28.レベルアップ
すでに時刻は深夜。
今から村まで戻るには難しい時刻。
今晩は山中で夜を過ごすことにする。
「アーウー……アタシが見張ってアゲルワヨ」
ミーシャはアンデッド。
睡眠を必要としないのだから、夜の番に最適。
「おいらも夜更かし得意だぞー」
……こいつはただの駄目な奴だ。
早寝早起きが健康の秘訣だというのに。
早死にしてもしらないぞ?
とにかく2人に見張りを任せて、俺たちは眠りについた。
程なくして、夜が明ける。
辺りに散らばるのは、獣の山。アンデッドの山。
「ぐーぐー……」
そして、予想通り途中で寝落ちしたであろう妖精さん。
まあ、元から当てにはしていない。
「ミーシャちゃん大丈夫? 怪我してない?」
「アーウー。カイチョウよ。アンデッドも悪くないワね」
ミーシャはいうなればフレッシュゾンビ。
新鮮なうちにゾンビになったのが幸いしたのだろう。
病的なまでに青白い顔色。
胸に開いた大穴を除けば 外見はさほど人間と変わらない。
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名前:アンデッドミーシャ+妖精さん
LV:20 ↑5
体力:400 ↑100
魔力:550 ↑50
スキル:
ひっかき:F NEW
かみつき:F NEW
肉食: F NEW
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お?
おおお?
レベルだと!?
昨日は気づかなかったが、ミーシャの能力にレベルが存在した。
しかもレベルアップしている。
昨晩。夜中の間。
モンスターと戦ったことでレベルが上がったのだろうが……
問題は、俺には存在しないレベルが、ミーシャには存在する。
そのことだ。
──となれば、答えは簡単。
異世界の人間には、レベルが存在する。
地球人である俺には、レベルは存在しない。
そういうことか。
俺はあらためて精霊アイでアリサを確認する。
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名前:アリサ将軍
LV:5
体力:75
魔力:85
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案の定、アリサにもレベルが存在。
村の外に連れ出してから、何度か止めをさせていたからだろう。
レベルの上昇に伴い、体力、魔力が上昇していた。
レベルが見えるようになったのは、精霊アイの熟練度が上がったためか。
情報を制する者が戦を制する。
軍師の俺にとって、この上ない成長といえよう。
後は所有するスキルを確認できれば文句なしなのだが、それは今後の成長を待つとしよう。
しかし……ミーシャのやつ。
スキルを習得したのは良いが、いずれも品のないスキルばかり。
加えて肉食だと?
よくよく見れば、地面に転がる死体。
いずれも、ほうぼう肉をかじられ骨がむき出し。
人間に似てはいても、その習性はゾンビなのだ。
ミーシャが快調なのも納得。お腹いっぱいというわけだ。
まあ、俺が手綱を握っておけば良いだけだが……
ミーシャ。うかつに人里に入れるのはマズイことになった。
「おーい。無事かー。生きてるかー」
遠く藪をかき分け、こちらに迫る声がする。
逃げ延びた冒険者と共に、捜索隊が到着したのだろう。
「ミーシャ。すまないが、君は隠れていてくれるか?」
「ええ!? そんな……どうして? マサキさん」
「アーウー……ワカッタわ」
熟練冒険者パーティは全滅した。
その中で、もっとも力の劣るミーシャだけが生き残る。
どう考えても不自然である。
普通に考えればありえない。
疑われるのは確実。
そうなれば、ミーシャがアンデッドになったことなど、即座に判明する。
一見。人間に見えるといっても、よくよく見れば人間でないのは明白だ。
「ミーシャ。家族はいるのか?」
俺の質問に、ミーシャは答えずらそうにそっぽを向いた。
「ミーシャちゃん。孤児なの。だから孤児院のみんなが、院長先生が心配するよ」
「アーウー……必要ない。家族なんていないわヨ……」
何かと複雑な事情があるようだ。
が、ミーシャには悪いが、家族がいないというのは俺にとって都合が良い。
家族と引き離す罪悪感を感じる必要もない。
何より、連れ去ったとしても。
行方不明になったとしても、騒ぐものがいないということだ。
「ここか! うっ……これは」
「……ひでえ血だまり」
「お前は……マキナが担当する冒険者か。他の者は?」
救援に訪れた冒険者パーティ。
その中にはギルドマスターまでもが含まれていた。
ミーシャの担当。
自分の担当する冒険者の安否を気遣って来たのだろう。
「俺が来た時には全滅していた。相手は……これだ」
俺は地面に転がるスーパーオークマンの死体を指さした。
ミーシャにかじられ骨が露出しているが、巨体の大半はまだ残っている。
「!? こいつはスーパーオークマン」
「まじか。てことは……」
「魔族の尖兵。その隊長が村の近くに来るってことは、いよいよか」
何がいよいよなのか?
「魔族の襲撃や」
「ここ数か月、動きがなかったので油断していたようだ」
「死にはしたが、魔族侵攻の兆候を発見できたのだから大手柄や」
「ああ。王都へ急を知らせよう」
魔族の襲撃を逃れ、辿り着いたトータス村。
だが、この村にも魔族がやって来るという。
まあ、ここは魔族と接する前線の村。
遅かれ早かれ、こうなるのは必然か。
「しかし、熟練冒険者パーティが全滅するほどの相手」
「スーパーオークマンを倒すとは」
「もしかして、おっさん強いのか?」
今さらすぎる疑問。
「腕に自信はある。アリサ将軍の助けもあった」
そして何より。
「冒険者たちのおかげだ。俺が相対したその時。すでにスーパーオークマンは瀕死だった」
無傷の状態で相対したなら、勝利は難しかっただろう。
「……そうか。彼らは?」
「燃やした。アンデッドになられては困る。問題あったか?」
「いや……それで正解だ」
「しかし、アリサ将軍って誰だよ? まさかその少女のこと?」
「……少女といえば、ミーシャちゃん」
「可愛そうに……まさかスーパーオークマンが現れるとは」
まだ幼いミーシャの死を悼んで、冒険者たちが頭を垂れる。
ガサリ。
ミーシャが身を潜める藪が揺れていた。
死して辛いのは、存在がなくなること。
誰からも忘れ去られること。
だから、葬儀を行うのだろう。
だから、お参りするのだろう。
忘れられるのが辛いことを、知っているから。
「なんだ? モンスターか?」
だから、嬉しいのだろう。
自分の存在を覚えていてくれる人がいて。
「……いや。ただの風だ」
茂みでうずくまるミーシャ。
その身体が小刻みに揺れていた。




