22.再会
提灯アンコウマンの撃破に成功した。
ザブリ水面へと浮上する。
一面の光は治まり、なんてことのない夜の水面だけが辺りに広がっていた。
川の流れにさらわれる提灯アンコウマンを捕まえる。
そのお腹がモガモガ動いていることに気がついた。
もしや……?
俺と同じく光に誘われ、丸のみにされた者……ミーシャか?
「いでよ。凍結の刃。アイシクル・ナイフ!」
スッパリお腹を切り裂いた。
「ぶはー。助かったー」
お腹から出て来たのは……妖精さん。
妖精の泉から先に避難したはずが、こんなところでモンスターに食べられていようとは驚きである。
「お? おぉぉ? マサキ! マサキだー!」
首にかじりつくよう飛びつく妖精さん。
「無事か? 他の妖精さんは?」
妖精の泉には大勢の妖精さんが暮らしていた。
他の者は無事に逃げる事ができたのだろうか?
「うう。はぐれた……明かりが見えたから、みんなだと思ったのに……」
全く……
あのような不自然な明かり。釣られる方がどうかしている。
「でも、マサキと会えたぞ?」
一緒にされるのは心外である。
俺は危険と知りながら、あえて近づいたのだ。あえてだぞ?
「マサキだけ?」
「いや。シルフィア様もご一緒だ。着いてくるといい」
「わかったー」
謎の光はミーシャと全く関係なかったようだ。
まあ、それならそれで構わない。
腹を切り開いた提灯アンコウマンを精霊ボックスへ収納する。
おかげで妖精さんと再会できたのだから。
探索すべきポイントを1つ。潰したわけだから。
「おーい。無事かー?」
河原の方で大きな声がする。
ミーシャ捜索のため、アリサ将軍が応援を呼んでくれたのだろう。
ザブザブ川岸を目指して泳ぎ出す。
すっかり暗くなった川岸には、松明を手にした兵隊の姿が見える。
随分たくさん応援に来てくれたものだ。
少女1人を探すのに、これだけの人数が駆けつけてくれたのか。
今や失われつつある人情が残る村。トータス村。
田舎だといって馬鹿にしたものではない。
川を泳ぎ渡り、河原へと辿り着く。
集まる人たちの先頭に立つのは、アリサ将軍。
「アリサ将軍か。応援ありがとう。残念だが、ここは空振りだった」
「……あの……」
顔を俯かせ、答えづらそうに言葉を選ぶアリサ将軍。
無理もない。
ミーシャは親友。その安否を最も気づかうのが彼女なのだから。
「あんたバカ? なーに川で溺れてんの?」
……なぜ河原に行方不明のミーシャの姿が?
「おい。おっさん無事か?」
「ったく。冒険者が死のうがどうでもよいが」
「女の子が泣くんじゃ仕方ない」
……集まった連中は何を言っているのか?
「ミーシャ君。無事だったのか? 集合場所に姿が見えないから心配していたのだが」
「はあ? 無事も何も。それはこっちの台詞よ。あんたが死にそうだっていうからさ」
どういうことか?
俺は村へ応援を要請に向かったアリサ将軍を振り返る。
「その……村へ。兵隊さんの所へ向かったら……」
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マサキの指示を受け、急ぎ村へと向かうアリサ。
(ミーシャちゃん。待ってて。急いで助けを呼んでくるから)
必死の走りで、ようやく村の柵へ到達する。
「おや? 衣装屋のアリサちゃん。無事に戻ったようだな」
「はあ……はあ……へ、兵隊さん。大変なんです」
「どうした? 何があった?」
ここまで全力で走ったため、続けて言葉が出ないアリサ。
何とか息を整え、再度、声を発しようとしたその時。
「あれ? アリサじゃん。あんたも戻ったの?」
「……!? え? ミ、ミーシャちゃん。無事だったの?」
「んあ? 無事も何も、疲れたから先に帰っただけだけど?」
ミーシャの返事に思わずへたり込むアリサ。
そういえば、とアリサは思い当たる。
ミーシャは気分屋なところがあるのだった。
それにしても、先に帰るのなら一言くらいあっても良いのではないだろうか?
一時はどうなるかと思っただけに、安堵したアリサの瞳から涙が溢れていた。
「ちょ、ちょっと? アリサ。どうしたの?」
「うう……えっぐ、えっぐ……マ、マサキさんが」
自分もマサキも、どれだけ心配したことか。
そう言葉にしようとするアリサだったが、口から発するのは嗚咽のみ。
「そういえば、あのマサキとかおっさんいないわね。何かあったの?」
「か、川へ……」
ミーシャが遭難したと考え、マサキは川へ捜索に向かっている。
そう口にするより先に、ミーシャがその言葉を遮った。
「川あ? あんのバカ。河原はともかく川の中は危険だってのに」
「とにかくおっさんが川でヤバイって事か」
「ったく。お嬢ちゃんに心配かけるとは」
「とんだ役立たずだが、川なら近い。行くとするか」
結局。アリサはろくに事情を説明できないまま、一緒に川へ向かうのだった。
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「……なるほど」
察するに、何故か俺が川で遭難した流れになっているようである。
「ったく。力があるといっても無茶をするなよ」
「おっさんにお嬢ちゃんたちの護衛は無理だったか」
「ミーシャちゃんなんて、イノシシマンを退治したというのに」
勘違いではあるのだが、兵隊たちは俺が遭難したと思い、川へ救援に来てくれたのだ。
「すまない。ありがとう。助かった」
お辞儀とともに礼を述べる。
ふわふわ俺の頭に飛び乗り、しがみつくシルフィア様。
シルフィア様にも心配をかけたようだ。
「シルフィア様ー……って、なんか小さくない? こんなだっけ?」
久しぶりの再会だというのに、こんなとは失礼な妖精さん。
仮にもお前たちの生みの親。ご主人様だろう。
「しかし、なんだそれ? モンスターか?」
「おっさん。噂に聞くモンスター使いか?」
「モンスターの飼育は面倒だと聞くが、2匹も連れるとはな」
なるべく隠していたシルフィア様の存在だが、新たに妖精さんまで加わったとあっては、今さら隠しようもない。
幸いにもモンスターだといって、即座に排除されるわけではないようだ。
「まあ憎い相手だが、味方に使えれば便利だしな」
「ただし。村で暴れるようなら惨殺するぞ」
「首輪でも付けて、しっかり管理することだ」
役に立つうちは使い倒す。
物扱い。奴隷のような存在ということか。
確かに人間と魔族は争っている。
戦争相手であるからには、情けなど必要ないのだろう。
だが、魔族。モンスターといっても1つの集団ではない。
人間に様々な国があるように、モンスターにも様々な集団が存在する。
中には人間と共存を考える集団も。
しかし、いくらモンスターが人間に歩み寄ろうとも。
相手が。人間が歩み寄らなければ、何の意味もない。
新たな差別。虐待が生まれ、争いが生まれるだけだ。
だから──そのための妖精キングダム。
人間とモンスター。お互いが共存する理想の楽園。
そのために、俺はここ……異世界に居るのだから。
もっとも、ゴブリンマンやオークマンなどといった、凶暴な野郎モンスターはお断りだがな。




