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37.生贄


 王都を目指して移動する避難民の群れ。


 俺は男の指示で怪我人。老人ばかりの集団と合流。

 隊列の後ろに付き、共に王都を目指して移動する。


「癒せ。薄幸する光。シャイニング・ヒール」


 その道中。

 心優しい俺は、治療魔法で傷病者の怪我を癒してやっていた。


「ありがたやー」


「礼は不要。1万ゴールドだ」


 同時に、せこせこと小銭を稼いでいく。


「こんの……アンタには慈悲の心ってもんがないノ!」


 当然ある。

 あるからこそ治療するのだ。


 俺が極悪人なら、このような傷病者。

 小指1本で始末。所持品を根こそぎ奪うことも可能。


 しかし、彼らは同じ魔族と戦う者。いわば同士。

 慈愛の精神で治療を施しているのだ。


 だからといって無償で治療するのも、また異なる。

 奉仕には相応の対価が必要。

 それが社会の常識であり礼儀というもの。


 貴族たる俺が社会の礼儀を守らないような真似。

 出来ようはずもない。


 そもそもがグールであるお前に言われたくはない。


「ア、アタシだって……好きでこうなったんじゃないわヨ」


 文句があるなら、お前が無償で治療すれば良い。


「バカなの? グールに治療魔法が使えるわけないでしょ」


 何も治療するだけが助けではない。

 お前にも出来ることがあるはずだ。


 例えば──


「ナンマイダー」


 チーン


「って、なんでアタシがこんな……」


 俺の治療魔法では重症者の治療は出来ない。

 辛い逃避行の最中。

 旅の途中において、無念にも生涯を終える者も多い。


 死者を弔うのは、僧侶の領分。

 虚無僧であるミーシャの仕事である。


「ありがたやー。どうかこれを」


「チョット! アタシ、こんなのいらないわヨ」


「受け取っておけ。彼らの気持ちを無下にするなよ」


 困難を乗り越えるため。

 それぞれが、それぞれに出来る事で助け合う。


 俺にとっては治療魔法であり、彼らにとってはそれが金銭。

 方法に違いはあれど、誰かの助けになりたい気持ちは同じ。


 俺は彼らを助けると同時に、彼らもまた俺を助ける。

 どちらが偉いではない。お互いが五分の立場。

 それこそが、本当の仲間というものだ。


「フーン……で、本音は?」


 王都。その響きから、おそらくは栄華に満ちた華やかな都市。

 田舎村だったトータス村とは異なり、都会で遊ぶにはお金がかかるもの。

 贅沢するにも、今から貯蓄しておかねばならないのだ。


「……やっぱりネ」


 何がやっぱりなのか?

 失礼な奴である。


「マサキさん。こちらへ。ささやかですがお礼の宴を開きますぞ」


 知力20のミーシャに分からずとも、分かる人には分かるもの。

 俺の偉大さ。高潔さが。


 すでに金銭を受け取った身。

 これ以上の礼など不要ではあるが、是非にというのであれば、固辞するのも失礼な話。


 俺は老人の誘いに乗り、宴へと参加する。


「ふぉっふぉっふぉ。わしの若い頃はなあ──」


 なぜ俺が老人に取り囲まれ、過去の自慢話を聞かされねばならないのか?

 これでは拷問。世の中、理不尽である。


「わしも昔は槍のマタキチと呼ばれておってな──」


────────────────────────────────────

名前:マタキチ

LV:80

体力:30

魔力:80

────────────────────────────────────


 LV80。

 確かに過去は強かったのかもしれない。


 だが、年齢と共に体力が衰えるのは、逃れようもない事実。

 いかにLVが高かろうが、今やピザデブニートにすら劣る体力。

 ただのヨボヨボの爺さんである。


「わしは武術を極めたのじゃ。あのベアーマン。熊男と1対1で戦った時など──」


────────────────────────────────────

名前:タツオ

LV:99

体力:20

魔力:99

────────────────────────────────────


 LV99。

 赤子にすら捻られそうな身体。

 この数値……本当は年齢の間違いではないのか?


 まあ。誰しも過去は美化して語るもの。

 聞き流しておくくらいがちょうど良い。


────────────────────────────────────

体力:1075 ↑300

魔力:570  ↑100

────────────────────────────────────


 避難民と合流して5日。

 そんなこんなで旅は順調に進む。


 だが、その日の夜。

 避難民が集団となって移動する。

 その理由が判明した。


「おらー俺ら泣く子も黙る山賊団じゃー」

「金を寄こせやー」


 集団で移動するのは、何も魔族から身を守るだけではない。

 山賊。野盗。

 いつの時代も悪い奴は存在するもの。

 それらに対抗するため、避難民もまた集団となり移動するのだ。


「ぎゃー」

「うわー」

「しんだー」


 山賊の夜襲で次々と倒れる避難民たち。


 無理もない。

 魔族から逃れる際。

 大なり小なり怪我を負っている者が多いのだ。


 だからといって、一方的にやられるわけではない。


「返り討ちやー」

「やったれー」

「冒険者をなめんなー」 


 傷ついているとはいえ、兵士も冒険者もいる。

 夜襲を受けた混乱もそこそこに、反撃に転じていた。


「やっべ。強いやん」

「こら。あかん」

「たいしょー。頼んます」


 ドカーン


 山賊と剣を合わせる兵士が吹き飛んでいた。


 のそり姿を現したのは、身の丈5メートルはある巨人。


────────────────────────────────────

名前:サイクロプスマン

体力:2000

魔力:1000

────────────────────────────────────


 どう見てもモンスター。

 なぜ山賊の大将がモンスターなのか?

 連中。モンスターと通じているのか?


 ともあれ、これは想定外の事態。

 共倒れすれば良いものを、厄介な連中が手を組んだというわけだ。


 ドカーン


 サイクロプスマンが振るう巨槌。

 その一叩きで馬車が吹き飛び、人体が破裂する。


 とんでもないパワー。

 山賊を相手に押していた冒険者パーティが、粉々に打ち砕かれる。


「こいつ強すぎる」

「駄目や。逃げろー」

「撤退やー撤退ー」


 馬車を走らせて。

 ある者は徒歩で。

 避難民たちは、我先に逃げ始めていた。


「逃がすかよー」


 逃げる獲物をやすやす見逃す山賊ではない。

 山賊刀を振り回して、その後を追いかける。


「コノっ! アンタ。いつまで寝てるのよ!」


 ポカリ俺を蹴とばすミーシャ。

 そのまま外に飛び出し、襲い来る山賊を蹴り飛ばす。


 負傷者たちの馬車に留まる俺。

 別に眠っているわけではない。

 すでに起きて状況は把握している。


 俺が動かない理由。

 それは……


「やむをえん……」


 ポツリ呟くのは避難民のリーダー格。

 アヤシーン。


 ヒヒーン


 馬のいななき。悲鳴。

 同時に負傷者の乗る馬車が、動きを止める。


 馬車を引くべき馬が、2頭ともにその首を断たれていた。


「許せ。どうせ先の短い命。せめて我らのために時間を稼いでくれ」


 馬を両断したのはアヤシーン。


 馬を失い足を止める負傷者の馬車。

 それは、老人たちの馬車も同様だ。


「お? なんや?」

「よう分からんが、あの馬車を狙うぜ!」


 俺たちの馬車を残して。

 他の馬車は、避難民たちは一斉に走り去る。


 置き去り。

 捨て石。


 見捨てられたのだ。

 生贄にされたのだ。


 これこそが、重症者ばかりを。

 老人ばかりを集めたその理由。


「……ふむ。どうやら他の者は行ったようじゃな」

「そうじゃなあ。無事に王都まで着ければ良いが」


 だというのに、一向に驚く様子もなく老人たちは喋り続ける。


「どうせ老い先短い身じゃ。せめて最期くらいは皆の役に立たんとのう」

「もっともわしらもかつては腕を鳴らした身。そうやすやすと死にはせんぞ」


 分かっていたのだ。

 自分たちが1つの馬車に押し込まれた。

 その理由。


「ふおー槍のマタキチ。いざ参るぞよー!」


 山賊に取り囲まれる馬車。

 老人たちが武器を手に立ち向かう。


 ズバーン


 転がる首。


「おお? ジジイが生意気こきやがって」


 山賊の一刀に切り捨てられ、踏みつぶされる。

 槍のマタキチ。即死である。


「マサキさん。逃げてください」

「俺らは重症。もう動けない。でもマサキさんは違う」

「その魔法で。避難する他の者たちを癒してあげてください」


 分かっていたのだ。

 いざとなれば見捨てられる。

 そのことを。


 ズバーン


「うぜー。怪我人が調子こいてんじゃねーぞ」


 抵抗する負傷者が切り裂かれ、倒れ散る。


 アヤシーン。

 確かにお前の判断は正しい。

 集団を生かすため、弱者を切り捨てる。


 見事な作戦。

 弱者の知恵。


 感情に流され、大局を見失うようでは。

 冷徹な判断を下せなくては、リーダーは務まらない。

 いざその時になれば、俺であってもそうするだろう。


 だが、アヤシーンは決定的な間違いを犯している。


 それは──俺を切り捨てたこと。

 天才軍師である俺を。片腕だと。

 使い物にならないクズだと見限ったこと。


 有能な人材を見分け、取り立てる。

 それが出来ないようでは。

 アヤシーンは決定的に無能である。


「加速する。風の力。ウインド・ブースト!」


 馬車を飛び出した俺は一気に加速。


 先を逃げる避難民の集団。

 その背後を追従するアヤシーンの元まで。


「なっ? うわっ!」


 その首根っこを捕まえ、馬上から引きずり下ろした。


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