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9.伏龍


 異世界で初めて訪れる人里。トータス村。

 俺は魔石を換金するため、その冒険者ギルドを訪れる。


「きたねー魔石をリンちゃんに出すんじゃねーよ」

「汚物担当はそっちだっつーの」


 冒険者が指さすのは壁際の受付。

 小太りの女性が1人座る薄汚れたカウンターであった。


 どうやらリンちゃんと呼ばれる受付嬢。

 美人なだけあって人気者のようで、汚れ仕事は担当しないのだろう。

 とにかくそういう事であれば。


「それは失礼した」


 窓口を間違えたのでは怒られるのも無理はない。

 俺は机の上の魔石をかき集め、指示された受付へ向かう。


「魔石の換金を願いたい」


 俺はあらためて魔石を机の上に差し出した。


「ん……うちでええんか?」


 伏し目がちに問いかける女性。

 良いも悪いもない。

 汚物担当だというのだから仕方がないだろう。


 しかし、この女性。

 あまり美人ではないが、ぽっちゃりと小太り。

 どこか愛らしい体型をしている。

 ふんどし一丁のスモウレスラーである俺に相応しい相手といえよう。


「ぜひにお願いする」


 俺は右手で手刀を切り、ごっつあんポーズでお願いする。


「はいよ」


 先ほどのやり取りを見ていたであろうに、躊躇なく俺の差し出す魔石を受け取る女性。


「へっ。きたねー女にはきたねー仕事がお似合いよ」

「あの女。この間なんて、ゴキブリの買い取りしていたぜ」

「嫌がらせだろう。それ」


 ドッハハハ


 何やら俺たちの姿を見て周囲の冒険者たちが笑っていた。

 いったい何を笑うのか?


 仕事に綺麗も汚いもない。

 いや……まあ、確かにあるが。

 とにかく、誰かが汚れ仕事を買って出ねばならないもの。


 感謝こそすれ、笑うなど言語道断である。

 まあ、俺もゴキブリは嫌だが。


「ゴキブリでも仕事あって良かったやん」

「みんなリンちゃんの所へ行くからな」

「クビにならなくて済むってわけだぜ」


 田舎村の冒険者ギルド。

 本来。受付の数はそれほど必要ないのだろう。


 となると冒険者の人気は美人のリンちゃんに集中。

 指名の取れない受付嬢は、リストラされるが運命。

 なかなかギルドの受付も大変である。


 周囲の茶化しにも構わず黙々と魔石を調べる女性。

 それに飽きたのか、冒険者たちは俺にちょっかいをかけてきた。


「おっさん。どこで拾って来た魔石よ。それ?」

「宿代になるんけ? 小動物の魔石は安いぜ?」

「1000円とか端金じゃ泊まれんよ?」


 ……連中は俺を、スモウレスラーを侮っているのか?


 だとするなら、看過してはおけない問題。

 スモウレスラーは最強の戦士。

 国技を侮辱され黙っていられるほど、俺は大人ではない。


 しかし、よく考えれば俺はもう35歳。立派すぎる程に大人だ。

 加えて、俺はふんどしを絞めているだけでスモウレスラーではない。

 あくまで侮辱されたのは俺であって、スモウレスラーではないのだ。


 なんだ……それなら看過しても平気である。


「おいよー無視すんなよ」

「おっさんさー遊びじゃないんよ? 冒険者って」

「ママの所へ帰ったらあ? あ。おっさんの年齢ならママしんでるかあ?」


 ……しつこいな。

 俺をからかって何が面白いのか?


 そもそも何だこの態度は?

 仮にも見ず知らずの他人であり、俺の方が年上なのだ。

 常識的に考えて、まずは丁寧な言葉遣いから入るのが普通ではないだろうか。


 おっさん様。無視しないでくださいませ。

 冒険者は危険な稼業です。考え直していただけないでしょうか?

 母上もご高齢のはず。実家に帰って孝行してはいかがかしら?


 こうあるべきだ。

 ……うむ。丁寧であっても、うっとうしい事この上ない。


 しかし、この状況をこのまま放置するのはよろしくない。


 それほど広くもないギルド内。

 その隅で取り囲まれていたのでは、俺がイジメられているようである。


 俺が冒険者ギルドを目指したのは、ただお金を、仕事を手に入れるだけではない。

 妖精キングダムの建国は、俺一人では成し得ない偉業。

 相手は魔族の集団。数だけは多いのだから共に戦う仲間が必要となる。


 仲間を集めるのにおいて最適な場所。それが冒険者ギルド。

 そして、仲間を集めるにおいては、俺の名声が大事となる。

 馬鹿にされて黙るだけの雑魚の仲間になど、誰もなりたくはない。


 となると──

 消えろ。雑魚ども。邪魔をするでない。

 そのような台詞で連中を一喝。追い散らすのが一番である。


 一番であるのだが……シルフィア様が力を失った今。

 そのような無茶をするわけにはいかない。


 何せ今の俺の魔力はわずかに15。

 一般人にも負けるであろう貧弱さ。


────────────────────────────────────

名前:マサキ

体力:90

魔力:15

────────────────────────────────────


 加えて俺を取り囲む冒険者の数は5名。

 精霊アイで視る連中の能力。


────────────────────────────────────

名前:荒くれ冒険者

体力:300

魔力:250

────────────────────────────────────


 歴戦の兵である冒険者に敵うはずがなく、コテンパンにやられるだけである。


 となると、俺の冒険はここで終わるのだろうか?

 いいや。終わらない。

 戦っても敵わないとなると……頭脳を使うしかあるまい。


 俺は某国盗りシミュレーションゲームで全国統一を成し遂げた男。

 現代に甦る天才軍師。平成の今孔明を自負する男。

 こと頭脳戦において、野蛮なだけの連中に後れを取るはずがない。


「きえ……」


「は? あんだって?」


「きえー! きえっきえっ! きええええ!」


 取り囲む連中に向け、俺は奇声を張り上げる。


「やっべーこいつ頭おかしいわ」

「どこの野蛮人よ」

「近寄ると何されるか分からんな」

「いこーぜ」


 ……ふう。

 自身を変人に見せかける事で、相手を遠ざける荒業。

 格上の相手であるにも関わらず、傷一つ負う事なく退けるなど……やはり俺は天才。


「なに……あれ?」

「しっ。目をあわせないで」

「あんなのと一緒に依頼やりたくないよね」

「ありゃ一生ソロだろ」


 ただし、危険は去ったものの、俺の名声もまた去って行ってしまったようだ。


 名声は大事だと言ったそばからこれだ……

 それもこれも自身の力不足が原因。


 とはいえ、嘆く必要は何もない。

 名声など、いくらでも取り返す事が可能。

 強くなれば、それだけで名声はうなぎ登り。

 女も金も向こうからすり寄って来るものだ。


 すでにその道筋はある。

 俺のスキル。暴飲暴食。

 そしてシルフィア様の特性。

 魔石を食べて魔力アップ。


 俺はモンスターを食べれば食べるほど、スキルを習得していく。

 シルフィア様は魔石を食べれば食べるほど、魔力が増していく。


 2つの能力を合わせれば、いずれ俺が最強の魔法使いとなるのは間違いない。

 今は雌伏の時。伏龍として力を貯める時期でしかない。


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