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15.再びの衣料品店


 村を出てのモンスター退治。

 何だかんだとあったが、俺は無事にタートス村へと辿り着いた。


「おい。どうした? その姿は?」

「モンスター? それとも野盗にでもやられたか?」

「というか、昨日もここを通った裸男だよな?」


 入口の柵を守る兵隊たち。

 村を出る時は、俺を貴族様だと尊敬の眼差しで見ていたものを。

 来ている服装が異なるだけで、この態度の違いである。


 ふんどし一丁の俺も。

 高級貴族御用達服を着た俺も。

 どちらも俺である事に変わりはないというのに。


「問題ない。冒険者ギルドに行くので通していただきたい」


 兵士の列を通り抜け、俺はトータス村の柵内へと入場する。


 だが、それでこそ人間。

 人はその地位に、肩書に、金銭に従うもの。

 だからこそ名声が必要。

 有能な配下を集めるためにも、今は俺自身が力をつけねばならない。


「モンスター相手に頑張ったのだろうが……可哀そうに」

「最近は冒険者にも怪我人が増えてきたな」

「そろそろこの村もヤバイって事か……」


 まだ日の明るい通りを抜け、冒険者ギルドへ到着した。


「まーたあの頭のおかしい男だ」

「つか片腕になってるやん」

「モンスターにやられたんやろ」

「アホやな。武器もなしに当然やん」


 相変わらず騒がしい場所だ。

 それだけ活気があるともいえるわけだが、今は構っている場合ではない。


 俺は昨日の受付。

 小太り女性の元まで行き、ズタ袋から魔石を取りだした。


「すまないが、今日はこちらを換金していただきたい」


「あいよ。しかし、あんた。腕は大丈夫かいな?」


 チラチラ何を見ているかと思えば。

 だが、良い機会である。


「問題ない。とは言い難い……仮にだが、治療薬を買うとするなら、いくら位であろうか?」


「んー。その怪我やと超高級治療薬やな……1本1000万円や」


 高い。と思ったが、1000万円で腕が元通りになるというなら安いものか。

 仮に1000億円だろうが現代日本では治療不可能な怪我。

 異世界も捨てたものではない。

 といっても、1000万円となれば、そうすぐには集まらない金額。


「治療魔法ならもっと安いやろうけど、高ランクの光魔法使い手は希少やからね。この村じゃ無理やで」


 無念。しばらくは片腕での生活となりそうである。


「そうか。ありがとう」


 サーベルキャットマンの魔石の代金。

 10万円を受け取りギルドを退出する。

 まあ、俺は天才。1000万円程度なら、すぐに稼げるだろう。


 稼ぎに出かけるためにも、装備が必要。

 前回は甘い気持ちで外へ出たのが失敗。


 まずは今度こそまともな服を買う必要がある。

 いつまでもふんどし一丁では無理があるのだ。

 俺は再び衣料品店のドアを開く。


「ごめん。服を見せていただきたい」


「いらっしゃ……ひいっ。また来た!」


 客を相手に悲鳴を上げるとは、なかなかのご挨拶である。


「昨日購入した服だが、あれは儀礼用ではないか? 実用に耐える服を見せてもらいたい」


「あ、ああっ。あ、あの服。あれ。普通の人に売っちゃいけない服だってお父さんが……返して!」


 やはり一般販売して良い服ではなかったようだ。


「どうしてもというなら返品もやぶさかではないが……これでも良いか?」


 精霊ボックスから取り出す高級貴族御用達服。

 血に塗れてボロ屑のように汚れていた。


「……いらないです」


 血を洗い落とせばまだ使えるだろうに。

 袖は破れ落ちているが。


「しかし、また君が留守番をしているのか。両親はどうした?」


「商店街の寄り合い。モンスターの襲撃に備えて大変みたいなの」


 辺境の村。常にモンスターと争う最前線。

 兵士でも冒険者でもない。

 商人であっても襲撃に備えねばならないのだという。


 現代日本で暮らしていた俺には。

 異世界に来て日の浅い俺には、想像できない過酷な現実。


 現に目の前の少女ですら、今も何かに怯えるよう伏し目がちである。


 俺の脳裏に蘇るのは、かつて日本で、通勤途上で見かけた制服少女たちの姿。

 ミニスカヒラヒラ、キャイキャイ騒ぐ少女たちを微笑ましく見守ったものだ。


 少女に悲しい顔は似合わない。

 平民が平和に暮らせる国。

 それが俺の目指す妖精キングダム。


 この村は俺の国ではないが、まあ、そんな事は些細な違いでしかない。


 俺の頭上に鎮座するは女王様であるシルフィア様。

 ならば、その椅子である俺こそが妖精キングダム。

 今。俺が暮らすこの村こそが、妖精キングダム。


 そもそもが、一から国を作るより、既存の村を乗っ取る方が話は早いのだ。

 よし。そうしよう。


「分かった。妖精キングダムを守るため。俺も一肌脱ぐとしよう」


「いえ。もう脱がなくて良いです。それと、妖精キングダムって何です?」


ガラッ


「ばんわー。手伝いに来た……」


 なごやかに談笑する俺たちの前にドアを開け入ってきたのは昨日の少女。


「ああっ?! 昨日のどろぼ」


「フンッ。当て身!」


 ドスッ


「ぐべらぁっ」


「ミ、ミーシャちゃん! も、もう。何するんですかー」


「すまない。反射的に。だ」


 床に転がるミーシャちゃん。

 は捨て置いて、陳列棚からカジュアルな服を選び、店員へ差し出した。

 雑談も良いが、まずは当初の予定を果たすのが先。


「それよりも、これをいただきたい。いくらであろうか?」


「あ。はい。2万円です」


 支払いを終え、試着室で着替えを終える。


「どうだろう? 何かおかしなところはないだろうか?」


「あ。それなら普通のおっさんに見えます」


 そのような余計な感想は不要である。

 ともあれ、これで余計に目立つ事はなくなったわけだ。


「ミーシャちゃん。起きて。ここで寝たらお客さんが入ってこれないよ」


 肩を揺さぶる少女。だが、無駄である。

 手加減したとはいえ、A級パンチは一撃必殺スキル。

 そう簡単に目を覚ますものではない。


「そう簡単に目を覚ますものではない(キリッ)じゃないよー。お客さんのせいじゃないですか」


 客観的に見るならば、そうかも知れない。

 ピョコリ。頭上の帽子から顔を覗かせるシルフィア様。


「きゃっ。そ、その頭の上。なんですか? モンスター?」


 ふよふよミーシャちゃんの元まで空を飛び。

 ピカリと魔法を詠唱する。


「ん……うーん」


「あ。ミーシャちゃん。大丈夫?」


 シルフィア様が詠唱したのは光魔法。

 対象の傷を癒す治療魔法。

 Fランクだが、まあ、気付け程度の効能はあるようだ。


「う、うん……なにコレ?」


 なにとは失礼な。

 まあ、目覚めたその前で、宙に浮かびピカピカ光っているのだ。

 今回ばかりは失言を聞き流しておいてやるとしよう。


「シルフィア様だ。気絶したお前を気づかい、治療してくださったのだ」


「すごーい。光魔法が使えるんだー」


「ほんとだ……なんか痛みが引いてきた気がする……って、それよりも!」


 ミーシャはあろうことか治療するシルフィア様を跳ね除け、勢いよく飛び起きた。


「あんた……何? 泥棒じゃないの?」


「服を買いに来ただけだ」


「いきなり私を殴ったくせに」


「不幸な事故だ」


「そう。それなら──」


 突如。ミーシャと呼ばれた少女が、俺を目がけて飛び掛かる。


「これも事故よね! 死ねえー!」


 空中で身体を回転。

 重力と遠心力を加えた強烈な蹴り足が、俺を蹴り飛ばさんと迫り来る。


 ドカーン


 横っ飛びで身をかわす。

 先ほどまで立っていた床板が、音を立てて砕けていた。


「あんた。ただのコソ泥じゃないわね。あたしのスピニングジャンプキックを避けるなんて」


 ただのも何も、そもそもがコソ泥ですらないという。


 そして、この少女も。ただの村娘ではないようだ。

 木製の床板とはいえ、それをぶち壊すとは。

 とんでもない蹴り技を持っている。


 だが、そんなことより今の問題は。


 少女に手で払われ、宙を漂うシルフィア様。

 俺はそっと両手で受け取り、頭の上に座り乗せる。


「それより、貴様……貴様を気づかい治療してくださったシルフィア様に一言の礼もないのか?」


「シルフィア様? その小さいの何よ? モンスター? あんた村にモンスターを持ち込んだの!?」


「シルフィア様が何者だろうと、そんな事はどうでも良い。大事なのは気絶した貴様を治療したのがシルフィア様だという。その事実だ」


「うっさい。何が治療よ。モンスターのくせに! 友達がどれだけモンスターに殺されたか!」


 再度、俺を目がけて、頭上のシルフィア様を目がけて飛びかかるミーシャ。


 モンスター相手に親しい人を失ったのだろう。

 モンスターを恨みに思う気持ちは分かる……が、だからといって同情はない。

 少女相手に暴力は趣味ではない……が、シルフィア様への無礼は万死に値する。


 俺は右腕に力を、魔力を込める。

 魔力パワー。魔力による身体強化。

 わずか30の魔力とはいえ、俺の右腕は飛躍的に強化されていた。


「ちょ、ちょっと。やめてー。ミーシャちゃんも。お店で暴れないでー」


 蹴り殺さんと迫るミーシャの右足。

 迎え撃たんと構える俺の右こぶし。

 激突する俺たちの間に、あろうことかアリサが分け入っていた。


 無茶なことを!

 精霊アイにより強化された俺の目が捉えるのは、蹴り足の軌道に納まるアリサの身体。

 このままでは、木床を蹴り砕くミーシャの蹴りを受けて、村娘でしかないアリサは死ぬだろう。


 やむをえない。


 ドカーン ポキン


 ミーシャの必殺スピニングジャンプキックが音を立てて炸裂する。

 鳴り響くのは、蹴り砕かれた俺の右腕。


「あんた! アリサ。なんで!」


 声を上げるのは、蹴り足のまま呆然とするミーシャ。


 暴れる俺たちを止めようとしたのだろう。

 無謀にも間に分け入った少女を、アリサを襲う蹴り足を。

 俺は魔力パワーを込めた右腕で、ミーシャの蹴り足から庇っていた。


「……ミ、ミーシャちゃん」


 争いを止めるどころか、危うく自分が蹴られる所だったのだ。

 ペタリ床に座り込むアリサ。


「ご、ごめん。アリサを蹴ろうとしたんじゃないから……本当にごめん」


「う、うん……でも、怖かった」


 わんわん抱き合う2人の少女。

 俺は残る1枚の薬草を食べながら、室内で燃えるランプの前へと移動する。


 じわじわ体力魔力が回復していく。

 光合成。やはり太陽光の下でないと、回復効果は弱いようだ。


「でもアリサ。無茶すぎ。なんでコソ泥を庇うような真似を……」


「だって……あのままだとミーシャちゃんが大変な事になると思って」


「はあ? アタシが? コイツに?」


 そう言って、俺を睨み付けるミーシャ。


 未だ完治ではないが、蹴り折られた右腕の骨は、早くも癒えつつある。

 ならば俺は魔力パワーを全開。


「アリサ君に礼を言う事だ。そうでなければ──」


 A級スキルは一騎当千スキル。

 習得には長年の研鑽。厳しい訓練が必要だというレアスキル。


 もっとも俺の体力が乏しい今。

 本来の威力は発揮できないとはいえ、その破壊力はB級スキルの比にあらず。


 腰を落とし、右拳を全力で壁へと打ち付けた。


 ドカーン


 衣料品店の壁に。

 モンスターの襲撃に耐えられるよう、レンガで固められた強固な壁に。

 ポッカリ大きな穴が開いていた。

 癒えかけだった骨もポッキリ折れているが。


 とにかく。

 木板を蹴り砕くミーシャの蹴りと。

 レンガ壁を打ち砕く俺のこぶしと。

 互いがぶつかったならば、どちらが勝利するかは自明の理。

 アリサが止めなければ、ミーシャは大怪我を負っていただろう。


「な……アンタ。ただの物貰いのコソ泥じゃ……」


「俺はマサキ。妖精キングダムの軍師にして天才魔法使い。人を外見だけで判断しない事だ」


 まあ、外見が駄目な奴はたいてい内面もダメだが……

 それはあくまで一般論。天才には当てはまらないもの。


「なんでアリサを庇ったの?」


「俺が庇わなければ死んでいた。俺なら死なない」


 俺が目指すのは、住人みんなが笑顔で暮らせる妖精キングダム。

 少女に悲しい顔は似合わない。

 事故とはいえ自分の足で友人を蹴り殺しては、生涯、笑えなくなるだろう。


「それと──貴様を殺したのでは、シルフィア様へのお礼を言わせられないからな」


 そして、この村が。

 タートス村が妖精キングダムであるというのなら、2人の少女もまた、妖精キングダムの住人。

 俺が守るべき住人なのである。

 貴族である俺が自国の住人を庇うのは、当然の義務なだけだ。


「あんた……それと……シルフィア? ありがとう。一応礼を言っておくわ」


「シルフィアではない。シルフィア様だ。2度と間違えないように」


 俺が目指すのは恐怖政治ではない。

 過ちを認める者に恩赦を与えるのもまた、貴族の度量。

 あくまで認めないというのなら、オーク男となり罰するだけだ。


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