童女の歩みは遅い
少しホラーっぽいほのぼの。
黄昏時、彼女は急いでいた。思ったよりも時間が掛かってしまった用事が終わったのは日が暮れ始めた頃であった。暗くなる前に帰りたい。その願いが彼女の歩みを速くする。何故ならば、近頃この辺りで通り魔が現れたのである。
帰り道は怖い。幼い彼女はそれをひしひしと感じていた。誰か大人の人に一緒に来て貰っていたら良かったと後悔しても遅い。
「・・・」
早く帰らなきゃ。でも、速くは走れない。あぁ、どうしてこんなに怖いのか。いつもは違うのに。
「・・・おかあさん」
いつもは彼女の傍に母親が居た。以前は母が手を繋いでいてくれていたのだ。離れないようにしっかりと。だが、それはもう無い。
「さみしい」
あいたいよ、おかあさん。
『どウしたノ?』
寂しくて堪らない彼女の耳に届いたのは優しい声だった。辺りを見渡すと白い靄が見える。咄嗟に人では無いのだと分かったが、その声は彼女を本当に心配しているようであった。
「おかあさんにあいたい」
『ソれはダめ』
「そばにいて」
『それナらイイよ』
ゆっくりでいいから帰ろう。そう言った存在と共に彼女はゆっくりと歩いていく。
江戸時代辺りを想定してますが現代でも良さげ。




