も変わらんぞ』


 屈託くったくなく答える王。





『どうだ、支配者たる王に相応ふさわしい魔法だろう!』


 男の内心の興奮を察してか、王様は莞爾かんじと笑った。


*追加の記述。


小説中に出すアナグラム正解者様の無茶ブリの中に、「あまやどりにイラストを描かせる」という項目を加えます(リクエストまったく来ない気もしますが)。私の小説中のキャラはもちろんですが、正解者様が執筆している作品のキャラも希望があれば描きます(下手でよければ、ですが)。


その際は、「へたくそ!」とか、「俺のイメージと違うもん描きやがって!」等の非難は受け付けられませんのでご容赦を(笑)

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