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10.衣料品店の罠


 生きていくにはお金が必要。

 国を興そうというのだから、なおさらだ。


「魔石の鑑定。終わったよ」


 受付での換金作業が終了した。

 騒ぎがあったにも関わらず、黙々と作業していたのだろう。

 ただの変人に見えて、なかなか肝の座った女だ。


「んー。クラッシュドッグにマウントビートル。ゴブリンの魔石。しめて15万円なり」


 なかなかの金額。

 しかも、まだ俺は魔石を多数、精霊ボックスに残している。

 なぜなら魔石はシルフィア様の主食。ごはんである。

 美味しいかどうかは知らないが、お腹いっぱい食べて、魔力を増やしてもらわねばならない。

 間食。甘いおやつなど厳禁である。


「かたじけない」


 ペコリ。一礼を残して俺は足早に冒険者ギルドを後にする。


 時刻はすでに夜。

 急がねばならない。お店が閉まるその前に。

 いつまでも今の服装で居たのでは、本当に狂人である。


 道ゆく通りに掲げられた衣料品の看板。ここだ。


 ガラガラ


「ごめん」


 それほど広くもない店内。

 カウンターには1人の女性。彼女が店員なのだろう。

 日本ならまだ中学生といった年頃の少女が座っていた。


「ごめん。服を見せていただきたい」


「ひっ。い、いや……」


 またか……

 異世界人はスモウを見ないのだろうか?

 たかがスモウレスラーが来店した程度。

 何を驚く事があるという。


「すまないが服が欲しい。見せていただけないか?」


「ぬ、脱ぎます。脱ぎますから……命だけは……」


 いや……

 別に君の服を求めているわけでもなければ、裸が見たいわけでもない。

 何を勘違いしているのか、脱がないでもらいたいのだが……


 まあ、脱がれて困るものでもない。

 そして、俺はもちろん。森に引きこもっていたシルフィア様も世情には疎い。

 もしかすれば、これが異世界流のおもてなしの可能性もある。ないだろうが。

 とにかく。脱ぎたいというなら好きにさせておくとしよう。


 その間、俺は勝手に商品を見させてもらう事にする。

 ゴソゴソ服を脱ぐ少女をよそに、俺もまたゴソゴソ商品を物色する。


 その時。


 ガラッ


 店の扉が勢いよく開かれ、これまた少女が店内へ入って来た。


「おーい。手伝いに来たよー……って、ああっ!」


 俺たちの姿を見て驚き、声を上げようとする少女。


「ど、どろぼ」


「当て身!」


 ドスッ


「ぼぐえぇっ!」


 ふう……何とか危機は脱したようだ。

 入店した客が、か弱い女性で助かった。


 屈強な冒険者には敵わなくとも、女子供が相手なら遅れは取らない。

 策など不要。腹パン一発KOである。


 しかし……一難去ってまた一難。

 つい反射的に少女を叩きのめしたが、これはマズイのではないか?


 衣料品屋の店内では、胃液を吐いて床に倒れ込む少女。

 下着姿となり、ぷるぷる震える腕で着ていた衣類を差し出す少女。


 客観的に見るならば……これはまるで強盗である。

 しかも、まだ年端もいかぬ少女ばかりを狙う極悪非道の鬼畜犯。

 その犯人はといえば、現場で1人佇む俺に他ならない。


 仮にこの場に警察でも踏み込もうものなら、即。逮捕。

 哀れにも俺はブタ箱行きとなる事、間違いなしである。


 おのれ……何者かの策か?

 俺を罠にはめ罪人とする事で。

 俺の妖精キングダム建国を邪魔しようという。


 仮にここで前科一犯となれば、俺の履歴に傷が残る。

 出所した後も、誰も前科者の言う事など聞いてはくれまい。

 建国の仲間集めなどもっての他だ。


 薄汚い卑劣な策。

 何の罪もない。無実の俺に罪を着せようなど……


 だが、今回ばかりは相手が悪かった。

 俺は妖精キングダムの軍師。

 先手を打たれはしたが、策略で遅れを取る俺ではない。


 俺は素早く店を出ると、表扉に閉店の看板を掲げる。

 敵の援軍を断つ。これで新たに来店する客はいまい。


 再び店内に戻る俺に対して、すっかり下着姿となった少女が懇願する。


「こ、これで……せめてミーシャだけでも……」


 腹パン気絶女はミーシャという。友達なのだろう。

 策を看破され勝ち目のなくなった今。

 自分を犠牲に友達だけでも庇おうとは、見上げた友情だ。


「静かに。騒がないでいただきたい」


 しかし、感動している場合ではない。

 下着姿で震えるだけの少女。

 全く無害に見えても油断は禁物である。


 元はといえば、この少女が脱ぎだしたのが原因。

 騒動の元凶。卑劣な策略の張本人。

 この先。何をたくらんでいるか分かったものではない。


 迫る危機に備えて、二重三重に策を練るのが軍師の役目。


「い、いやっ」


 俺は棚に並ぶ商品の中から帯を手に取り、震える少女を縛り上げる。

 それこそ二重三重に帯を巻き付け、その身体を拘束する。


 ふう……これで大丈夫だろう。

 たかが小娘の拙い策で、天才軍師たる俺を罠にはめようなど。

 不遜にもほどがあるというものだ。


「お、お金ならカウンターの中に。だから、助けて」


 敵わないとなれば、今度は金銭で買収するつもりか?

 俺も見くびられたものだ。


「金など不要」


 先ほど冒険者ギルドで手に入れたお金。

 15万円を俺は少女に見えるよう床にばらまいた。


「えっ? あれ……強盗なのでは?」


「何を言っている? 私は服を買いに来ただけの客だ」


「えっ? お、お客さんなの?」


 ポカンと口を開けて驚く少女。


「ここは服屋だろう? 客以外に誰が来るのだ?」


「えっと……ご、強盗とか?」


「確かに可能性はある。だが、それは私ではない」


 どうやら演技ではなさそうだ。

 ただ、おつむが足りていない。それだけに思える。


「そもそも強盗の恐れがあるというなら、なぜ君のような少女が1人で留守番をしている?」


 ブラを着ける年齢でもない。

 Tシャツを着ただけの薄い胸板から判断して、年のころは中学に入った程度であろうか。

 まだまだ小娘といった少女1人に店番させるなど、物騒極まりない。


「その……両親が村の会合で。ミーシャちゃんも来てくれるから大丈夫だって、私が言ったんです」


 そのミーシャちゃんは気絶中。全く役に立っていない。


 だが、まあ。事情は分かった。

 相手はまだ客商売に疎い小娘。


 ふんどし一丁で入店した俺の姿を見て、驚くのも無理はないというべきか。

 そうであれば、悪い事をしたものだ。

 特に床に転がるミーシャちゃんには。


 とにかく。

 俺を罠にはめようとしたのではないと分かったのだ。解放しても大丈夫。


「そうか。てっきり美人局か何かかと思ったのだ。すまない」


 そもそもが天才軍師の俺を罠にはめるなど不可能。

 今回の件はただの偶然が重なった天災にすぎない。


「私も。てっきり魔族のオーク男の強盗かと。すみません」


───シルフィア様の知恵袋───


オーク男。

通称は豚人間。


魔族の兵隊で、常に裸に腰みの一丁の野蛮な姿。

不潔。不衛生。太いの3Fで近寄りたくもない最低の存在です。

女性を相手に破廉恥な行為が大好きという、そもそも存在すら許しがたい存在。

同じ息を吸うのも嫌ですから、見かけたら必ず殺すように。滅殺です。


──────────────


「ほう……私をオーク男と……そうか。私はそんなにオーク男に似ているか……」


「すみません。すみません」


 何やら必死に頭を下げる少女。

 だが……すみませんで済めば警察はいらないという。


 世の中、えもいわれぬ冤罪で社会的に抹殺される者もいる。

 そして今回、小娘が失礼を働いた相手が俺で良かったものの。

 冒険者ギルドで会ったような乱暴者が相手であれば、どうなったか。


 不幸な冤罪をなくすためにも。

 そして、小娘自身のためにも。


 例え子供であっても、謝れば全てを許される。

 そのような甘い考えを抱かないよう。


 ここは心を鬼にして。

 いや、身も心も豚にして小娘を教育するしかあるまい。


「ブヒー! ぶひっぶひっぶひいいいい」


「い、いやー!」


 教育は終了した。

 俺とてこのような破廉恥な真似は好まない。

 しかし、人間。痛い目を見ないと分からない事もある。

 子供のうちに過ちに気づけて、小娘も俺に感謝している事だろう。


「うう……冤罪でも何でもない。本当に犯罪だよ」


「元はといえば、人をオーク男呼ばわりした君に罪がある」


「いえ……元々オーク男そっくりの恰好のお客さんの方が……」


「オーク男とは裸に腰みの一丁なのだろう? これは腰みのではない。ふんどしだ」


 そもそもオーク男は魔物。俺は人間。見間違えようがない。

 現にここまで物乞いと間違われはしても、オークと間違われた事はない。

 やはり少女の頭は少々足りていない。


「100歩譲って、仮に私の姿が紛らわしいというのなら、早く服を売っていただきたいものだ」


 俺は商品棚から見繕った服を小娘へと差し出した。


「ええと……それなら……しめて10万ゴールドです」


 高いな。

 いや、異世界の相場を知らないのだから、高いか安いかも分からないが。

 まあ、見た目高級そうな服をかき集めたのだから、妥当な価格なのだろう。


 俺は10万ゴールドで高級貴族御用達服を購入。

 その場で着替えを終える。


「どうか?」


「最初からちゃんと服を着てれば、私も間違えないのに……」


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