出会い1
「あんたこんなことやってただで済むと思ってるの?」
電車の中で大きく声が響き渡った。だが、おかしいことに持ち上げられたのは僕の腕だった。自分自身何が何なのかわからなくなっているところに、さらに女性がたたみかける。
「あんた次のホームで降りなさいよ!ぜったいゆるさないんだから。」
「ちょっと待って!俺はやってない!なによりやった証拠なんてないじゃないか!」
必死に抵抗するが周りの誰も信じようとしない。痴漢されたと言い張る女性は何故か勝ち誇った様子でこちらをにらみつけている。自分自身もうだめだと思ったとき、自分の前に座っていたとてもきれいな長い髪をした女性が、一人声を上げた。
「あのさ、その子痴漢なんてやってないよ。」
堂々と言い放ったその言葉に、同じ車両に乗っていた乗客は一同静かになった。そしてゆっくりと立ち上がるとそっと指を伸ばした。
「よく見てみな。片方の手にはつり革、もう片方には荷物。この状態でどうやって痴漢をするの?それにもう一つ。まずあんた、痴漢なんてされてないでしょう。あたしあんたらの目のおまえに座ってるんだよ。見えてるに決まってるじゃん。」
車両の乗客がざわついていく。僕の腕をつかんでいた男性も手を離す。
「そんなことない!あたし触られたんだから!」
「あんたあれだろ?最近このあたりで痴漢でっち上げをしてるやつだろ。そういうのやめといたほうがいいよ、本当に。」
言い合いをしていると目的地、金龍大学駅前に到着した。
「じゃあ、とりあえず一回降りようよ。本当に痴漢されたっていうなら降りなきゃだめでしょ。それでいいよね、君も。」
龍輝に話を振る。するとその隣にいた、ほとんど忘れられていた広瀬高貴が話に割り込む。
「ねえねえ、俺もこいつの、龍の知り合いだからさ、話に混ぜてくれない?」
軽いテンションで入ってきたが、今の自分にはすごく頼もしい存在だった。そして、僕・高貴・痴漢された女性・僕のために助けに入ってきてくれた女性の4人で駅のホームへと降りた。