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33.迎撃その1


 領主の命により、ギルドマスターの命により、トータス村に戒厳令が敷かれる。


 冒険者の外出は禁止。村の防衛に専念せよとのお達しである。


 しかし防衛するとはいうが……村の周囲を囲む柵。

 木製の、いかにも村といった貧弱な防衛設備。


 唯一頼りになりそうなのは、村の入口。

 門に据えられた1台の魔導大弓。

 王都から持ち込まれたという逸品。

 大型の槍を矢弾として撃ちだす、破壊兵器だけだ。


 戦える人員はといえば、兵隊が50名。冒険者が50名。

 合計100名程度。

 実力者はというと、ギルドマスターとケインの2人。


────────────────────────────────────

名前:ギルドマスター


体力:1200

魔力:1000

────────────────────────────────────

名前:ケイン


体力:1000

魔力:700

────────────────────────────────────


 はたして、これで援軍の到着まで村を守れるのだろうか?


 まあ、守れずとも問題ない。

 いざとなれば村を放棄。逃げるだけである。


 今。一番大事なのは俺の命。


 俺が死んでは妖精キングダムは建国する間もなく滅亡する。

 未来の100万都市が、霧へと消えるのだ。

 つまり、俺の命は村人100万人に匹敵する。


 大局的に見れば、村人が全滅しようが、俺さえ助かれば問題ないという。

 そういうことであれば、そのように戦うだけ。

 人の命は平等ではないというから仕方がない。


 今は魔族と戦い相手の力を知る。

 可能ならば相手の戦力を減らす。

 俺が村に残るのは、そのためだ。


 ──6日が経過した。


 毎日の食事により俺とシルフィア様は順調に成長中。


────────────────────────────────────

体力:775 ↑180

魔力:470 ↑60

────────────────────────────────────


 あの夜以来、魔族の襲撃はない。


 だが、村の柵から眺める外の景色。

 空を舞う怪鳥の数が日に日に増えていた。


 弓を放ち。魔法を放ち追い払うも。

 再び村の上空近くを旋回し続ける。


 まるで何かを監視するかのように。

 我々の隙を伺うかのように飛ぶ怪鳥。


 これは……いよいよ来るか。


 その夜。

 眠りにつく耳に轟く鐘の音。


 ジャーン ジャーン


「起きろ! 来たぞ! 魔族だ!」


 やはり援軍は間に合わない。


 いや……違うな。

 援軍など元からいないのだ。


 トータス村はのどかな村。

 領主にとっては村が全てだろうが、王国にとってはそうではない。

 たかが辺境に位置する辺鄙な村の一つ。

 わざわざ援軍を送ってまで守る価値など存在しない。


 布団を跳ね上げ飛び起きる。


 せめてもう少し時間が欲しかったところだ。

 日々の食事で成長を続ける俺にとって、戦闘の開始は1日でも遅い方が良い。


 が、今さら言っても始まらない。


 思えば魔族の襲撃は2度目。

 妖精の森で襲われ、逃げ出した時の記憶。


 枕元の槍を掴み、高級貴族御用達服を身にまとう。


 まだ右も左もよく分からなかった頃。

 異世界での冒険に胸躍らせた過去。


 眠るシルフィア様と妖精さんを起こして宿を出る。


 闇を透かして見る。

 村の上空を飛び交う怪鳥の群れ。


────────────────────────────────────

名前:バードマン


体力:400

魔力:500

────────────────────────────────────


 急降下。鋭い口ばしで冒険者の身体を一突きする。


「うわあああ」


 異世界の現実は無常にも人の命を奪っていくだけ。

 日々を魔族に怯え、ひっそりと暮らすだけの人類。


「カアーカアー」


 この優劣は覆らない。

 今や人類の橋頭保は消滅していくばかりでしかない。


 それでも──


「走れ。真空の衝撃。ウインド・カッター!」


 闇夜を舞うバードマン。

 精霊アイを通して、その軌跡を狙い魔法を打ち込んだ。


 ズバー


 風の刃に翼を裂かれ、地に落ちるバードマン。

 起き上がろうともがくその身体へと、槍を突き刺した。


 俺が生きている限り希望はある。


 いかな劣勢であろうとも。

 逆転の芽を生み出すのが軍師。


 宙を舞うバードマン。その数は100や200ではきかない。

 1匹退治したとて、魔族にとっては蟻に噛まれたようなもの。


 だが、現実には毒を持つ蟻も存在する。

 巨大な象をも殺す蟻が。


 ガブリ パクリ ゴックン


────────────────────────────────────

俊敏:E(NEW)

動きが俊敏になる。

────────────────────────────────────


 空を飛べるスキルを獲得できるかと思ったが、流石に無理か。

 そもそも俺に翼はない。

 かといって、勝手に翼が生えられても困るというもの。

 人体の構造上。無理なものは無理なのだ。


 夜闇に紛れるバードマン。

 その体色は黒色。

 まるでカラスのごとき俊敏で獰猛な動き。


「うわー」

「ぎゃー」

「しんだー」


 制空権は魔族にあり。か。

 築いた柵やバリケードも、空を飛び越えられては意味を成さないもの。

 そして、空という高所からの攻撃に、並の兵士や冒険者は対応できていない。


「妖精さん。空中戦だ。迎撃しろ」


「おー! って、おいら1人じゃ無理だろーこのハゲー!」


 言うに事欠いて誰がハゲなのか?


「にゅ!」


 俺の頭から飛び立とうとするシルフィア様。

 その足をつかんで捕まえる。


「いえ。駄目です。シルフィア様。危険すぎます」


「おいらと扱いが違うぞー」


 柵を、壁を使って、接近するモンスターを迎撃する。

 守りの陣形は空襲により、すでに崩壊しつつあった。


 混乱する様子を見て取ったのか。


 ドドドド


 郊外に身を潜めていたのだろう。

 魔族の軍勢が、村を目がけて動き出す。


 組織的な動き。

 統率された連携。


 ただでさえ劣る戦力。

 その上、戦術までもが後手を踏んでは、蹂躙される一方でしかない。

 何とか流れを変えねばならないのだが……


「何をやっておる。魔道大弓を使え。魔族の軍勢が迫っておるではないか!」

 

 宙を舞うバードマンを切り落とし、ギルドマスターが兵士を冒険者を一喝する。


 防衛というからには、柵で相手を押し留めねば勝機はない。

 魔族の軍勢が柵を突破。

 村内に雪崩れ込んだ時点で敗北は決定する。


 だが、迎撃しようにも柵を守るべき兵士は空を舞うバードマンの相手で手一杯。

 肝心の魔道大弓を操作するべき兵士は、すでに絶命していた。


 俺は柵を、魔道大弓を目指して走り出す。

 その後方。上空からバードマンが俺の後を追っていた。


「にゅー!」


 頭上のシルフィア様が放つ風弾を回避。

 走る俺の後方に張り付き、バードマンは隙を伺っていた。


「……にゅ」


 いえ。当たらないといっても、気にしないでください。

 高速で宙を縦横無尽に舞うバードマン。

 先ほどは無警戒のところを撃墜したが、警戒されては当てることすら難しい。


 俺は後方のバードマンを無視して柵へ。

 村の正門へと取り付いた。


 そこには、迎撃のために用意された巨大な魔導大弓。

 矢ではなく槍を装填。射出する防衛兵器が鎮座していた。


 とにかくコイツで迫る敵を迎撃しなければ始まらない。


 魔導大弓に手をかける。

 その瞬間を狙い、バードマンが急降下する。


 尖る口ばしが俺に届こうかという、その直前。


「にゅ!」


 シルフィア様の魔法が発動する。


 ドガアンッ


 風弾を同時に複数。扇形に射出。

 いかに俊敏なバードマンであっても、避けることはできない攻撃。


 風魔法 ウインド・ショットガン


「ガギャアァァー」


 至近から無数に打ち抜かれ、バードマンは息絶えた。


 俺は魔導大弓に取り付き手をかける。


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