回収
何枚かの書類がクリップでまとめられたものには
引き揚げる物資にランクが付けられその中には女の入っていた箱を指す「X資財」を最優先かつ安全な状態で確保する旨が書かれていた。
無論金塊もそのリストにあったが2番手でありX資財は「非常に不安定で取扱いに慎重で厳重な注意を要する」と表記され爆弾のような扱いをされていた。不可解なのは「開封後のX資財を管理するにあたっては艦内における最上級の客室をあてがいX資財の価値を害する事を極力避けるよう願う」とふざけたような注釈が付けられていた。
この書類は責任者のフレデリック以外には他見無用であると念が押されているが今現在艦内における誰もが知るX資財は船長室のスツールに腰掛けフレデリックから渡されたタバコを指に挟んでうなだれ微動だにしない。
「ありがとう、出ていってもらえる?」
女はそれだけ話すと視線を落としまたうなだれた。これまでの経過を聞いた女は先ほどまで銃を振り回して暴れていたとは思えないほど落胆し取り乱した。70年前のあの夜にあの棺桶に入ったあと原因不明の爆発に巻き込まれ貨物船が沈没、乗組員120名は無事だったものの金塊と自身は船と海底に残されたという説明に涙を落としながら耳を傾け、ときおり感情を決壊させないようにタバコに火を着ける。「あの時に死んでいればよかった」と消え入るような小さな声で女が呟いた。涙で濡れた睫毛には悲壮な彼女の想いが表れていた。
喪失感にうちひしがれている彼女にフレデリックはあと数週間で港に向かうこと、この部屋を好きに使ってほしい、何か必要な物があれば手配すると伝えてドアを閉めた。
ドアのそばで待っていた フリオとジェフがフレデリックに状況を説明するよう詰め寄る。
「話を聞いてみたが彼女の存在は到底信じられない…70年前の沈没した貨物船に取り残されただなんて出来の悪いおとぎ話にしか思えないよ…」
「だがあの女は生きてるじゃねぇか。どうその話以外でどう説明できる?」
ジェフが興奮しながら食ってかかる。フリオはそれをなだめながら
「その事なんだがな、さっきあの女の持ち物の中に妙な紙切れを見つけてな、ホールに来てくれ。」
食堂と会議室を兼ねたホールに向かうと船員が数人とジュニアがボロボロになった紙片をテーブルに並べて睨んでいる。
「さっき彼女のバッグに入ってた物を調べたんだ。多分これは旅券だろ?拳銃に時計、それにジッポとナイフと、ハンカチに、メガネとタバコに…これは口紅かな?それとこれ、化粧用のコンパクトに挟んであったこのメモなんだけど…」と紙片に視線を向ける。くしゃくしゃの散り散りになったメモの断片には鉛筆で数字が書かれてはいるがいくつかの数字は掠れて読む事ができない。ジュニアはフレデリックに助言を求めた。
フレデリックは何も言わず椅子に腰掛け、顔が紙に引っ付くほど近づけて消えかけた数字をつなぎあわせる。考古学者の勘と集中力によって集められた13桁の数字と「生死を問わず到着次第連絡乞う」の文字の後に浮かび上がった。
すっかり冷めた誰かの飲みかけのコーヒーをすすり一息つくフレデリックの後ろで
「どうやら電話番号らしいな…」
誰ともなく声が上がる。
ジェフが思い出したように無線室から引っ張り出した重そうな衛星電話をテーブルに据え付けてメモの番号を呼び出す。使用中の番号であったらしく難なく繋がった事に驚き、2コール目で相手が受話器を受け取った事に更に驚いた。
「ずいぶん待ったよエンドラ。ひどいじゃないか」
しわがれ声の男が心底嬉しそうに返答した 。