40.避難キャンプ
周囲に散らばるはかつての避難民たち。
かつての山賊たち。
月夜の荒野に立つのは、ただ俺たちの姿だけ。
「コーネリア。あらためて確認する」
「ん」
「俺やシルフィア様。ミーシャ達のことは内密に頼む」
「ん。分かった」
本当に分かったのだろうか?
顔色一つ変えない無表情。鉄面皮。
まあ、変に騒がれるよりよほど良いか。
ガブリ ゴクン
「ニク。ウメーーーー!」
半面。コイツはうるさすぎる。
そもそもが俺が倒したサイクロプスマン。
勝手に食べるんじゃない。
ミーシャに負けじと、俺も食事に参加する。
シルフィア様はといえば、サイクロプスマンの魔石を食べていた。
ガブリ パクリ モグモグ ゴクン
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名前:マサキ+シルフィア様
種族:人間+精霊さん?
体力:1075
魔力:770 ↑200
契約スキル
精霊アイ :C ↑
精霊ボックス:C ↑
魔法スキル
光魔法:C ↑
風魔法:B ↑
水魔法:B ↑
習得スキル
槍術 :A
古武術 :A
棍棒術 :A NEW
剛力 :A
俊敏 :A
瞑想 :A
体力自動回復:A
光合成: D
発光 : C
草食 : D
肉食 : D
月を見た:D
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翌日。
晴れ渡る荒野に立ち並ぶのは、一時とはいえ旅を共にした避難民たちの墓。
「ナンマイダー」
チーン
ミーシャの唱える祈りだけが響き渡る。
昨晩の惨劇を知る者は、他にいない。
彼らの最期を知るのは、俺たちだけ。
荷物をまとめて、無事な馬車へと詰め込む。
だが、その馬車を引く馬も、すでにいない。
「よし。ミーシャ。馬車を引け」
「ワカッタわ! って、引くわけないでショ! アンタ。最近アタシの扱いが酷くない?」
「おいらの扱いもヒドイぞー。マサキが引けばいいんだぞー!」
……まったく。
お前の取り柄はその体力だけだというのに。
今。その体力を生かさずして、どうする?
「にゅ!」
馬車を引くためのハーネスを手に、羽をはためかせるシルフィア様。
なんと恐れ多い!
口ばかりで働かない部下とは違い、自らが率先して引こうなど……
お前たちも見習ってはどうか?
「だいたい一番の力持ちってマサキじゃない。アンタ男でしょ? 引きなさいヨ」
「そうだーそうだー。口ばかりのマサキが見習えー」
……ひどい男女差別の上に、口ばかり達者になったものだ。
やむをえず、俺はハーネスを身体に巻き付け馬車を引く。
まさかシルフィア様に引かせるわけにもいかない。
しかし、ミーシャと妖精さん。
契約者同士、似た者同士というか何というか。
「ごめんなさい。足の怪我……無事なら私が引いたのに」
それに比べて、コーネリアの立派な姿勢。
彼女は騎士なのだ。
「……いえ。私は冒険者」
それでも騎士なのだ。
心構えが、その性根からして平民とは異なる。
思えば、自分を犠牲に俺を助けようとしたのがコーネリア。
もはや誰が何と言おうが、問答無用で俺は信頼する。
「アンタ。コーネリアって言ったっけ? 新参ってことはアタシの部下ね」
「おいらたちが上司だぞー。食べ物を持ってこいだぞー」
……それに比べて信頼ならないのが、この2人。
確かに仲間になったばかりのコーネリア。
俺たちの中では、その立場は一番低い。
だからといって、自身の立場を笠にきて理不尽な命令を下すなど。
ポカリ
「怪我人に何を言っている? 馬鹿なことを言う元気があるなら、俺の代わりに馬車を引くか?」
「ウェ!? あ、あたしアンデッドだから昼は弱いのよ。オヤスミー」
ミーシャ。戦闘力は大したものだが、やはり知能は20。
将の器ではない。
将となろうものなら、部下に寝首をかかれるのが落ちだ。
あの晩以降。
襲撃もなく、俺たちは王都を囲む城壁へと辿り着く。
「ウワー。これみんな逃げてきたの?」
巨大な城壁の入口は、魔族からの避難民で長蛇の列が築かれていた。
さらには 避難民たちが寝泊りしているのだろう。
城壁の外に立ち並ぶ無数のテント。
王都周辺は、さながら避難キャンプの様相を呈していた。
「魔族から逃れて来たのだが、王都に入れないだろうか?」
テントでくつろぐ男に問いかける。
「各地から大勢が押し寄せているからな。入るには、それなりの身分証が必要らしいぞ?」
確かに誰でも彼でも王都に入れたのでは、収集がつかなくなる。
治安も悪化するだろう。
適切な処置ではあるが、身分証か……
待てよ?
そういえば、俺はギルドから冒険者としての身分証を渡されている。
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名前 :マサキ
ランク:F
職業 :力士
担当 :トータス村支部 マキナ
備考 :薄汚い恰好をしており虚言癖を持つが、力はあるっぽい
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なんだこれは……たまげたなあ。
俺の冒険者証は、受付の女。マキナから貰ったもの。
あの女。適当に書いているだろう……
それでも、これで俺の身分は保証された。
「ミーシャ。身分証はあるか?」
「コノ……あるわけないでしょ!」
孤児のミーシャ。
冒険者となったが、冒険者カードを貰う前に死んだのだ。
身分証など持つはずがない。
「私はある。これ」
そう言って、コーネリアは自身の冒険者証を取り出した。
ここまでの道中。
シルフィア様が魔法で治療したおかげで、今はすっかり元気となっていた。
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名前 :コーネリア
ランク:B
職業 :ガード
担当 :ドッカノ町支部 テキト
備考 :しっかりした実力に誠実な人柄。
特に防御に長けており、魔法使いや僧侶の護衛に力を発揮する。
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さすがは騎士。
やはり俺の護衛にふさわしいのは彼女しかいない。
そして、残念だがミーシャは留守番。
やはり穴に埋めるしかない。
王都の観光は、俺たちに任せてもらうとしよう。
「あーお前。その身分証ではダメだぞ?」
「なぜだ?」
冒険者になるには担当者との面接。その許可が必要。
それなりの身分は保証されているはずだ。
「なぜって、それなりの身分証と言ったろ? ランクFの新人では何の保証にもならん」
なんてことだ……
そうなると俺も王都に入れないというわけか。
「ダサッ。あんたこそ穴に埋まれば? というかー。別に王都に入る必要ないじゃん?」
必要あるのである。
貴族である俺がテント暮らしなど、出来るはずがない。
いや。俺のことよりも、シルフィア様だ。
女王であるシルフィア様に対して、そのような貧しい暮らしをさせるわけにはいかない。
加えて言うのなら──
「薄情な奴だな……先に避難したアリサのことは良いのか? 王都に知り合いもいない。1人で寂しがっているかもしれんぞ?」
先に避難しているアリサ。
商店を経営していたのだから、まともな身分証を所持して当然。
おそらく王都に入っているはずだ。
「ソウネ。でも、今のアタシが会っても……」
何をしおらしいことを。
そもそもが、前回、分かれた時のお前はゾンビだったではないか。
今の方が臭いもなくマシというもの。
おまけに微妙に知能も戻ってきている気がする。
もっとも、その知能も悪態にしか使われないため無駄ではあるが。
「ウッサイわね。でもアリサ。元気なのかな……」
何とかして王都に入る方法がないものか?
思案する俺に対して、男が話しを続ける。
「なに。Fだろうと冒険者証を持つなら……そら。そこに冒険者ギルドの出張所があるだろ?」
男の指さす先。
難民相手に商売をするテントが乱立する場所。
その中に、冒険者ギルド 臨時出張所と書かれたテントが鎮座していた。
なるほど。
ランクが足りないというのなら。
ここで依頼をこなしてランクを上げれば良いわけか。
「ありがとう。ミーシャ。行くぞ。冒険者ランクを上げて王都に入る」
「ワカッタわ」
「コーネリアはどうする? 出来れば今後も一緒にパーティを組みたいのだが?」
ランクB冒険者であるコーネリア。
彼女の身分証であれば、王都に入るのに何の支障もない。
「貴方は命の恩人。私もお供する」
魔族との戦いで仲間を失くしたコーネリア。
行く当てもないというのであれば、彼女も妖精キングダムの住人。
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妖精キングダム
現在の国力
首都:─
国力:0
人口:6
戦力:かなり強い
役職
女王:シルフィア様
軍師:マサキ
騎士:コーネリア
肉奴隷:ミーシャ
賑やかし:妖精さん
別行動:アリサ
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後は王都で将軍であるアリサを迎え入れる。
そこからが、俺たちの戦いの始まりだ。
?章完結。しばらく?お休みです。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。




