7.森からの脱出
妖精さんが幸せに暮らせる国。
妖精キングダムの建国。
そのためにも、まずは今の窮地を脱しなければならない。
先ほどまで近くでお喋りしていたサラマンダー男。
探索を諦めたのか、すでに遠くへ歩き去っていた。
「ふんぬっ」
掛け声1発。
俺は燃える倒木の下から、何とか這い出る事に成功する。
それにしても背中が痛い。
常人なら死にも直結しかねないヒドイ火傷。
だが、幸いにも俺は常人ではない。
ウルトラゴブリンから習得したスキル。
体力自動回復C。
多少の傷なら時間と共に元通りというわけだ。
というわけで、とっととこの場を脱するとしよう。
妖精になったシルフィア様を頭上に、俺はテクテクと。
かつては泉であったクレーターから距離をとるべく移動する。
しかし……背中が痛い。
体力自動回復。本当に回復しているのだろうか?
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マサキ :シルフィア様
体力:5:50
魔力:0:0
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死ぬ寸前じゃん!
俺の体力5しかないやん!
しかも、5から全く体力が回復していかないのだが……バグったか?
いや。そういえば、シルフィア様の魔力が0になっている。
これはもしかして……
───シルフィア様情報───
体力自動回復
消耗した体力を自動的に回復しつづける。
ただし、発動中は魔力を消費しつづける。
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……駄目じゃないか。
元々俺の魔力は0。
妖精さんになったシルフィア様の魔力は10。
この魔力では体力自動回復などネコに小判。
即座にガス決である。
いや。そんな愚痴っている場合ではない。
現実問題。このままでは俺は死ぬ。
先に森を逃げた妖精さんたちと合流できれば良いのだが……
未だ炎の燻るこの場に居るはずもない。
「いってぇーーーーうぉーー」
叫んでいる間は少し痛みが紛れるという。
だが、根本的な解決にはなっていない。
痛みは紛れても、このままでは失血死は免れない。
俺が死んだその時。
シルフィア様はどうなるのだろう?
確か、お互いの寿命を共有するといっていた。
ということは、俺が死ねばシルフィア様も死ぬのだろう。
それはダメだ。
俺を信頼して力を与えてくれたシルフィア様のためにも。
まだ、ここで死ぬわけにはいかない。
魔力だ、魔力が欲しい!
魔力さえあれば、体力自動回復で怪我が治るはずである。
俺の悲鳴を聞いたシルフィア様は、空間から。
アイテムボックスから魔石を取り出し、懸命にかじり始めていた。
それは……俺が森で倒したモンスターの魔石。
シルフィア様に言われるまま回収していたものだ。
うおおお。食ってる場合かああああ。
いてええんだよおおおお。
その時、シルフィア様が魔石をかじるのにあわせて、魔力が少しだけ回復する。
……お??
シルフィア様が魔石をかじる。魔力回復。体力自動回復。魔力枯渇。自動回復終了。
シルフィア様が魔石をかじる。魔力回復。体力自動回復。魔力枯渇。自動回復終了。
おお!
シルフィア様は、魔石を食べると魔力が回復するのか?
さすがはシルフィア様! 助かった。
一生懸命に魔石をかじるシルフィア様だが、そろそろお腹が苦しそうである。
がんばれ! シルフィア様!
涙目で俺の方を見ている。
がんばれ! がんばれ!
俺の応援の甲斐あって、なんとか魔石をかじり続けるシルフィア様。
俺の傷が癒えると同時。
シルフィア様はお腹をぽっこり膨らませて、地面に倒れ伏していた。
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名前:マサキ :シルフィア様
体力:90(+30):50
魔力:0 :15 (+5)
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驚くべきことに、俺の体力が増加していた。
これはあれか?
骨折するとその骨は以前より丈夫になるとか、そういうやつか?
都市伝説のたぐいであったと思ったが……
ここは異世界。そういうものなのだろう。
だとするなら、楽に勝てる戦いでも適度に殴られた方が良いのだろうか?
いやいや。痛い上にそれで死んでは元も子もない。
体力は上がればラッキー程度の存在に考えよう。
何より俺は魔法使い。
今、大事なのはシルフィア様の魔力が5増加している点だ。
───シルフィア様情報───
妖精は、魔力と親和性の高い存在。
魔石を食べる事で魔力が微小に成長する。
魔石を獲得したなら食べさせなさい。
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それでモンスターを退治した後、俺に魔石を回収させていたのか。
先を見据えた深謀遠慮。さすがはシルフィア様。尊敬です。
地面に寝転ぶシルフィア様を拾い上げ、俺は森を出るため走り出す。
ついには森を抜け、街道と思わしき場所まで辿り着く。
ここまで来れば一安心であろう。
振り返る森に広がる黒い炎。
奴ら……魔族だか何だか知らんが俺の、シルフィア様の森を燃やし尽くすなど。
許されざる蛮行。この借りはいずれ返さねばなるまい。