表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時のはざまで恋をして  作者: あおいそらの
2/2

事のおこりはいつも突然に

 彼は悲鳴を上げそうになって目が覚めた。

 心臓が早鐘のように打っている。


 時生はゆっくりと身を起こし、のど元に左手をぎゅっと押し付けて、荒くなった息を抑えようとした。


 真っ暗で何も見えない。

 しかし彼は、何かが”見える”かもしれないことを恐れて目を閉じて、数秒間じっとしていた。

 汗がじっとりにじみ出、それが寒気に変わり、彼は身震いした。


 そして、そろそろと手を伸ばし、枕元の蛍光灯のスイッチを入れた。

 ジーッと軽く唸るような音がして、15ワットの白熱灯が光を放ちだした。

 彼はなおも身を固くしてじっとしている。

 

 なにか、変化が起こるのを待っているように。

 

 --なんてえ夢だーー


 彼は心の中でつぶやいた。

 

 いや、”夢”じゃない。”感覚”なんだ。

 エレベーターが止まるとき、体が宙に浮いたように感じるあの感じ。

 いや、それより、なんていうんだろう、吸い込まれるような感じ。 ど・こ・へ?


 彼は、デジタル時計に目をやる。01:57。


 ああ、あれはもう、”昨日”なのか・・・

 そう考えると、彼はベッドにごろんと身を投げ出した。


 昨日の昼近く、彼が大学へ午後の講義に出席するため家を出かけた時、ちょうど郵便屋がポストに何か差し込んでいったのだ。

 かれは、ひょいとのぞいて手紙を取り出し、あて名が自分宛てであることを確かめてから裏返した。


 そのとき、彼は実際、鼓動がひとつ止まった気がした。


 その差出人が <相模 小枝子> だったからである。


 そして、その几帳面な、やや右上がりの角ばった字体は、確かに母のものでありーー母は、二か月前に逝ってしまったはずだった。

 いや、はず、どころか、確実に、彼は母の最期に付き添っていたし、葬儀も済ませ、今はようやく落ち着いて、もう母がいなくなったその家で、一人暮らしを始めたところなのだ。


 時生は凍りついたように、しばらく動けなかったが、そろそろと手紙をもう一度ひっくり返し、消印を確かめてみた。

 札幌、5月17日ーー母が逝って2週間後の日付ではないか。


 あの世を経由してきたんでなかったら、たぶん、何かの郵便事故で配達が遅れたんだろうけれど。


 いま、彼は、ベッドの上にもう一度身を起して、机の上に無造作に放り出してあるその手紙を見つめた。


 あの手紙の内容、それと、一か月前の変な易者の言葉。


 突然に、それらがとんでもない意味を持って、彼を襲ったのだ。


「勘弁してよ、母さんーー。おれ、オカルト苦手なんだってー」


 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ