第七話 邂逅
他の人の小説読んでたら自分の小説が拙く思えるよね。まぁ、それでも書くんだけどね。心が折れるまでは・・・
一日中レベルアップに費やしたおかげで年齢で上がるレベル以上のレベルを手に入れたアルトをリリスは寝かしつけた。
リリスは同じ布団に寝付こう思いながらもそれを躊躇ってアルトを一人で寝かせる。
リリスがすぐに布団に入って寝なかったのは寝るのが怖かったからだ。
夢の世界にはアルトがいる。
今の五歳児のアルトではなく、リリスが惚れて好きになりこの世界へと連れ去ったアルトがだ。
強引に連れ去ったことに負い目を感じてはいるが、リリスは人生で初めて恋をしたアルトと離れる気はない。
つまりは、元の世界に返す気はない。
我が儘なのは理解しているが、恋は盲目の言葉通り感情がそれを許さない。
そんなにも愛しているアルトと夢の中で会えるのだから早く寝てしまえばいいとも思うのだが、リリスは不安で眠る気になれない。
その理由は五歳児のアルトがレベルアップしたにもかかわらず、精神的又は肉体的な変化が訪れないからだ。
リリスの目論見ではレベルアップごとに徐々にアルトの記憶と知識、精神が回復しながら肉体的にも急成長していくはずだった。
しかし、結果はレベルアップしても肉体の年齢は変わらず精神的にも変化がない。
ただでさえ、連れ去った負い目があるのに幼児化という不測の事態。
リリスにとってレベルアップにより元の状態に戻るというのはこの不測の事態に対する最初にして最後の希望だったのだ。
仙人という現在世界に一人しかいない偉大なる職種に就き、世界の英知をその身に宿しているはずなのにリリスにはもう打つ手がない。
それをアルトに離さなければならない。
いや、アルトの精神は現在リリスの精神世界にいるので、言わなくともわかっていることだろう。
それがリリスにはまた辛かった。
(ええい! いつまでも悩んでいても仕方がない!! いつかは言わねばならんのじゃ!! 覚悟を決めよワシ!!)
リリスはそう自分に言い聞かせながら自分の頬を両手で数回叩いた。
頬には薄らと赤いもみじが何重にも重なってできる。
意を決して布団に潜り込んむリリス。
(い、いかん。 頬の痛みのせいで寝付けん・・・)
リリスは赤くなった頬をさすりながら起き上り晩酌を始めた。
リリスは数時間ほど酒とつまみを食べて泥酔してから眠りについた。
夢の中でリリスは目覚める。正確には夢の中に意識を映していく。
そこは以前見たのと同じ真っ白な世界だった。
真っ白な世界に佇む男が一人。焚火をしていた。
リリスは焚火の方に魔法で飛翔して降り立つ。
アルトは「やっと来たか」という表情を浮かべる。
リリスは困ったような申し訳なさそうな顔を向けてアルトの前に立つ。
リリスが何かを話そうと口を開きかけるがアルトは手でそれを制止する。
「お疲れ様。ご苦労だったね。計画は成功だ。」
アルトの言葉にリリスはキョトンとした顔をする。
リリスの中では失敗しているからだ。リリスに話す間を与えずにアルトは話を続ける。
「俺はもうすぐ自分の体に帰る。明日には体も精神も元通りだろう。」
アルトの言葉にリリスは眼の端に涙を浮かべる。
計画は失敗ではなく成功していたことへの歓喜の涙だ。
リリスは思わずアルトに抱きつこうとするが目の前の焚火の中で燃えている本が気になってふと足を止める。
本は炎に包まれているはずなのに全く燃えておらず、綺麗なままだ。
本の表紙には『アルトへの想い』と書かれていた。
「これはなんじゃ?」
「お前の俺への思いが綴られた本だよ。燃やせば俺への気持ちがなくなって元の世界に返してくれるんじゃないかと思って燃やしてるんだけど、なかなか燃えてくれないんだよね。」
リリスの質問にアルトは意を関せずに淡々と答えた。
その本の表紙の内容からしてリリスがアルトに想っている気持ちなどが本としてリリスの中に整理されていたのであろう。
それを燃やすということはその思いの消滅を願いということに他ならない。
「馬鹿もんが~!! 何してくれとんじゃ~~!!」
リリスはすぐさま水の魔法で炎を消化して本を救出する。
本は先程まで炎に包まれていたのに少しも焦げておらず、水でずぶ濡れのはずなのに新書の様に綺麗なままだった。
アルトはリリスの咄嗟の反応が面白かったのか嬉々とした笑顔を向けている。
「お主! もう少しワシの気持ちを尊重してくれてもいいんじゃないのかの!!」
リリスが怒りと悲しみを混ぜた顔でそう言い放つのをアルトは「人を拉致ったお前が言う?」という表情を返すだけで否定する。
表情からアルトの感情を読み取ったリリスは申し訳なさそうな顔をしながら大事そうに本を抱え込んで咳払いをした。
「コホン。 まぁ、あれじゃお互い相手のことはおいおい知っていくということでじゃな・・・」
リリスは目線をアルトから外して虚空を見つめる。
アルトは仕方ないなという表情を浮かべてリリスの頭に手を置いて優しく撫でる。
リリスはいきなり頭を撫でられたので何事かと思い一瞬混乱するがすぐに目を細めて受け入れる。
「んじゃ、行くわ。起きたらまた会おう。」
「ああ」
二人は目を合わせずに頷きあった。
いつの間にかリリスの頭からアルトの手の感触が消える。
リリスが目を見開いて辺りを見回すとアルトの姿はどこにもなかった。
~アルトの精神世界~
アルトがリリスの精神世界から帰ってくるとそこは霧と大地のみが広がる世界だった。
(なんだここは? リリスと住んでる山の中にそっくりだな。)
実際に見た映像に引きずられてなのか影響を受けてなのかは不明だが、リリスと現在住んでいる山の中と同じ光景が広がっている。
広がっているといっても視界を霧が覆っているので10mほどしか見渡せない。
「とりあえず、帰ってきたがどうするかな」
「死ねばいいんじゃないかな?」
アルトがなんとなくつぶやくと背後から自分と同じ声の人物が襲い掛かってきた。
アルトは咄嗟に右手に棍棒をイメージして形作り振るう。
突然の襲撃に全力で棍棒を振ってしまったために相手の武器を弾き飛ばすどころか相手自身までも吹き飛ばしてしまう。
カラカラと音を立てて転がる武器とその手前に仰向けに転がる一人の少年。
武器は木刀で少年の方は自分を幼くした感じだ。年齢は10歳ぐらい。
「何者だお前は。」
アルトはそう言って棍棒の先端を少年の目前に突きつける。
少年は怯えた表情を浮かべるがそれも一瞬のことでアルトのことを次の瞬間には睨みつけてくる。
アルトは「質問に答えろ」と眼のみで訴える。
少年は後ろに手を伸ばして後ずさる。
「ふう」 ゴス!
後ずさる少年に対してアルトは棍棒で腹部に突きを入れる。
腹部に突きを食らった少年は吐き気を催したのか「ゲホゲホ」と咳き込む。
「質問に答えろ。」
アルトは今度は口に出してそう言った。アルトの少年を見る目には怒りも哀れみの色もなく無関心な瞳だ。
その心情はお前に関心はないが疑問は解消したいという冷徹で冷酷なものだ。
咳がようやく止んで少年は逃げるのをあきらめたのか口を開いた。
「俺の名前はアルト。アルト=オオヤケだ。正真正銘お前自身だよ。」
少年の言葉を聞いただけでアルトは少年の正体を悟った。
アルトはリリスの精神世界で様々な本を読み、リリスの経験してきたことを疑似的に体感したように知ることによって精神年齢が大幅に上がっていた。
おかげでこの少年の正体が自分が幼児化した時の精神を素に組み上げられた別人格だと悟った。
成長しているのは自分の精神が元に戻るにつれてこの別人格の少年に記憶と知識が流れ込んだのだろう。
一つの体に2つの人格。
(こいつが俺を殺そうとしたのは俺を消して自分一人になって肉体の主導権を取るためか。)
精神世界で2つの精神が一つの肉体を求めて争うことに・・・
すべての元凶はリリスとはいえ、アルトは面倒なことになったと思いながら少年を見つめて頭をかく。
精神世界でとはいえ人殺しはしたくないというのがあるとの見解だ。
おまけに相手は子供なのだ。
物事に動じない無関心な性格でリリスから大量の知識を得て達観しているとはいえ簡単には殺せない。
逆に相手は自分を殺すことに躊躇がないように思える。
先程の木刀の一撃も食らっていれば脳天を直撃しているはずだ。
「お前は俺を殺すことに躊躇がないような気がするがなんでだ?」
「お前が嫌いだからだよ!! このクソ野郎!!」
アルトの質問にもう一人のアルトは怒りを顕わにして怒鳴りつけるように言った。
アルトは何か悪いことをしたのかと思いながら首を捻っていると少年アルトが答えをくれた。
「お前のせいで俺は友達をこの手にかけることになったんだ!!」
アルトは「ああ」と呟いて納得した。
おそらく、リリスに幻術をかけさせて子供とチャンバラさせると見せかけてゴブリンを倒させたことだろう。アルトの記憶が流れ込んできたときに誰がその作戦を計画させたのかを知ったのだろう。
「俺はお前を殺す! 敵を討って体の主導権を手に入れる!!」
少年の熱い台詞を聞いてアルトは自分の立てた作戦を後悔する。
「お前には悪かったと思っている。でもな、あれは実際はゴブリンっていう魔物で・・・」
「うるさい! それでも、俺には初めてできた友達だったんだ。」
少年の幼気な心を踏みにじったためか、少年はアルトの言葉を制止する。
はっきりとした拒絶と敵意にアルトは溜息をつきながら棍棒を構える。
「来いよ。気が済むまで遊んでやるよ。」
アルトの言葉を聞いて少年は立ち上がり木刀を拾いに行く。
拾った木刀を手に持つと霧の中に消えた。
(何の真似だ? 霧の中って言っても10mは視界が確保できるんだから隠れても意味な・・・)
そこまで思考が進んだ瞬間、アルトの正面から霧がなくなる。
無くなった霧の奥には木刀を持つ少年の姿が、その前には大きな水の球が周りの霧を吸収しみるみるうちに大きくなりバスケットボールほどの大きさになると同時に少年が木刀を振るのと同時に放たれた。
水の球はまるで弾丸のように速くアルトに迫ってくる。
「くだらん。」
アルトは水の球を棒で突いて割り、その水を浴びる。
だが、それだけでそれ以上のことは起こらない。
少年はアルトがリリスから得た魔法の知識で魔法を使い攻撃してきたのだろうが、その技は稚拙の一言に尽きる。
そもそもアルト自身、魔法をリリスの中で使う練習をしていたがうまくいっていない。
本来は子供のうちから親か誰かに習って数年かけて覚えていくものを大人になって知識を身に付けたからと言ってすぐに効果的に使えるはずもない。
正直、先程の魔法の攻撃もわざわざ突きを放って割らず、そのまま食らってもバケツで水を掛けられるのとさほど変わらない。
それでも、アルトがわざわざ突きを放って割ったのは少年に渾身の魔法を放ったがそれが全く通じなかったと印象づけるためだ。
そうすることで、精神的に追い込むことができる。
いや、すでにもう最大まで追い込んだといっていい。なぜなら、最初の死角からの一撃を弾き返されただけでなく弾き飛ばされたのだ。
少年には肉弾戦で勝つ見込みがないと思わせることはすでにできている。
頼みの遠距離攻撃も先程のやり取りを見て通じないことは明らかになっているだろう。
「くそ!・・・くそ!!」
少年は両目から涙を流し、呻き声を上げる。
催眠にかけられていた上に相手はゴブリンだったとは言え、友達を殺されせられた恨みを晴らすどころか一矢報いることもできない。
少年は悔しさのあまりに泣きじゃくるのだが、それ以上に彼は死ぬことを恐れていた。
一つの肉体に2つの魂。
肉体の持ち主は自分ではなくもう一人の方で、手に入れるには相手を屈服させるか殺すしかないのだが、それも叶わない。
生まれ出でてまだ1日と少し・・・
これが赤子ならばまだよかったのだが、少年はすでに記憶と知識を得て10歳にまで成長してしまっている。
本来の精神が肉体に帰ってきたことでもうそろそろ成長は落ち着いてしまうだろうが、それもまた少年を悲しませる一因だった。
それは長く心の片隅で隠れ住んでも自分が本来の精神であるアルトには永遠に敵わないことを意味しているからだ。
例えどこに逃げても隠れても、自分だけは外の世界から肉体を通じて情報が入ってこない。
逆に相手はリリスと共にレベル上げを行いドンドン強くなっていくことだろう。
もう一人のアルトにはそれが余計に恐ろしかった。
今死ぬか、永遠に買い殺されるか。
彼にはその二択しか残されていないのだから・・・
泣きじゃくる少年を見てアルトは武器を手放して歩み寄る。
少年は逃げも隠れもせず、ただ自分に歩み寄る絶対的な死を予感した。
「はぁ、そんなになくな。俺がなんとかしてやるよ。」
アルトはそう言って少年を優しく抱きしめた。
誤字脱字、感想、文句、疑問点などあったら容赦なくコメントください。
次回予告的なことは書かないってか書けないんだな。何も考えてないから
だから、実は次回で少年が助からなくなるって展開もあるという。
誰か助けるいい案ないかね?




