オカエリナサイ
怖い感じの話を書いてみたかったので。
キョロキョロと周囲を見渡す彼は必死な様でスマホを握り締めている。そのスマホは今まさに通知音を発している。彼はそれに一際怯えていた。怯える位なら止めたら良いのだが、何故かそれをしない。彼は何かを呟く。呟きは少しでも離れてしまえば聞こえない程の小さな声だ。しかし、彼は確かにごめんなさいと呟いている。
『ねぇ、まだ帰らないの?』
『ご飯出来てるよ』
『ねぇってば』
『返事してよ』
『ねぇ』
『まだ』『帰ら』『ない』『の』『?』
『ねぇ』『返事』『しな』『さ』『い』『よ』
『早く』『し』『て』
彼はここ暫く自宅に帰っていない。だが、残念な事にとうとう泊めて貰える所も泊まれる程の資金も尽きた。もう帰らなければならない。もっと考えれば他の術もあるのだろうが、彼にはそれが出来る余裕は皆無だったのである。彼は帰宅する為にドアノブに触れた。
「オカエリナサイ」
部屋は真っ暗だった。彼は思い出す。彼のスマホが握られている手とは反対の手に握られている物の存在を。
「あぁ・・・ただいま」
もう聞こえない声の代わりに彼の声で紡がれた言葉に虚しく返事をする。
不完全燃焼な感じがひしひしとしてます。




