34.迎撃その2
村の入口に据えられた巨大な魔導大弓。
これこそがトータス村の切り札。王国最強の矛。
取り付く俺は、発射のための魔力を込めていく。
撃ちだす矢は、大きな槍。
巻き上げ機によって張られた重い弦。
さらには魔力を込めて放つのだ。
その威力は、強大無比。
いかな魔族といえど、ただではすまない破壊力。
それだけに、雑魚を狙っても意味はない。
狙うなら大物。
敵の大将。指揮官の首。
何せ1発放てば次弾装填には多大な時間が必要。
敵が目前に、頭上に迫る今。
悠長に巻き上げ機を巻き直す時間は存在しない。
ドドドド
柵を。門を。俺を目指して突き進む魔族の軍勢。
俺は精霊アイを解放。
無数に迫る魔族。その能力を分析する。
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名前:スーパーウサギマン
体力:300
魔力:300
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名前:スーパータートルマン
体力:1100
魔力:650
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名前:スーパーイノシシマン
体力:1500
魔力:700
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名前:スーパーオークマン
体力:1100
魔力:900
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名前:サラマンダー男
体力:700
魔力:700
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その間も。
頭上から。後方からバードマンが迫り来る。
「にゅ!」「うおーおいらに任せろー」
シルフィア様が魔法で。
妖精さんが空中を飛び周り、追い散らす。
いよいよ門の目前。
魔族の軍勢。その衝突まで猶予はないが──いた。
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名前:炎精霊 ファイアーウーマン
体力:500
魔力:5000
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忘れはしない。
俺の、俺たちの妖精の森を襲った。
壊滅させた張本人。
闇の力に落ちたもう1人の精霊。
しかし、魔力5000だと……化け物め。
しかも、他の魔物の影にいるため、直接狙うことは出来ない。
狙うだけ無駄か?
いや。相手が精霊だというなら、こちらも精霊。
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名前:マサキ
魔力:470 → 0
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今。持てる魔力の全てを注ぎ込む。
道を誤った精霊を──ここで討つ!
ズドシューン
放つ一撃は、精霊をも討つ一撃。
風の魔力を付与した会心の一撃。
精霊殺し。
ドカドカドカーン
「ギャー」
「グワー」
「シンダー」
遮るモンスターを蹴散らして槍が飛ぶ。
ただ一直線。
到達するのは炎精霊。その身体の中心点。
ガキィーーーッッン
一際大きな輝きと共に。
槍が砕け散る。
……魔力バリアか。
加えて、道中の魔物の身体を貫通する際。
その威力を殺されすぎていたのだ。
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名前:炎精霊 ファイアーウーマン
体力:500
魔力:4000(5000)
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バリアの魔力を1000減らしたに過ぎない。
だが、これで分かった。
魔導具では。
紛い物の力では、精霊を討つことは出来ないという事が。
王国の誇る魔導大弓ですら、この程度。
精霊を討つのは精霊。
奴を討つには、俺自身の魔力を上げるしかない。
シルフィア様が、精霊の力を取り戻すほかない。
ジジジ……
突如。魔導大弓が煙を放ち出す。
バードマンの相手を続ける2人を掴み、俊敏に飛びすさる。
ドカーン
轟音。同時に魔導大弓が爆発する。
ドカーン ドカーン
何もない空間が突如、続けて爆発する。
まるで空気が爆弾になったかのように。
門も。柵も。全てが音を立てて崩れ、燃え落ちる。
奴の炎魔法か?
どちらにせよ……もう終わりだ。
「撤退だ! 全員、村を捨てて撤退しろ!」
軍師は引き際を誤らない。
俺は大声を上げて村の冒険者を、兵士を追い散らす。
今は負けたとしても次がある。
その次につなげるためにも……今は。
いかに損害なく撤退するかが肝要だ。
「くっ。マサキさん。駄目だったか……」
俺と同じく柵で奮戦していたケイン。
「撤退しよう。みんな。マサキさんに続いて!」
ケインもまた、周りの者を促し走り出す。
ズドドドド ズドシャーン
壊れた柵を踏み越え、魔族の大軍が村へと到達する。
「ぎゃー」
「うわー」
「しんだー」
バードマンを相手に善戦を続ける熟練冒険者たちを。
踏みつぶし、薙ぎ払い、突き進む。
暴走特急。
その行く先は、村で一番の豪邸。
領主の館。
折しも豪華な馬車に乗り込もうと、領主であろう男がグダグダ動いていた。
「おい。待て。お前たち。まだ領主殿が!」
逃げ出す俺たちを押しとどめようと、ギルドマスターが声を荒げる。
今はそれどころではない。
住民が。女子供が逃げ遅れるならともかく……
「断る。いいから逃げろ!」
領主が普段ちやほや敬われるのも、この時のため。
民では対応できない非常な事態に当たるからこそ。
今。逃げ惑う民を逃がすのが領主の仕事。
それが、領主を逃がすための盾になれなど……
「領主なら。貴族なら意地を見せろ。誇りを見せてみろ」
「馬鹿か! 総大将が残ってどうする? 雑魚どもが盾にならずにどうする!」
もっともではある。
ただし、それは総大将が有能な場合に限られる。
民100万の命より優先される命。
決して失ってはならない世界の宝。
それが許されるのは、俺のような天才軍師だけ。
「冒険者が逃げてどうする! 貴様ら戦え!」
ギルドマスターの命に従い、魔族と対峙する熟練冒険者。
戦場において、もっとも恐れるべきは無能な味方という。
「お前! 汚らしいモンスターなんぞ連れおって。そのモンスターを足止めに置いていけ!」
……ほう……我が主。シルフィア様に対して。
言うにこと欠いて汚らしいとな?
ドカァッ
「ぐふっ……き、貴様?!」
不意を突いたA級パンチが、ギルドマスターの腹を打つ。
「ここから先は俺が指揮をとらせてもらう」
時世も読めず、無駄に民を、兵士を、冒険者を犠牲にする。
そのような間抜けな指揮官。
むしろ、ここで死ぬ事こそが味方のためである。




