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ノート

作者: 小呂 花茂乃

いいことないかなぁ、なにかいいこと。

そんなに大きないいことでなくてもいい。

とにかくいいこと。


私は新品の新しいノートを買ってもらった。

「そこに、毎日一つずつでいいから、その日起きた素敵なことを書いていきなさい。なんでもいいから。」

買ってくれたお父さんはそんなこと言って私の頭をなでなでした。


最初の1週間は家のなかで探した。

例えば、ずっと探していた香りつき消ゴムがやっと見つかったとか。夕御飯に麻婆茄子が出て嬉しかったとか。

でもさすがに家のなかだけだと、どうしても内容が被ったり、すぐに飽きる気がしたりして、今日はお母さんと川沿いのお散歩をすることにした。これはだいぶ我が儘を言った。


いい天気だな。

ぽかぽかと太陽が私たちを優しく包んだ。

私は小学校に入ったばっかりで覚えた歌を疲労する。お母さんが微笑んだ。

こんなに楽しいときはスキップしながら歩きたい。お母さんの手を繋ぎながら大袈裟な動きでぴょこんぴょこんと跳ねる。

お母さんもちょっと小走りで一緒になってお散歩をした。


次の日はお父さんと公園で遊んだ。

お父さんは私を肩車して走り回った。ゆっくりだけど、私は肩にのっているものだから怖くて楽しくてきゃーっと悲鳴をあげた。

ブランコにも乗った。

お父さんが背中を押そうとしたけど、私はもう一人で乗れるんだから、と断ったけど、どうにもこぐ力が弱いのか、なかなか前に進まず、結局最後は押してもらった。あの、押されるときのなんとも言えないスリルが堪らない。


次の日は学校だった。

私にはもうたくさんの友達ができた。休み時間にはみんなで廊下を走り回ってみんなで怒られたけど、とっても楽しかった。

大体、こんなに楽しいことをやめろって言うのがひどいとおもう。

そんなこと言ったらまた先生に起こられるだろうから言わないけど。


下校の時間が一番楽しい。最初の方はわー!ってあそこまでかけっこ!って頑張って走る。けどそのあとはもうへとへとで、そこら辺に生えている雑草をむしったり、道に止まった鳥をうわーっていって脅したり、小石をけってサッカーのをしたりす

みんなで寄り道したら迷子になりかけたこともあったけど、何とかして家に帰れたときはほっとした。


そうこうしていたら、ノートがうまってしまった。

読み返してみると、楽しかったことばっかり書いてあって、そのときの気持ちが蘇るようだった。


そして、月日はどんどん過ぎて━━




「ほら、起きなさい! もうすぐ時間よ! 準備は出来ているの!?」

「うにゅぅ……」


私は目を開けた。

タンスの奥から出てきたボロボロのノートを読んでいるうちに寝てしまったらしい。

何だか懐かしいことをいっぱい思い出せた。

いまでも私は幸せノートを続けている。

気づけばもう、春から大学生だ。

長らくお世話になったこの家としばし別れなければならないのはとても辛いけど、同時にとても楽しみだった。


その日楽しかったことを思い出す時間は私にとって素敵な時間だった。

勿論、毎日充実していたわけではないけれど、探してみるとたくさんのいいことが、幸せが、私のなかに溢れている。

どうしようもなく切ない日や辛い日もあった。

そんなときは昔のいいことを少し振り返る。

そのときの気持ちが心のなかに染み渡っていつも私は元気になれた。


幸せって、すぐそこにころりと落ちている。

気づけて本当に良かった。

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