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6.ダンジョンコア


 襲撃の大将であるウルトラゴブリンを撃退。

 魔族から妖精の泉を守り抜く事に成功した。


「シルフィアさま-」

「マサキー」


 辺りに隠れ潜んでいた妖精さんたち。

 降りそそぐ雨で森の炎もすっかり鎮火。

 安全になった事を確認したのか、俺たちの元へ飛び付き祝福してくれていた。

 だから髪の毛を引っ張るのは、やめなさい。


 しかし、さすがは魔族。

 ゴブリン500匹にインプ500匹。

 こんな片田舎の森に1000匹も襲って来るとは予想以上の規模である。


 いや……そもそもこのような辺鄙な森を襲撃するのは何故なのか?

 何か狙いでもあるのだろうか?


「やはり……無理ですね」


 大勢の妖精さんに抱き付かれたまま、シルフィア様がぽつり呟いた。

 何か深刻な表情をしているが、頭に乗せた妖精さんがシルフィア様の顔を引っ張ったのでは、少々しまらない絵面である。


「笑わない」


 ポカリ


 痛い。

 自分で変顔をしておきながらヒドイ言いようである。

 まあ妖精さんの仕業ではあるが。


「ですが何が無理なのですか? 魔族というからビビリましたが、ウルトラゴブリン程度。楽勝でしたよ」


「あんなもの。魔族にとって塵芥の存在。本命が来ます」


 ドカーン


 突如。森の一角で黒い火柱が上がる。

 今も雨が降りしきる中、その炎は弱まるどころか勢いを増し、数を増していた。

 これは自然の炎ではない。

 何者かの意志によって作り出された邪悪な炎。


 赤黒く燃える森の先に。

 3人の影が見えていた。


 精霊の目で眺め見る。

 その3人は──


────────────────────────────────────

名前:闇精霊 ダークウーマン

体力:2000

魔力:5000

────────────────────────────────────

名前:炎精霊 ファイアーウーマン

体力:500

魔力:6000

────────────────────────────────────

名前:土精霊 アースウーマン

体力:5000

魔力:4000

────────────────────────────────────


 闇精霊。炎精霊。土精霊。だと?!

 という事は、シルフィア様のお仲間だろうか?


 いや。そんなはずはない。

 俺たちの森を襲撃するのだ。

 敵に決まっている。


「あれらは精霊の身にありながら邪神に魂を売った不届きものです」


 しかし……これは分が悪いといわざるをえない。

 俺は最強の魔法使い。

 なぜなら精霊様の力を授かっているからだ。


 だが、対する相手もまた精霊の力を宿すもの。

 というか、精霊そのものである。しかも3人。


 おまけに、手下だろう。黒い装飾をまとうモンスター。

 赤い炎をまとうモンスターまでもが大量に付き従っている。


 対するこちらは、可愛い妖精さんがたくさん飛び回っているにすぎない。


 強者は引き際を心得るもの。

 連中は初期マップに突如出現したレイドボスのような存在。

 残念ながら今は戦う時期でない。


 幸いにも相手の位置はまだ遠く、森に差し掛かったばかりである。


「これは……撤退するしかありませんよね?」


「……そうね」


 意見が一致した。

 シルフィア様にとっては住み慣れた森を、泉を離れるのだ。苦渋の決断であろう。

 てっきり肉盾である俺に死んで来いなど言うかと思ったが、案外、気づかってくれているようである。

 ありがたい。


「貴方たちは先に泉を離れて。逃げなさい」


 頭に張り付く妖精さんを捕まえ、シルフィア様は空へ放り投げる。


「えーまたー?」

「こんどはたたかうぞー」

「えいえいおー」


「宝玉を取り出します。急いで」


「えーそんなー」

「とんずらよー」

「みんなーぶじでねー」


 シルフィア様の言葉に妖精さんたちは、一目散に森の外を目指して飛び去って行った。

 ひどい慌てようだが、後で無事に合流できるだろうか?


「……妖精の泉の中。泉の宝玉を取り出しなさい」


 とにかく俺は泉の中央。

 最も水底の深い場所へと、水中深く潜り降りる。

 水中にあっても、周囲の水を近寄せない風の舞う空間。

 その中心に、握りこぶし程度の大きさで輝く宝玉があった。


「宝玉を掴んだなら、一目散に安全な場所まで逃げなさい。決して戦おうなど考えないように」


 そう言って、シルフィア様は俺の首に腕を回して背中へと身体を寄せていた。


「決して宝玉。それと……私を放さないように」


 もちろんである。

 何せ柔らかいのだ。放すはずがない。


 宝玉を掴む。

 その瞬間。まばゆいばかりの光が辺りに巻き起こった。

 慌てて宝玉を胸に抱きしめ、水面を目指し泳ぎだす。


 その背中で、シルフィア様の身体の重みが。

 俺の首に回された腕の感触が。

 どんどん失われていく。


 ざぶんと水面に浮きあがる頃。

 俺の背中にシルフィア様の姿はなかった。


 光を失った水面に浮かぶのは、ただ俺1人。


 いや……俺の背中に。

 首筋にしがみつく1匹の妖精さんがいた。


 金の髪に白のワンピース。

 まるでシルフィア様そっくりの妖精さん。


 いったいいつの間に?

 妖精さんは全員、先に逃げ出したはず。

 というより、シルフィア様はいったいどこへ?


 とにかく今は泉の外へ。

 首筋にしがみつく妖精さんを頭に乗せ、岸を目指して泳ぎ出す。

 浅瀬まで辿り着き、ザブザブ水をかき分け走るが……身体が重い。


 魔力パワーにより強化されたはずの身体能力。

 それが、今は元の世界にいた頃と同じ。

 貧弱な35男の身体能力に逆戻りしたかのようだ。


 頭上を覆う雷雲はすっかり晴れ、晴天そのもの。

 雨は降り止み、辺りの火勢は勢いを増すばかり。


 これは……シルフィア様の魔力が消えたとでもいうのか?

 俺は自身の身体を。力を精霊の目で確認する。


────────────────────────────────────

名前:マサキ:シルフィア

種族:地球人:精霊さん?

性別:男:女

年齢:35:18


体力:60:60

魔力:0:10


契約スキル

 精霊アイ  :F

 道具ボックス:F


魔法スキル

 光魔法: F

 風魔法: E

 水魔法: E


物理スキル

 ひっかき :B

 かみつき :A

 たいあたり:A

 パンチ  :A

 体力自動回復:C


特殊スキル

 暴飲暴食

────────────────────────────────────


 俺のステータスがヒドイ事になっていた。

 いや。それよりも、問題はシルフィア様。

 その種族が、精霊様から精霊さん?に変化していた。


 という事は……俺の頭の上でブルブル震える小さな妖精さん。

 これがシルフィア様だと。そういう事なのだろうか?


 ようやく岸辺に辿り着いたは良いが、すでに周辺の森は火に覆われていた。

 この中を走り抜ける。

 シルフィア様の。風の加護が消えた今。

 熱気と煙に巻かれて死ぬ可能性が高い。


 それでも、この場に留まれば襲撃者に殺されるだけ。

 行くしかないと覚悟を決めた俺の頭上で、不気味な轟音が響いていた。


 ズゴゴゴゴ……


 目を向ける頭上には、空を。

 大気を切り裂いて落ちる1つの塊。


 巨大隕石。


 もはや躊躇はない。

 俺は全力で炎が舞う森へと駆けこんだ。


 唸りを上げる巨大隕石は、狙ったように妖精の泉。

 その中央へと落着する。


 ズドドドガーンッッッ!


 泉の水が吹き零れ、風が舞い、炎に消える。

 その衝撃波に森は、樹木が、俺の身体は大きく吹き飛ばされていた。


 シルフィア様を胸に抱きこみ、宝玉を片手に抱え、俺は倒れこむ。

 倒れる俺の上には、倒壊した樹木。

 まるで盾となり、衝撃波から俺を守ってくれたかのようだ。


 しかし……これはマズイ。

 俺を隠すかのように覆い被さる樹木だが、その枝に炎が引火していた。

 早く移動しなければ、樹木と共に丸焼けである。


 身体に力を込めようとする俺の視界に、異形のモンスターの姿が映る。


 全身から炎が噴き出た人型のモンスター。

 サラマンダー男。

 炎精霊の下僕にして炎を扱う異形のモンスター。

 その姿は燃え盛る二息歩行のトカゲ男だ。


「グゴッ。もう誰もいやしねーゲッ」

「土のS級魔法。アース・メテオインパクトだゲッ」

「生き残りなんているはずないゲッ」


 野郎。俺たちを探しているのか?

 だとすれば、今は動けない。


「いちおう魔力サーチしてみるゲッ」


 マズイ。俺は息を止め身を潜める。

 魔力サーチ。

 魔力で周辺の相手を探知する異世界の魔法。


「グゴッ?!」

「なんか引っかかったゲッ?」


 魔力サーチに息を止める意味はないだろうが……

 覆い被さる樹木に火が周り、触れる俺の身体までもが熱い。

 それでも、男は忍耐。今は耐える時。


「……いや。何も引っかからねえゲッ」

「むっちゃ小さい魔力反応あるけど……ネズミか何かだゲッ」


 元々俺の魔力は0。

 そして、シルフィア様が魔力を失った今。

 妖精さんになったシルフィア様の魔力は、わずかに10。

 一般人ですら100程度はある中で、魔力10など小動物にしか見えないという。


「そんなん放っておくゲッ」

「それより泉を見るゲ。完全に干上がっているゲッ」

「こりゃ宝玉もろともペシャンコだゲッ」


 俺の存在は無視されたようだ。

 それは良いのだが……無駄話でサボっているんじゃない。

 熱いから早くどこかへ行けという。

 何せ今も俺の上では樹木が燃えているのだ。


 熱で朦朧とする俺の脳内に、シルフィア様の知識が流れ込んでいた。


───シルフィア様情報───


宝玉。

それはモンスターを生み出す魔力の源。

一般にダンジョンコアと呼ばれる存在。


莫大な魔力を秘め、入手した物はその魔力を受け継ぐダンジョンマスターとなる。

そのため、モンスターも。人間も。ダンジョンコアを求めて争う。


妖精の泉の宝玉は、森の迷宮のダンジョンコア。

生まれ出るモンスターは、妖精。


妖精は魔力に優れる反面、体力に劣り、その寿命は約15年程度。

その寿命を延ばすため、妖精は契約者を求める。

契約する事でお互いの魔力、スキル、そして寿命までをも共有する。


そのため、なるべく若く生命力にあふれる相手。

そんな契約者を求め、成人した妖精は旅に出る。


契約の際、契約者は妖精の魔力を扱うことができる代償に、妖精の支配下に置かれることとなる。


ある時。

これまで例にない、おそろしく能力の低い妖精が生まれ出た。

その妖精は運動や勉強、魔法はおろか、喋る事すら出来ない落ちこぼれ。

そのため、成人したにも関わらず、いつまでも妖精の泉に。

誰も訪れない宝玉の間に引きこもるしか出来ないでいた。


長年にわたり宝玉の魔力を浴び続けたある時。

落ちこぼれであった妖精は、宝玉の。

ダンジョンコアの力を手に入れ、ダンジョンマスターとなっていた。

そして、その魔力は妖精を精霊へと進化させる。


ダンジョンマスターとして度重なる襲撃から泉を守るうち。

ついには魔族から使者が訪れる。

魔族の傘下に入るよう。ダンジョンコアを差し出すようにと。


魔族を制するのは邪神。

破壊と殺戮を好む邪神の配下になれば、妖精たちは無理矢理ゴブリンと契約させられてしまうだろう。


悩むダンジョンマスターの元へ1人の人間が泉を訪れた。

その能力を見た時、ダンジョンマスターは妖精の泉を。

妖精たちの暮らしを守るため戦う決意を固めていた。


──────────────


 シルフィア様が妖精さんの。

 自身の情報を隠していた理由。


 妖精との契約。それは奴隷契約。

 魔力を与えられる代償に、妖精の支配下に置かれるという。


 そして、シルフィア様は本物の精霊様ではない。

 宝玉の、ダンジョンコアの魔力により進化しただけの偽物。


 ダンジョンから切り離されたダンジョンコアは魔力を失う。

 ダンジョンコアの魔力が失われては、元の妖精さんに戻るのも必然だ。


「しかしダンジョンコア。もったいないゲッ」

「潰さなくても良いのにゲッ」

「邪神様に逆らった見せしめだゲッ」


 世界を制しようとする邪神。そして魔族。

 シルフィア様はそれに反抗したばかりに。


 そうか……だからこその俺だ。

 シルフィア様は襲撃により、いずれ逃げ出す羽目になると分かっていたのだ。


 俺の特殊スキル。

 暴飲暴食。


 ダンジョンコアの魔力を失っても。

 精霊の力を失っても生き残れるよう。

 俺に付近のモンスターを狩らせ、スキルを習得させたのもそのため。


 背中が熱い。

 焼け落ちる樹木。

 焼けただれる背中。

 だが……大丈夫だ。


 なぜなら、俺には力がある。

 シルフィア様の指導の元。

 手に入れた数々のスキル。

 その1つ。体力自動再生。


 焼けただれた背中の皮膚が、徐々に再生されていく。


 シルフィア様は出会ったばかりの俺を信頼し、力を与えてくれた。

 もちろん、それはシルフィア様に事情があり思惑があったからだ。


 だが、それでも俺はシルフィア様からの信頼が嬉しかった。

 何より……妖精の泉での暮らしは楽しかったのだ。


 だから──なんとしても泉の宝玉を安全な場所まで。

 再び妖精たちのダンジョンを作りだすため。

 誰にも干渉されない妖精たちの楽園。

 妖精キングダムを建国するため。


 それこそが、俺がこの異世界で成すべき事であり、俺の命にかえてもやるべき事。


 そして、新たな妖精の泉が、ダンジョンが生まれる時。

 そのダンジョンコアもまた力を取り戻し。

 シルフィア様も元の御姿を取り戻すはずだ。


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