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2.精霊様と契約


 いきなり異世界転移した俺に対して、どうやら精霊のシルフィア。

 いや、シルフィア様が俺に力を貸してくれるという。

 精霊というからには妖精より格上。

 確かにこれはラッキーである。


「ありがとうございます。シルフィア様!」


「とはいえ、条件があります」


 やはり無料でそんな美味い話はないか……


「無知な貴方は知らないでしょうが、近ごろ世界各地で魔族の侵攻が始まっています」


 無知で当然。何しろ異世界に来たばかりである。

 しかし……魔族侵攻とはな。

 聞くからにヤバそうな名称。

 異世界も大変な様子である。


「いずれ、この妖精の泉にも魔族が押し寄せるでしょう」


 ここに魔族が襲い来るという。

 だとするなら、俺にとっても他人事ではない問題。


「妖精の泉は妖精の生まれ来る場所。魔族に占拠されては、二度と妖精が生まれる事はなくなります」


 他人事なんて生易しい問題ではない。

 人形のように可愛い妖精さんが絶滅しては人類遺産の喪失。

 決して許される事態ではない。


「妖精の泉は、この宝玉を中心に生まれます」


 シルフィア様は虹色に輝く宝玉を、両手におし抱くよう取り出した。

 絶え間なく水が溢れ滴り落ちる宝玉。

 かなりの貴重品であると予想される。


「貴方には魔族侵攻に際して、この泉の宝玉を守る兵士となっていただきます」


 なるほど。

 俺に力を貸す代わりに、俺の力を貸せというわけか。

 そういう事なら話は早い。


 しかし……問題は果たして俺が力になれるかどうか。

 兵士になれと言われても俺の魔力はゼロ。

 シルフィア様いわくゴミカスときたものだ。


「そのための契約です。魔力ゼロのゴミ虫でも、私との契約があれば最強の魔法使いとなれるでしょう。大いに感謝してください」


 最強の魔法使いになれるだと?

 確かに生前の俺は最強ヒーローであり天才魔法使い。

 だが、それはあくまでゲームの中の話。

 まさか、それが現実になると? 本当にそんな事が?


 であれば、確かに感謝せざるを得ない有難い話ではあるが……疑問でもある。

 どうせ契約するならゴミカス人間である俺ではなく、別の人と契約する方が良いのではないだろうか?


「……は? 私との契約は必要無い。そう言いたいのですか?」


 これはマズイ。また機嫌が悪くなってしまいそうである。


「魔法……使いたいのでしょう?」


 全くもってその通り。

 俺は魔法を使いたい。最強魔法使いとして無双したいのだ。

 そうでなければ異世界に来た意味がないという。

 ならば悩む必要は何もない。


「いえ! 誠心誠意働くでありますので何卒、契約をお願いします!」


 俺は慌てて、ははーと頭を下げる。

 ここは魔法無双のためにも下手に下手に。


「分かれば良いのです。では契約を執り行います」


「はい。よろしくお願いします」


 頭を垂れる俺の頭に手を当てると、シルフィア様は静かに俺の額へと口づける。

 ──同時に、俺の身体に凄まじい魔力が流れ込んでいた。

 そう……初めての感覚だが分かる……これが魔力!


「契約成立です。これで貴方は私の魔力、私の魔法を使う事が出来ます」


「ふっーはぁはぁ……凄い力、いえ魔力が湧いてきます。これがシルフィア様との契約……」


「まずは精霊の目を使いなさい。調べたいと思う対象。貴方自身の身体を見て、詳しく知りたいと願うのです」


────────────────────────────────────

名前:マサキ:シルフィア様

種族:地球人:精霊様

性別:男:女

年齢:35:18


体力:60:60

魔力:0 :5000


精霊スキル

 精霊アイ:S

 精霊ボックス:B


魔法スキル

 光魔法: A

 風魔法: S

 水魔法: A


物理スキル

 なし


特殊スキル

 暴飲暴食

────────────────────────────────────


 今回は俺の身体を調べたから、これが俺の情報。


「精霊の目は、対象の情報を見ることができます。もっとも知識にない情報までは分かりませんが」


 契約することで、お互いの知識を共有できるようだ。

 現に俺の頭の中には、知らないはずの異世界の知識。

 シルフィア様の知る異世界の常識が流れ込んでいた。


───シルフィア様の豆知識───


 魔力とは魔法を扱う力。

 魔法戦闘において、魔力は戦闘力とイコールです。

 魔法を使うと減少。時間と共に回復します。


 一般的な人間の魔力は100程度。

────────────────


 魔力0:5000ってことは、やはり俺の魔力はゼロ。

 それにしても魔力5000というのは規格外の高さだ。

 さすがはシルフィア様といったところである。


 それに比べてシルフィア様の加護のない俺の素の能力。

 体力は60か。


───シルフィア様の豆知識───


 体力とは肉体強度。

 肉体を使った接近戦において、体力は戦闘力とイコールです。

 肉体的損傷により減少。0になれば死にます。


 一般的な人間の体力は100程度。

────────────────


 マジかよ。

 俺の体力60は一般人以下。

 文明の利器に慣れ切った現代人。ダメダメである。

 仮に他の人間と出くわそうものなら、即座に殴り殺される。

 それが今の俺である。


「やはり貴方はゴミカスですね。ですが心配いりません。魔力はパワー。魔力を使う事で何倍も早く、強く身体を動かす事が出来ます。そのまま魔力を使って身体を動かしてみなさい」


 俺はその場で軽くジャンプする。

 つもりが、3メートル近くも飛び上がることとなっていた。


「おおっ! 身体が軽い」


 しかも、その高さから着地したにも関わらず、身体はなんともない。

 オリンピック選手も真っ青な身体能力である。


「魔力を体力に変換する。いわゆる身体強化魔法です。これでゴミであっても十分に戦えるはずです」


「……これは魔力のありなしで全然違いますね。シルフィア様のおっしゃるとおり。確かに魔力ゼロの俺はゴミ虫でした」


 魔力があれば俺の体力が低いなど、弱点でも何でもない。

 魔力が全て。魔力がパワーの世界。それが異世界なのである。


「魔力は攻撃だけに使うものではありません。今から私が攻撃しますので、魔力で防いでみなさい」


 突如。シルフィア様が構えた手の先から、水の塊が飛び出し俺に迫る。

 これは……水魔法のウオーター・ボールか?

 シルフィア様と知識を共有するおかげで、初めて見るにも関わらず理解できる。


「魔力で防御というと──こうか!」


 俺は自身の全面に魔力で壁をイメージする。


 バシャーン


 飛来したウオーターボールは、俺の目の前で魔力の壁に阻まれ消滅した。


「魔力で全ての攻撃を軽減するのが魔力バリア。私の魔力なら多くの攻撃を無効化できます。ただし、魔力バリアの内側から攻撃されないよう注意なさい」


 接近戦で魔力バリアは無効ということか?

 シルフィア様の魔力を生かすなら、遠距離で戦うのが良さそうである。


「さて。いよいよ攻撃魔法ですが、これはモンスター相手に実戦で試すのが一番でしょう」


「モンスター相手といっても、相手がどこに居るのか……」


「集中なさい。魔力で周辺の生物を探知するのが魔力サーチ。私の魔力があれば、周辺5キロは探知できるはずです」


 精神を集中する。

 周辺に漂う反応……これは妖精さんだな。


 そのさらに遠い場所。

 300メートルほど離れた場所に魔力の反応がある。


「魔力パワー。魔力バリア。魔力サーチ。この3種は誰もが日常的に使用する基本魔法です」


 異世界では誰もが使える基本魔法。

 だからこそ、魔力が勝負を決めるというわけだ。

 そして、シルフィア様の魔力は5000。まさに最強というわけだ。


 ならばと移動してみた場所で、大型犬をさらに一回り大きくしたようなモンスターを発見した。

 慎重に接近したため、モンスターはこちらに気づいていない。

 彼を知り己を知れば百戦危うからずという。

 まずは精霊の目だ。


────────────────────────────────────

名前:クラッシュドッグ

体力:400

魔力:150

スキル:

 かみつき :C

────────────────────────────────────


 体力は俺の7倍近くあるが、魔力は圧倒的に俺が上。

 スキルを見ても分かるとおり、こいつは肉体派モンスターという事だ。

 スペック通りなら俺の楽勝。

 それでも、わざわざ相手の得意距離で戦う必要はない。

 魔法で先制攻撃といくとしよう。


───シルフィア様の豆知識───


 魔法を発動するには詠唱が必要です。

 同じ魔法であっても、魔力により威力は変化します。

────────────────


 シルフィア様と契約した今。

 俺の魔法スキルは

 光魔法: A 風魔法: S 水魔法: A

 となっており、該当魔法の知識までをも有している。

 栄えある俺の異世界魔法デビュー。その一発目は──


「走れ。真空の衝撃。ウインド・カッター!」


 シルフィア様の得意魔法。風魔法だ。

 俺の手の先から空気を圧縮した刃が猛スピードで飛び出していく。


 風魔法は全体的に威力より速度を重視したスキルが多い。

 といってもお互いの魔力差から、まともに当たれば一発で決まるはず。


 魔法に気づいたクラッシュドッグは、回避しようとジャンプするが──


「ギャイーン!」


 右前足に命中。切断していた。

 まともに動けない状態で回避できるはずもなく、続くウインド・カッターで一刀両断。

 俺の初戦闘は無事、終了した。


「シルフィア様の契約。無茶苦茶つええええー」


「当たり前です」


 さすがは精霊様と威張るだけあって凄まじい力。

 そして、今やそのシルフィア様の力は、俺の力。

 シルフィア様と契約した俺こそが、最強の魔法使いとなったのだ。

 いよいよ始まってしまった……俺の時代。俺の魔法無双。


「魔法やスキルは、使えば使うほど成長します。といっても、雑魚を相手にしても時間の無駄ですが」


 熟練度を上げるには、強敵と戦えという、まさにゲーム感覚。

 といっても、シルフィア様の魔法技能はどれもAやSばかり。

 今さら鍛えるまでもなく最強である。


「それでは最後に……貴方の特殊スキルにまいりましょう」


 ……実は気になっていたのだ。

 精霊の目で俺の身体を視たその時から。

 特殊スキル:暴飲暴食。というその文字列が。


 シルフィア様は俺をゴミだカスだと言うが、それは誤り。

 実は他の誰にもない特殊なスキルを有していたわけだ。


 もっとも、わざわざ異世界転移する位である。

 何らかの特殊スキルがあるのは、物語の王道。

 だからこそ、シルフィア様は俺に目を付けたのだろう。

 そうでなければ、ゴミカス相手に力を貸すはずがない。


「暴飲暴食とありますね。字面のままならたくさん食べれば良いみたいですが……まさか……?」


「ええ。私と知識を共有する貴方なら、もう分かるでしょう?」


───シルフィア様の豆知識───


 暴飲暴食。

 食することで、対象が所持するスキルを習得する。(魔法・特殊スキルを除く)

 該当スキルを習得済みの場合は、スキル熟練度が上昇する。

 該当スキルの習得難易度に応じて、習得に必要な食の総量は増減する。


 なお、死後一定の時間が経過した死体から習得することは出来ない。

────────────────


「存分に召し上がりなさい」


 俺の前には、魔法で真っ二つに切断されたクラッシュドッグが横たわっていた。


「あの……せめて火を通したいのですが、シルフィア様は炎魔法は……」


「私は、あのように野蛮な魔法は使いません」


 これを生でいくには、俺の勇気が足りない気がする。


「大丈夫です。貴方のスキルがあれば、いくら食べても死ぬことはありません」


 暴飲暴食があれば、病気や食中毒、寄生虫といった不安はないってことか。

 それなら安心。とはいえ、俺は蛮人ではない。

 現代人でシティーボーイの俺に生で食べろというのは、無理難題である。


「食べなければ餓死するだけです。死んでもいいのですか?」


 それは困る。

 何の因果か、せっかく生きながらえた命。

 食べ物があるにも関わらず飢え死にするなど、粗末に扱うわけにはいかない。


 何より死ぬのは苦しいことである。

 出来ればあの苦しみは、味わいたいものでない。

 それを考えれば、気持ち悪いのは我慢するしかないか……


 いやいや。他にも野菜とか果物とか食べるものあるでしょう?

 現にシルフィア様の知識によれば、付近に果物がなっているはずだ。


「スキル。要らないのですか? まもなく時間が切れますよ」


 マズイな。

 死後一定の時間が経過した死体からは、スキルを習得することは出来ないという。

 異世界無双のためにも食べないと駄目なのだが……血の匂いがキツイ。


「あなたとの契約。解約しようかしら?」


 シルフィア様ばんざーい!


 ぱくり……


────────────────────────────────────

獲得スキル 

かみつき :C(NEW)

────────────────────────────────────


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