表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/69

第八話 下山

夢の中でもう一人の自分にあんなことを言った手前、何とかしてやりたいとは思っているが残念ながら今のところいい案は浮かんでいない。

リリスの中で見て覚えた情報もリリスの中の全ての情報のほんの一端に過ぎない。

つまりは、現状では何もできないのだが俺は夢の中でもう一人の自分をなんとか慰めて放置した。

殺すのは躊躇われるし、かと言って体を明け渡してやる義理はない。

俺だって被害者なのだ。


ただ、この世界で生きる目的が一つ増えたので俺は起きたらこの世界を旅して知識を集めようとは思った。リリスがもしかしたらこの解決法を持っている可能性はあるが、リリスと山奥でひっそりと暮らしていくほど俺は達観も老成もしていない。

俺はもう一人の自分に申し訳思いながら体の主導権は自分が握ることを伝え、代わりになんとか精神を分離して別の肉体をあげられないかを検討してみると告げた。


俺は深い夢の中から意識を浮上さして起き上がる。

この世界で四日目の活動が始まる。

正確には俺自身は二日ほどしかいないのだが、ずいぶん長いことこの世界にいる気がする。

それが、たった四日のうちに色々あったからなのか、リリスの精神世界で色々な知識や経験を体験したからなのかはよくわからない。

いや、その両方だろう。


とりあえず、俺は朝起きて顔を洗う。

服はリリスの用意してくれたものに着替えて身支度を整え、リリスの用意してくれた朝食のある食卓へ。

朝食を食べながら俺はリリスに夢の中であったことを伝えて、なんとかもう一つの精神を別のものに入れ替えて別離できないか尋ねる。


「うう~む。そういうのはシャーマンかネクロマンサー、もしくは錬金術師に頼まねばならんな。」


リリスは食事を頬張りつつ答える。

どうやら、仙人の知識と能力ではできないらしい。


「シャーマンとネクロマンサーは判るが、錬金術師でも精神の分離ってできるのか?」


「うむ、錬金術師の中にはそういうことができる能力を持った物を作れる者も存在する。これと似たようなものが作れるのは生活系職業の生産系の系統にある魔道具職人じゃな。じゃが・・・」


リリスの話によると魔道具職人は生活系職業の中でもかなり希少な職種らしく、就くこと自体が相当難しいらしい。その難しさは上級の戦闘系職業並みだそうだ。

戦闘系の上級職がどれくらいすごいかというと大陸にいる総人口約10億人中1000人ほどしかいないそうだ。10万人に一人の割合でしか存在しないのだ。

この世界では上級職についた時点で最強クラスの能力になるらしい。

そのため上級職についたものはほとんどレベル上げをしないそうだ。

そのため、レベルは高くても20より少し上ほどで平均で10前後らしい。


「寿命が400年もあるのに他の種族でもそんなものなのか?」


俺は人間以外の種族の寿命が長命で400年ほどあることを思い出して尋ねてみる。


「いや、先程の人口には人間も含まれておるが、人間には上級職に就いた記録は4000年以上歴史遡っても存在せん。それもあって人間は最も数の多い種族でありながら国を持っておらん。」


「ああ、そういうことなのか。」


俺はこの世界の知識をリリスの精神世界で学んでいたが、国家の中に人間の国が存在しない理由までは知らなかったので、そういう理由なのかと納得する。

いくら人間が最も数が多い種族と言っても寿命が短い故に他の種族の様にゆっくりとレベルを上げていては中級になれるかどうかの実力しか身に付けられない。

かと言って無理をして死んでしまっては意味はないし、効率よくやっていくか無茶をしても運よくレベルをあげれたとしても中級職のレベル30台が関の山だ。40台など奇跡に近い。

逆に他の種族は長命であるがためにゆっくりじっくり上げていっても中級のレベル50台までにはなれる。そんな訳でレベルという明確に実力を現してしまうものがあるために人間の国は存在しない。

国を作るためには力がいるのだ。

例え、長年戦争をしていない世界だとしても、それは必要なのだ。


ついでにこの世界の国家についても話しておこう。

この世界には四つの国家と二つの小国連合が存在する。

聖王が治めるエルフ種の国 公国

帝王が治めるドワーフ種の国 帝国 

魔王が治める魔族種の国 王国

獣王が治める獣人種の国 共和国 正式名称 共国きょうこく

大陸にある小さな国集まりでできた諸国連盟 正式名称 連盟

大陸の近くにある島々の集まりである諸島連合 正式名称 連合


国の名前が漢字二文字の方が正式名称なのは、以前まではその名前だったが改名したからだ。

理由は子供でも覚えやすい様にという配慮。


ではなく、この世界の気風的なものらしい。

長い名前を略して愛称で人の名前を呼ぶことが俺の元いた世界ではよくあったことだが、この世界では愛称は推奨られていないらしい。


「ワシのつけた名前を略すとは何ごとじゃ!!」


と、昔の偉い人が怒ったのが理由らしい。

それから、略されるぐらいなら最初から短くするのが美徳なのだそうだ。

大分話が脱線したところで朝食を食べ終わる俺とリリス。


食器を片付け、洗物をするリリス。

俺は歯を磨いて顔を洗い終わると背中越しにリリスに話しかけることにした。


「旅に出ようと思うんだ。」


俺はリリスとの話で現状では精神の分離についてはどうしようもないということで旅に出ることにした。

俺としては精神の分離なんて関係なくいずれは出ていくつもりだったのだが、今は目的ができてしまったので少し早いが旅立つことにした。


「そうか、では準備するので少し待ってくれ。ワシも行く。」


リリスはまるで俺が旅立つことが分っていたかのように二つ返事で返してくる。

リリスとしては俺に出て行って欲しくないのだろうが、だからと言って監禁しておくつもりはないらしい。もしそうだった場合、俺の人生はここで終わっていただろう。

おそらく、リリスの目的は俺と相思相愛になるだろうと俺は思っている。


旅についてくるのは俺と一緒にいるためと俺に自分のすごさを見せつけて尊敬と憧れの感情が移り変わって愛情になればいいなと思っているのだろう。


この世界で何も持っていない俺と違い、リリスは小さな小屋の中の荷物を魔法の鞄にしまう必要があるので少し時間がかかったがそれでも10時頃にはリリスは準備を終えた。

手伝おうかとも思ったのだが、俺には魔法の鞄の扱い方がわからないのでリリスに断られた。

正直、教えてくれれば問題ないと思ったのだが、リリス曰く「マジックバッグは使用者のレベル応じて収納能力が変わってしまう」そうなので俺には無理ということだった。


レベルと言えば伝説級とはいえLv4のリリスに扱えるのならば行けるのではないのか、とも思ったが下級から上級、果ては生活職の職業レベル全てのレベルの足し算なので俺とリリスでは雲泥の差があったので不可能だった。




「ふふふ~ん♪」


リリスは旅支度が終わるとテーブルの上に人形を二つほど並べて置いく。

これから二人で旅立つのがうれしいのか鼻歌交じりだ。

俺は小屋の外に出て軽くストレッチをしながら待つ。


「よし、では行こうかの。」


リリスは小屋の扉を閉めてそう言った。


「人形は置いて行っていいのか?」


「ああ、あれは魔除けのお守りも兼ねておるからの。いずれ帰ってくる二人の愛の巣を守るために置いていくのじゃ。」


リリスの中では旅の中で俺との愛が芽生えてここに帰ってくることが確定していることらしく、自信満々で言い切って歩き出す。

俺はその後にただついていく。

この深い霧の中では俺一人での下山は不可能なのでリリスがついて来てくれるのは非常に助かる。


(俺としては人里で暮らしたいな。)


ここから一番近い麓の町を目指して歩く俺はリリスとの関係は抜きにして、ただそう思った。

なぜそんなことを思ったのかは自分でもよくわからない。

ただ霧の中をリリスの背中を何も考えずに歩くのに厭きてきたからだろうか。


そう思いリリスの背中を見つめるとその背中は小さく、ショートカットのピンクの髪が小さく揺れている。肩も小さく髪の間から覗く、白く綺麗な細い首筋を見ているとこんなどう見ても10歳程度の少女が俺を異世界に召喚した非常に優れた魔法の使い手には見えない。

いや、引っ張ったら来たと言っていたから魔法ではないのかもしれないが・・・


俺はリリスの後について歩きながらなんとなくリリスのことを考える。

俺のことを好きというリリス。

仙人という歴史上二人目の偉人として名を残すであろうリリス。

辺鄙で霧の迷宮の中での生活を望むリリス。

思えば、リリスは俺のことを知っているようだが俺はリリスのことをよく知らないんだなと思う。


リリスが辺鄙なところで暮らしたがるのはリリスの性格なのか仙人という職種のせいなのかも今の俺には分からない。

そこまで考えてから俺はリリスから視線を外して考えをやめる。

旅をしていればいずれわかるかもしれないし、必要な情報なら聞けばいい、そう思ったからだ。


(何より、後ろから見つめてその人物のことを考えるだなんて俺がリリスに惚れているみたいじゃないか)


俺は頭を振って今の考えを否定する。

顔を振り終わり、視線をリリスに戻すとリリスは後ろ向きに俺を見て歩いていた。


「ところでお主、こっちの世界に来てもう四日じゃがあっちの方は溜まっておらぬのか?」


「ぶ!!」


リリスの突然のナニ方面の話に俺は思わず噴いてしまう。


「何を言い出すんだお前は・・・」


「? 何か変なことを聞いたかのう? 男は一週間我慢するのは大変なのだろう? なら四日我慢しておるお主も相当つらいのではないのかの?」


俺はリリスの発言に頭を抱えるが、リリスはポケっとした表情のまま冷静に聞いてくる。


(まぁ、確かに丸一日寝てたのを除いて三日も自家発電やってないんだよな~。でも、精神的にも肉体的にも辛くないのは幼児化してた影響か?)


リリスの発言に冷静に考える俺だが、確かに今のところ切羽詰まった状況にはなっていないとは思った。

なっていたらまたリリスがそっち方面の関係を求めてくるだろう。

今のところは全部無視しているのでこれからも大丈夫だろうと俺は思っているのだが、その考えは甘いのだろうか?


「今のところ問題ない。というかそんなことを聞いてくるんじゃない。お前も一応女の子だろうが」


俺の発言を受けてリリスはにっこりと微笑む。

女の子発言がうれしかったのか、「今のところ」という単語を受けてなのかはわからないがとりあえずにっこりと笑顔を浮かべられた。

貞操の危機を感じ取ったのか俺は背中にゾッとするものを感じた。


下山途中の山の中でリリスは俺に戦闘系の職種に就くことを進めてきた。

レベル12から就くことができたらしいが、その時俺は幼児化していたので今までしてこなかった。

職種の選択は本来、それに合った修行と知識の勉強が必要なのだが、俺はリリスの中の知識を読み漁る中ですでに修行を終えていたらしく、下級職の5つどれにでも就くことができる様だった。


「ううむ。 五つとも選択できるのはいいことなのだろうが、悩むな・・・」


俺はステータス画面を覗きながら腕を組んで歩きながら頭を抱える。

この世界に来て名前を好きに変更できると聞いた時もすぐに選択できなかった時同様、俺は悩んでいた。


優柔不断。

俺の欠点の一つだ。

昔から何か一つのことに執着したりすることが苦手だ。

あれもこれもと手を伸ばすくせに負けず嫌いなので何にでも勝とうとしてしまう。

これは、物事を幅広く実力を身に付けることが一点を鍛え抜いた人には敵わない。

俺は所謂、器用貧乏というやつなのだ。


「何か明確な目標を持った方がいいかもな。」


「目標?」


俺の独り言にリリスは疑問を投げかける。


「ああ、中級職で何になりたいかを決めておけばなりたい職業になれる職業につけるだろう?」


戦士になったが魔法使いの上位互換である魔術師になりたがっても意味はないだろうという俺の発想だったのだが、その意見を聞いたリリスは首を傾ける。


「戦士から魔術師になれるぞ? というか、お主がワシの中で学んだ知識にはずいぶんとかたよりがあるんじゃの。」


そう言ってリリスの職業についての解説が始まった。

まず第一に、下位職から中級職に上がるための条件はレベル75と一定のスキルレベルだけらしい。


例えば、戦士Lv75でスキルが剣術Lv40のみだったとしよう。

この場合は中級職の『剣士』か『騎士』のどちらかになれる。

剣士は剣術スキルのレベルによって出現し、騎士は武器を使うスキルなら何でも出てくる職種だ。


次に戦士Lv75でスキルが魔術Lv30のみだったとしよう。

この場合の中級職は『魔術師』一択だけだ。

魔術スキルしかない場合は魔術師しか出てこない。


最後に戦士Lv75でスキルが剣術Lv25 魔術Lv25を仮定する。

この場合の中級職は『剣士』『騎士』『魔術師』『魔法剣士』『魔法戦士』の五択に増える。

剣士、騎士、魔術師は前記の出現条件で出てきて、魔法剣士と魔法戦士は剣術と魔術のスキルが一定に達すると出てくる複合職だ。

ちなみに剣術が他の武術であった場合は魔法剣士は消えるが、魔法戦士は残る。


様はどの職業に就こうが使用するスキルに応じて選べる中級職が変わるので最初に何の職業に就こうとあまり関係はない。

ただ、良く使う武器を選んだり魔法を使って戦うならばそれに特化した戦士、魔法使いを選んでおいた方がスキルレベルが上がりやすいという特典がつく。

さらには、同じ魔法でも身体強化系の魔法は魔法使いよりも戦士の方が上がりやすい。

こういったことを吟味して職業は選んだ方が効率がいいのだ。


「ううん。戦闘スタイルに合わせて職業を選ぶっていってもなぁ~。まだ模索してる途中だしな。」


「何じゃお主、棍棒はもうやめるのか?」


「いや、魔法式の拳銃って使ってみたいんだよな。二丁拳銃とか昔憧れたなぁ~」


リリスの質問に俺は自分の希望を述べて、昔見たテレビで二丁の拳銃を使い敵を討ち果たすガンマンを思い出す。


「ふむ・・・」


リリスは顎に手を当てて考えた後、マジックバッグの中に手を突っ込んでホルダーに入った二丁拳銃を取り出すと俺に差し出してきた。


「これは?」


「お主がどのような武器を欲するかわからんかったから色々と揃えておったんじゃよ。」


リリスはそう言って俺に拳銃とホルダーを押し付けた。

俺は感謝の言葉を述べて腰にホルダーを巻いて背中側に二丁の魔法式の拳銃が来る様にする。

腰に拳銃があるだなんて初めての経験なのでかなり落ち着かず、重量もあるので歩くのが少ししんどくなった。


「ううん。拳銃を見せつけながら歩くのは抵抗があるな。」


俺がそうぼやくとリリスはまたマジックバックから今度は服を取り出して俺に渡す。

それは膝下まであるコートで、結構分厚いので背中の拳銃を見事に隠してくれる。


(これはもしかして俺がリリスからカツアゲしてるのか?)


俺はリリスに罪悪感と感謝しながら山を下りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ