表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/43

18.お肉


 門を守る兵士との力比べに勝利した。

 外出許可を得た俺たちは村を出る。


 風がざわめき肌がざわつく。

 ここは安全な村の中ではない。

 いつモンスターが襲って来るか分からない辺境の地。


 失った左腕に痛みが走る。

 これは幻痛。今さら痛みなどないはずなのに。

 失った時の恐怖を思い出しているとでもいうのか。


 この痛みは俺を縛る枷。

 若かりし頃の忌まわしき過去。

 慎重になれと俺を戒める警鐘。


 ならば用心して進まねばならない。

 周囲一面。全てが敵のテリトリー。


「じゃ、こっちね。行くよ!」


「待ってよー」


 などと感傷に浸る俺を余所に、2人はさっさと歩き出す。


「待て待て! うかつに動き回っては危険だ。ここは警戒しつつだな……」


「はあ? なに言ってんのよ。村の西は弱いモンスターだけなんだから楽勝よ」


 なんだと?


「あんた……まさか備えもなしに東へ行ったの?」


「東に向かうのなんて、パーティを組んだ冒険者たちくらいだよねー」


 俺も冒険者にして、シルフィア様とパーティを組んでいる。

 何も間違ってはいない。


「間違ってるに決まってるじゃない。現に大怪我してるんだから」


「大きな猛獣が出るんだから、小さなシルフィア様じゃ無理だよー」


 おのれ……知力20の割にはもっともな意見を……

 しかし、そういう事であれば、配下の忠言を受け止めるのもまた主君の度量。


「分かった。それじゃ西へ向かおう」


「は? 向かおうも何も、あんた。門を通るのに必要だっただけだし。もう用済みなんだけど?」


 なんだと?


「もう。駄目だって。2人じゃ危ないよ。ミーシャはああ言ってるけどマサキさん。行きましょうよ」


 そう言って俺の手を引くアリサ。

 知力20のミーシャに比べて、アリサのなんと利口であることか。

 雑魚は自分を知る。弱いからこそ物事を成すにも慎重になるもの。


 それに比べて


「とりゃー。モンスターしねーーー!」


 さっそく見つけたウサギのようなモンスターを追い回すミーシャ。


────────────────────────────────────

名前:ウサギマン


体力:40

魔力:40

────────────────────────────────────


 まるで肉食獣。

 ただ草を食べていたウサギさんが可愛そうである。


「なによ。やっぱり雑魚じゃない。次よ次」


 いや。肉食獣以下。

 ミーシャは叩きのめしたウサギさんを捨て、新たな獲物を求めて駆け回っていた。


「ミーシャ君。獲物を追い回すのも良いが、魔石は回収しないのか?」


「はあ? ウサギマンなんてお金にすらならないじゃない。あげるわよ」


 これではウサギさんも浮かばれない。


 肉食獣は倒した獲物を食するため。生きるために倒すのだ。

 せめて魔石だけでも回収してやらねば、何のために死んだのか分からない。


 ザクザク


 そんな倒れるウサギマンの死体。

 包丁片手にアリサはザクザク切り刻んでいた。


「せっかくだから、みんなで焼いて食べようよ」


 なんとよく出来た少女であろうか。感動である。


 炎魔法だろう。

 手の平から出した火で薪を燃やして、ウサギマンの肉を入れる。


「マサキさんも、シルフィア様も。どうぞ」


 パクリ……うむ。マズイ。

 お金にならないというのも納得だ。


 自分も肉を食べるアリサ。

 その不味さに驚いたのだろう。


「……やっぱりおいしくないです。ね。ごめんなさい」


 食べ物の価値は、味が全てというわけではない。

 そうであれば、健康食品など販売されてはいないのだから。

 例え不味かろうが、栄養があるなら、それは価値あるもの。


「いや。おいしいよ。ありがとう」


────────────────────────────────────

獲得スキル

草食:F(NEW)


草を食べた際の消化速度・栄養摂取量が上昇する。

────────────────────────────────────


 俺は心からアリサに礼を述べる。

 ウサギマンの肉は栄養満点。

 アリサの料理のおかげで、新たなスキルを習得する事ができたのだから。


「え? あ、そんな……お礼を言われるようなことじゃ。シルフィア様も」


 こちらは心底美味しそうにウサギマン肉を食べるシルフィア様。

 これが美味しいという事は、普段食べている魔石はどれだけマズイのか……


 しかし肉を食べてベジタリアンに目覚めるとはな……

 はたしてどのようなスキルなのか?

 適当に付近の草でも食べるとしよう。


 パクリ……マズイ。


 何が変わったのか分からないが、強くなったのは間違いない。


「それがウサギマンの魔石か。小さいな」


 食べ終えたウサギマンの死骸と同時に残る1つの魔石。


 アリサの調理を見ていて気づいた事が1つある。

 ウサギマンには、心臓がないという。

 いや。心臓のあるべき位置に魔石があるのだ。

 

 という事は、この魔石がモンスターの心臓。核。魔力の源。


「ウサギマンの魔石。100円くらいだそうです」


 ミーシャが捨て置くのも当然。

 わざわざ取り出す手間に比べて、全く対価が釣り合わない。


「では私が買い取ろう。100円だ」


 飴玉程度の大きさ。

 ウサギマン肉でお腹のふくれたシルフィア様のおやつに丁度良い。


────────────────────────────────────

体力:260

魔力:51 ↑1

────────────────────────────────────


 魔力が1増えた。

 100円で1増えるなら非常にコストが良い。

 ウサギマン。馬鹿にできない獲物。

 お店で見かけたら買い占めてみるのも一興だ。


「あんた達。なに食べてるのよ? 食べるならこれよ。イノシシマン!」


 どこをほっつき歩いていたのか、戻るミーシャの肩に大きなイノシシが抱えられていた。


「ふわー! ミーシャちゃん。凄い! イノシシマンって兵隊さんでも怪我する相手だよ。大丈夫なの?」


「ちょっと突かれた程度よ。なんてことないわ」


 戦闘にも耐えられるよう、上下お揃いの皮で作られた服を身にまとうミーシャ。

 その脇腹部分に穴が開き、血がにじんでいた。


 イノシシの牙で突かれて、よくその程度で済んだもんだ。


「たいへんたいへん! や、薬草だよー」


「もったいないわ。舐めときゃ平気よ」


 まさに猛獣の発想。

 どちらがモンスターか分かったものではない。


 ふよふよとシルフィア様が光魔法を発動。

 とりあえず血は止まった模様だ。


「……ありがとう。シルフィア。さま」


 一応はこれでも少女。

 凶暴な上に傷跡だらけとあっては、嫁の行く宛がなくなるというものだ。


「お礼に。これ。イノシシマンの肉。高いのよ?」


 いつの間にかアリサが切り刻んだイノシシマン肉を手に取り、シルフィア様に差し出すミーシャ。

 これまた生で美味しそうに食べるシルフィア様。


 生は寄生虫や病気が……って、シルフィア様と俺は一心同体。

 同じスキルを共有している。

 暴飲暴食のスキル効果。

 何を食べようが病気にも寄生虫にも掛からないので大丈夫か。


 それは良いが、現地の人たちは生で食べて大丈夫なのだろうか?


「モンスターの肉。生で食べて大丈夫なのか?」


「? なにが? 焼くのも美味しいけど生もいけるのよ? あんた知らないの?」


 まるで俺が美食を知らない田舎者と言わんばかりの反応。

 おのれ……生でパクパクどちらが田舎者なのか?


 まあ魔法のある異世界。魔法の力で平気なのだろう。

 なあに。かえって免疫が付くってやつだ。


 それなら俺も食べてみるか。

 生イノシシマン肉に伸ばす俺の手が、バシリと叩かれる。


「あんた。なんにも働いてないわよね? あんたは草でも食べてなさい」


 なんという理不尽。

 だが、言われてみればそうかもしれない。


「駄目だよ。ここまで連れて来てくれたのに。はい。マサキさんも」


 天使だ。

 アリサの手からパクリと食べるイノシシマン肉。

 うまい。

 もはやミーシャなど不要。


 妖精キングダムが誇る五虎猛将軍。

 第一の将軍はアリサに決定だ。


「いえ。わたし戦えませんから……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ