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36.5 避難民

魔族大侵攻。


王国を覆いつくさんばかりに、北から。東から。南から。

魔族が王国へと流入する。


各地の村々は蹂躙され、住民は流民となり、王都を目指す難民と化していた。


「がんばれ。王都までもう少しだ」


王都を目指して避難する一団。


その途上。


森から草原から山々から。

武器を片手に襲い掛かる連中がいた。


「おらー。山賊だぞー」

「死ねやー」


王国各地に潜伏する賊にとって、避難民は格好の餌に見えたのだろう。


「あれは? 山賊か?」

「馬鹿な……ここは王都に通じる街道だぞ?」

「あのような、ならず者は一掃されたはずだ」


だが、現に山賊が目の前にいるのだ。


「生き残っていたのなら、また一掃するだけ」

「魔族相手には後れをとったが、山賊ごとき」

「むしゃくしゃしていたところだし丁度良い」


魔族から避難するのは住民だけではない。

避難民を守るため、兵士と冒険者も付き従っている。

魔族の大軍には敵わなくとも、たかが山賊ごとき。


ズバーン


枝を打ち払うようなもの。

勢いだけの山賊が、正規の兵士に敵おうはずがない。


「ぎゃー」

「ひるむんじゃねーぞ」

「とつげきやー」


切り倒されても。

打ち倒されても。

死をおそれず、次々と襲い来る山賊たち。


「なんだ……こいつら?」

「不利になれば逃げだすのが山賊だろう?」

「そもそもが、兵士がいるのは分かっているだろうに」

「それでも襲って来るというのは、どういうことだ?」


押し寄せる山賊の背後から。


ドシーン


一際大きな足音が辺りに響き渡る。


ドシーン


「この揺れは?」

「何かデカイのが歩いてるのか?」

「あれを見ろ!」


木立を突き破り、森の奥から姿を現す一人の巨人。


「魔族……だと?」

「それも……サイクロプスマンか?!」


5メートルを超える巨人。

それがサイクロプスマン。

その身体は、いかなる矢弾も受け付けず。

その怪力は、いかなる鎧もぶち破るという。


A級危険モンスター。

討伐するには、1000人の兵士が必要といわれる凶悪な怪物。


そして、サイクロプスマンに付き従うのは、全身を毛につつまれた汚らしい魔物。


チンパンマン。


体格は人より一回り小さい程度。

その顔に不気味な仮面を付け、手には鞭をたずさえる。

その手の鞭が、音を立てて振るわれた。


ビシーッ


ムチ打つ先は、山賊の背中。


「ぎゃー。やめてくだされー」

「も、もうちょいでさあ」

「お仕置きは勘弁してくだされー」

「い、いくぞ。おめーら!」


魔物が現れると同時。

死に物狂いで襲い掛かる。

山賊の勢いがさらに増していた。


「こいつら……魔族の手先となったのか?」

「いや……これは奴隷だ」

「俺たちが、魔族を奴隷に使うように」

「奴らは人間を奴隷に使っているわけか」


練度も装備も。

避難民を護衛する兵士や冒険者が、山賊を大きく上回る。


だが、山賊の数。死をも恐れぬその勢い。

少しでも秤が傾けば、今の優位は雪崩をうって転げ落ちる。


遠くその様子を眺めるサイクロプスマン。

突如、足元の岩をつかみ取ると、片手で避難民の馬車へと投げつけた。


ドカーン


馬車が粉々に砕け飛ぶ。


魔法でもない。

ただの岩ですら、サイクロプスマンにかかれば、多大な質量兵器と化す。


ドカーン


2度目に投げられた岩が、山賊と退治する兵士の身体を弾き飛ばす。


兵士と冒険者による輪形陣。

その防衛が崩される。

切れ目から輪の中に入り込んだ山賊が、山賊刀を振り回す。


「きゃー」

「あーれー」

「やめてけれー」


その輪の中では、無力な避難民が逃げ惑うだけ。


「しまった」

「輪を抜けられたか?」


踵を返そうとする冒険者。

その無防備な背中が、山賊刀に斬りつけられる。


「げへへ。俺らを前にどこ行くつもりよ」

「おらー。早く馬車んとこ行かねーと、住民が死んでまうぜ」


元々が数に勝る山賊たち。

1対1でも。1対3でも敵わない。

だが、1対5ともなると。


「ぐへへ。隙ありだぜ」


ズバー


「ぎゃー」


正面の山賊と切り結ぶ兵士の背後から。

別の山賊が背中を斬りつける。


勝負の秤は、山賊へと傾いた。


「ぐぬぬ……撤退! 馬車を、避難民を守りつつ撤退だー」


山賊の迎撃を諦め、撤退を選択するも。


「おらー逃がすなー」

「完全に包囲してんやぞー逃げられんわー」


周囲は完全に包囲され、撤退の時期を逸していた。


「ぐぬぬ。ワシが突破口を開く。無事な者は続けー!」


冒険者の中で一際豪華な装備を身にまとう男。

振り回す大剣は、脱出を阻む山賊。

5人の首を一振りで斬り飛ばした。


彼はAランク冒険者。エーラン。


「おおー。エーラン殿に続けー」


破竹の勢いで血路を切り開くエーラン。

その進路上にドシンとサイクロプスマンが姿を現した。


「……エーラン殿」

「やるしかない。奴を倒さねば、我々は全滅だ」

「おお。行きますか!」


エーランが駆ける。

同時に背後から魔法の矢弾が放たれた。


ズガーン


直撃する炎がサイクロプスマンのバリアを大きく揺らす。

同時に爆発の煙が、その視界を塞いでいた。


「もらった! 必殺。大剣スラッシュ!」


放つ剣技はA級大剣技。

数多くのモンスターを屠った奥義の一撃。


ガキーン


サイクロプスマンは片腕で。

棍棒を振るい、弾き防いでいた。


攻守逆転。

サイクロプスマンは無造作に棍棒を振り回す。


早く。重い一撃。


ガキーン


その一撃をエーランは大剣で受け止める。


剣技も何もない。

ただ力任せに、打ち付けるだけの動きなど。

剣技を学んだエーランにとって、防ぐのは容易いこと。


「つっ?! 馬鹿な!」


受け止めたエーランの腕が、ありえない角度に曲がっていた。


5メートルの長身から繰り出される棍棒の一撃。

早く。重い。とても重い一撃。

並の人間の体力で、まともに受け止めることは出来ない。


再びサイクロプスマンが棍棒を振り上げる。

はるか頭上から、振り下ろされる一撃。


ボキーン


大剣で受け止める。

その大剣を支える腕が、へし折れていた。


「ぐぎゃあー!」


大剣を取り落し、地面に膝をついたエーラン。

ドシンドシンと近づくサイクロプスマンを前に。

立ち上がる力は失われていた。


エーランの頭をつかむサイクロプスマン。

持ち上げ、大きな口を開き噛みついた。


「エ、エーラン殿ー!」


ボリボリとむさぼるサイクロプスマンの姿を前に。

身動きすることができない他の冒険者たち。


「へっへっ。あんたら仲間を大勢やってくたな」

「おらおらー俺らが相手やー」


抵抗する気力を失った冒険者を取り囲む山賊たち。

山賊に捕まった者は、男も女も関係なく連中の慰み物となる。


バシーン


チンパンマンが鞭で地面を打つ。


「す、すんません。分かってます」

「楽しむだけでさあ。命までは奪いませんので」

「あとは煮るなり焼くなり、お好きにしてくだせえ」


魔族本体に先駆けて、王国内へと侵入する。

魔族の先遣隊。


その目的は、散り散りに王都を目指す避難民の撃破。

そして新たな奴隷の確保。


生き延びた兵士は。冒険者は。

これからは魔族の奴隷として。

同じ人間を相手に戦う未来が待っていた。

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