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5.泉での戦闘


 妖精の泉に迫る魔族の軍勢。


 その数は300……400……まだ増えやがるのか……

 それでも、何の因果か異世界でお世話になったこの場所を守るため。

 今はただ全力を尽くすだけだ。


 泉の周囲に生い茂る木々。

 その隙間から遠くに見えるは、人型のモンスター。


────────────────────────────────────

名前:ゴブリン

体力:140

魔力:110

スキル:

 剣:E


特殊スキル:

 繁殖(着床確率を100%にする。

 ただし、相手が何であれ、生まれる存在は同族に固定される)

────────────────────────────────────


 俺の震えは何だったのか……緊張して損したではないか。

 襲い来る敵はゴブリン。

 その戦闘力は一般人を多少強くした程度。

 今の俺にとっては、全く大した相手ではない。

 しかし……嫌な特殊スキルだな。


「ゴブリンって……妖精とも、その……繁殖できるのでしょうか?」


「ありえません。妖精が生まれるのは、妖精の泉だけです」


 そうだ。

 人形のように愛らしい妖精さん。

 そのような機能は存在しないに決まっている。

 従って大も小も排泄することはない。夢が壊れなくて一安心だ。


「そもそも入らないでしょう? いえ、もしかすると繁殖スキルで子供のゴブリンなら? 汚らわしい!」


 ……という事は、妖精さんにもあるのか。

 ならば、なおの事。

 泉で共に暮らす妖精さんは俺の家族も同然。

 触れただけで妊娠しそうな薄汚いゴブリン。

 1匹たりとも先へ通すわけにはいかない。


 そうこうするうちに、先頭のゴブリンが木々をかきわけ、泉のふもとへ顔を覗かせた。

 思わず目と目が合うが、間近で見るその姿は醜悪そのもの。


「ゴブッ! ゴブッ!」


 何が嬉しいのか手に持つ剣を振り上げ、シルフィア様を指さしゴブゴブ叫んでいた。

 うるさい奴だ……耳が腐るではないか。

 このような不協和音。これ以上シルフィア様に聞かせる訳にはいかない。


 魔力サーチに映るゴブリンたちの姿は都合500匹ほど。

 シルフィア様の力を借りて、今、俺が詠唱するのは風魔法の奥義。


「吹き飛べ。獰猛なる風。ウインド・トルネード!」


 詠唱に合わせて空中に1本の渦が現れた。

 渦はやがて風をまとい竜巻へと変化する。


「ゴブゥ?!」

「ゴブッ! ゴブゴブッ!!!」


 今さら騒いだところで、もう遅い。

 相手が500匹だろうが1000匹だろうが。

 全てを飲み込み荒れ狂う竜巻。

 それが風のS級魔法。ウインド・トルネード。


「ゴブギャー!」


 竜巻に巻き込まれたが最後。

 空へと舞い上がり、次々に地表へ叩きつけられるゴブリンどもたち。

 災害級の荒業を前に、薄汚いゴブリン如きが生き残れるはずはない。

 これがS級魔法。人知を超えた最強の力。


 しかし……これは……やりすぎたか?


 広範囲に竜巻を巻き起こすウインド・トルネード。

 手加減など無い。敵も味方も関係なく猛威を振るうその前に。

 泉周辺の樹木も動物もみな吹き飛び、周辺に舞い落ちていた。


「……貴方の魔法には問題ありです」


 確かに問題あり。かもしれない。

 全てを破壊し飲み込むからこそのS級魔法。

 だからといって、守るべき森を破壊してしまっては本末転倒である。


 おまけに魔族の軍勢は、ゴブリンだけではない。

 一丁前に頭が回るのか、巻き起こる竜巻を大きく避け、別方角から泉を目指す集団がいた。


 羽をまとい空を飛来する。

 小さな鬼を連想させる醜悪なその姿。


────────────────────────────────────

名前:インプ

体力:130

魔力:220

スキル:

 暗黒魔法:D


特殊スキル:

 淫汁(興奮を高める液体を放出する。

 液体に触れた対象は理性を失うため、戦闘継続は困難となるだろう)

────────────────────────────────────


 魔族はこのように下品なモンスターばかりなのだろうか?

 まさか俺の可愛い妖精さんたちに、あのような下卑た汁。

 1滴たりとも浴びさせるわけにはいかない。

 そのためであれば、再度の森林破壊もやむを得ない。


「待ちなさい。真の魔法というものを、よく見ておくことです」


 片手を水平に掲げ、俺を制するシルフィア様。

 瞬間。晴天だった青空を黒い雲が覆い隠していた。


「インプゥ?!」

「イプッ! イプププッ!!!」


 不穏な空模様に騒ぎ出すインプども。

 だが、逃げるにはもう遅すぎた。


 シルフィア様が唱えるは、広範囲に雷雲を呼び無差別に雷を落とすという、これまた災害級の荒業。

 S級魔法。ライトニング・ジャッジメント。


 「インプギャー!」


 天から無数に降りそそぐ雷光。

 その一筋一筋が、絶滅的威力を誇る魔法の稲妻。

 宙を舞うインプに落ちた稲妻は、周囲を飛来するインプへと瞬く間に連鎖。

 無数のインプが次々に地面へと叩き落とされていく。


 さすがはシルフィア様。

 凄まじい魔法……


 降りそそぐ雷光は、付近の樹木をも直撃。

 瞬く間に火を噴き、辺り一帯は燃え盛る地獄模様と化していた。

 その自然破壊力もまた、俺の追随を許さないものである。


「……シルフィア様。さすがに森林火災はマズイかと……」


「何もマズイ事などありません。泉に浸かる私たちに炎の害はありませんから」


 まあ、そうなのだが。

 俺が言いたいのはそういう事ではない。


「ゴブッ!ゴブッ!」


 奇跡的に竜巻被害を回避したゴブリン共の生き残り。

 生意気にも逃げ出そうとしていた所を、火災に、煙に巻かれ一網打尽である。


 どうやらシルフィア様の言う問題ありというのは、俺の魔法で討ち漏らしが出ているという意味だったようだ。


 確かに侵略者を前にして、自然を気づかい手加減する場面ではない。

 加えて、地球でも昔は自然破壊など誰も気にしていなかったものだ。

 異世界はまだまだ文明に乏しい未開地域。

 自然保護の観念に乏しいのもやむを得ないところか……


「森なんて放っておけば勝手に再生するものです」


 そんな言葉とは裏腹に、燃え盛る森林に豪雨が降りそそいでいた。

 ライトニング・ジャッジメント。

 呼び寄せる雷雲は、稲津と同時に豪雨をも降り散らす。

 風と水。2つの魔法を高レベルで使いこなすシルフィア様だからこそ可能な魔法。


 炎はあくまで打ち漏らしを殲滅するため。

 相変わらず火災は続いているが、この様子ならいずれ鎮火するだろう。

 未開の異世界においても、自然保護を忘れないエコな精霊。

 さすがはシルフィア様である。


「それよりも、集中しなさい。大物が来ます」


 泉周辺では、竜巻が起こるわ大雨が降るわ雷が落ちるわ炎が舞うわの大惨事。

 そんな災害を乗り越え、泉へと近づく1つの大きな影があった。


────────────────────────────────────

名前:ウルトラゴブリン

体力:3000

魔力:2200

スキル:

 炎魔法   :C

 パンチ   :A

 たいあたり :A

 体力自動回復:C


特殊スキル:

 繁殖

────────────────────────────────────


 お前……本当にゴブリンなのか?

 見上げる身長は7、8メートルはあるだろう。

 いったい何をどうしたらこうなるのか?

 しかも繁殖……こいつの子供もこうなるのか?


「あくまでゴブリンの変異種で、生まれてくる子供は普通のゴブリンです」


 ウルトラゴブリンが量産される心配はないという。一安心である。


 いや。一安心している場合ではない。

 森を、炎を抜けて迫り来る巨体。このままでは踏みつぶされてしまう。

 お互いの距離は10メートルほど。まだ距離がある。

 ならば──


「穿て。風の弾丸。ウインド・バレット!」


 近づかれる前に決着をつける。


 ズダダダダダダ


 大は小を兼ねるとはいえ、ただデカければ良いというものでもない。

 その図体なら狙い放題の打ち放題。


 俺の連射魔法に対してウルトラゴブリンは魔力バリアを展開。

 風の弾丸をものともせず、ただ勢いのままに突っ込むウルトラゴブリン。

 ザブザブ水をかき分け、俺たちの陣取る泉にまで侵入して来ていた。


「何をやっているのです……やはり私が」


 手間取る俺の姿を見て、手を貸そうと進み出るシルフィア様。

 その片手を掴み取る。


「シルフィア様、すみません」


 そのまま、お姫様だっこで担ぎあげる。


「なっ?!」


 水をかきわけ迫る巨体。

 その身体が泉深く入ったその時。

 俺は両手に抱くシルフィア様と共に空中高く飛び上がっていた。


 胸元まで水に浸かった状態からの、ありえない跳躍力。

 これも風魔法の力。風の力を加えたスーパージャンプ。

 宙を舞う俺が詠唱するのは、天空から1本の超巨大雷を落とすA級魔法。


「落ちろ。天の雷槍。ライトニング・ストライク!」


 広範囲を殲滅するライトニング・ジャッジメントとは異なり、単体特化した1本の超巨大雷。

 直撃した際の威力は、A級というレベルにない。


 ドシャーン!


 しかし、ウルトラゴブリンを狙った超極太雷槍は、狙いが逸れたか妖精の泉の水面に落ちていた。

 残念……だが、何も俺の腕が悪いわけではない。

 威力、速度ともに優れる魔法だが、単体特化のくせに狙った的に当てづらいという欠点があるからこそのA級止まり。

 

 まあ、用は使いようだ。


 泉の水面に落ちた巨大雷。

 その圧倒的なまでの余波が、電流が水面に浸るウルトラゴブリンへと伝導する。


「ゴゴブォォォー!?」


 特大ダメージを与えると同時に一時的にその身体をマヒさせていた。

 ジャンプから草地に着地した俺は魔法で追撃。一気に勝負を決める。


「ライトニング・ストライク!」


 再びの超極太雷槍は、狙いたがわずウルトラゴブリンの頭上を直撃する。


「ゴブギャォォォ……」


 所詮はただの筋肉馬鹿であった。

 天才魔法使いを自称する俺の敵ではない。

 妖精の泉に生息していた魚たちも雷の余波で浮かんでいるが、戦争に犠牲はつきもの。

 仕方のないことである。


 電流でコンガリ丸焦げ状態で横たわるウルトラゴブリン。

 これなら生より楽にいけそうだ。

 例のごとく、かみつき暴飲暴食でいただきます。


 ぱくり。


────────────────────────────────────

獲得スキル

 パンチ   :A(NEW)

 体力自動回復:C(NEW)

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