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嘘吐き達の対話

足が痛かったので、午前中に投稿することができました(意味不明)。

「ここに逃げ込んだのか、いい歳してかくれんぼでもするつもりかよ」


 樋口も廃屋に入り込んだ。


「陰気臭いトコだな。七割はともかく、俺には似合わん」


 殺人の高揚感からか、それとも妙な自信をつけたせいか、口調が荒くなっていた。


「樋口、話をしよう」


 奥からクラスメイトの声がする。七割の力しか発揮できない情けない奴だ。そんな手合いに負けるわけはない、と、樋口はほくそ笑んだ。


「いいぜ。どうせ、“どこでこの力を手に入れたか”とかだろ? 聞かせてやるよ」


 話しながら歩を進める。善意で対話を望んだのではない。標的が声を出していれば、居所を特定しやすいからだ。


「ひょっとして、“魔法売ります!”かい?」


「何だ、知ってたのか? つまらないな」


 やや拍子抜けした樋口だった。声を頼りに、洋間を通り過ぎる。会話に気をとられているせいで、隠れている委員長の気配には気づかなかった。


「だがよ、都市伝説なんかじゃない。本物の魔法だったってのには驚いたぞ。こいつのお陰で嫌なことを我慢する必要がなくなったぜ」


 えつに入った顔を浮かべるが、その表情を隠れている七瀬が観察することはできなかった。


「嫌なこと、って言うと、例えば……両親とか?」


 少年は抱いていた疑問をぶつける。カマをかけたに過ぎなかったが、


「……気持悪ィ野郎だな。いい勘してやがる。まあ、正解だ。あのクソ親ども、俺様を抑圧するばっかりで全然役に立ってなかったからな」


存外簡単に乗ってきた。“勘”とやらの正体に気づかないあたりが、樋口の限界だった。

 違うだろう、と七瀬は思う。推測通りの両親ならば、大事に扱ってはいたはずだ。はれ物に触るように。


「で、だ。せっかく授かった力だからよ、道徳心を発揮して、俺様が社会のクズを掃除して回ってやろうって寸法よ。神の代行者ってヤツだな」


 無信教のくせに都合の良い時だけ神を持ち出す、と無信教な七瀬は批判した。


「やってることはただの人殺しじゃないか。“道徳は社会の集団本能である”ってニーチェ先生は言ってるよ。第一、悪人しか殺さないんなら、何で優雅を殺そうとするんだ」


 優雅は凶行を止めようとしただけである。樋口はトイレを開け、無人を確認する。会話と探索を同時に進めている。


「俺様の邪魔をするなら悪い奴確定じゃねえか。いっつも正義感面してうっとうしいことばっかり言ってきやがって」   

                            

 七瀬は、樋口啓二という存在のひととなりを正確に把握した。彼にとって、周囲とは憎悪の対象でしかない。魔法という力を得た今、タガが外れて抑制が効かなくなっているのだ。

 最終的には、目につく全てを憎み、殺し始める。最期には、他人を恨んで死んでいく。


「救われない感謝知らずか。一番悪質じゃないか」


 相手に聞こえないように、小さくつぶやいた。


「俺様だって暇じゃねえんだ。が、寛大だからな。許してやるから、出て来いよ。福主も許してやる」


 考えるまでもなく嘘と分かる。樋口は物置の扉を開いた。狭くて隠れるスペースはない。舞い上がるホコリに舌打ちして閉じる。


「許してやるって、許しを請わないといけないような悪事は働いてないぞ、この人殺し」


 反論を声に出さず呑み込んだのは、この不遜ふそんな提案を逆に利用できないかと考えたからだ。

 会話を続けながらも、声の発生元は移動しているようだった。つまり、会話で油断させておいて、居所を突き止めてやろうと家探しをしているに違いない。


 このままかくれんぼを続行すれば、先に優雅が見つかる公算が高い。


「……分かった。姿を見せるから、助けてくれ。僕は和室にいる」



 樋口にとって喜ばしい報告だった。「暗がりでかくれんぼ」などとわずらわしい遊戯をしなくて済む。

 少々迷いながらも、和室を探し当てた。


 和室に入ると、本当に七瀬が手を上げて立っていた。


「福主も一緒だな?」


 眼の見えない優雅は、七瀬と同じところで震えている、と決め付けていた。


「ああ、奥にいるよ」


 七瀬が背を向けて後方を指さした。

 同時に、樋口は酷薄な笑みを浮かべた。


 もうこの男は用無しだ。


「バカが、お前等相手に約束なんか守る訳無いだろが」


 嘲笑あざわらって、ナイフの照準を七瀬の背中に定める。


 だが、樋口はすぐに思い直した。薄暗いとはいえ、背中を向けているとはいえ、七割しか力を発揮できない男が相手とはいえ。五体満足の男にとびかかるのは危険が伴う。


 まずはナハトコボルトを使い、眼と耳を封じる。その上で後ろから体ごとぶつかれば、背中をさらしている七瀬はかわせない。

 ケンカ慣れしているものでも、目と耳を封じてやればたやすく殺せることは、実証済みだった。ましてや今回の標的は、屈強どころか一人前ですらない、七割の男。


 その後でゆっくり、奥で震えながら隠れている優雅を殺せば全ては事足りる。


 この、慎重を通過して臆病とも言うべき性質が、樋口の本性だった。

 

 バタフライナイフを水平に構えたまま、口を大きく開いた。


「ナイトコバル、息を吹きかけろ!」

 


カープが買ったので14日中に次話投稿します。

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