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第五十九話 休日② 前編

翌日、宴の席での話し合いで今俺達がいるドルアドの街のダンジョン攻略後に現パーティーは解散することが確定した。

パーティー解散後、俺とリリスは別の街に移動する。

アーシェ、アリス、セリスの3人はこのままパーティーを組み。

後日、3人だけでダンジョン攻略を行い。その後に街を出るそうだ。


俺としても3人がこのままパーティーを組むことには賛成なので文句はない。

唯一気がかりだったのは、教会で修行中の身であるはずのアリスがこの街から出れるのかということだが、レベル的にはすでに修行は終了しているので問題ないそうだ。


そんなわけで何の心配もなく今日はダンジョン攻略を行おうと思っていた俺だったが、アーシェ達3人が「装備を新調したい」というので本日は休日となっている。

まぁ、3人はパラサイトアント討伐作戦でかなり儲けたみたいだからな。

今までの装備を売って武器を新調するという考えは悪くない。

ただ、俺はパラサイトアント討伐作戦時に貰ったお金はすでに使い切っているのでやることがない。


そんなわけで、宴から帰った晩は「明日は昼ごろに起きよう」と思い夜中に手元に残っているナイフ数本に付加魔法をつけていく。

まぁ、ただの魔法の練習であって特に深い意味はない。

武器に付加魔法をつけていれば何かと役立つのだが、この街のダンジョンのレベルならばすでに俺の敵ではない。

なので、現状は付加魔法付きの武器なんて必要ない。


まぁ、次の街では必要になるかもしれないし、使える武器は多い方がいいので無駄にはならないだろう。

な~んて思いながらすべてのナイフに魔力を込めていたのはもう日が昇る前までの話だ。

窓の外が明るくなってきて「もうすぐ日の出か・・・おやすみ・・・」と言ってベッドに潜った。

それが確かほんの2~3時間ほど前・・・


ドンドンドン! ガチャ!


「おお~い! アルト! 出かけるぞ!!」


そう言って先程寝たばかりの俺を起こしに来る声が聞こえる。

声の主は恐らくリリスだろうが全く気にすることなく俺は浮上しかけた意識をまた沈ませて眠りにつこうと努力する。

昨夜、遅くまで起きていたために俺はまだ眠たいのだ。

掛布団を頭が隠れる様にかぶり直す。


「なんじゃ、そんなに寝たいのか? しかたがないの~♪」


リリスはやけに嬉しそうな声を上げるとおもむろに俺の布団の中に入ってきた。

手で押さえている上の方ではなく、下の方の布団を手で開けて頭から入ってくる。


ガシ


俺は下半身に向けて頭から突っ込んでくるリリスの頭部を掴んだ。


「ううむ。何をする・・・」


リリスは不満げに眉を顰めて非難の声を上げる。


「それは俺のセリフだ。」


俺は不満げに眉間に皺を寄せると起き上がると布団をめくる。


「なんじゃ、起きるのか?」


リリスはつまらなそうに唇を尖らせるがそんな彼女を無視して起き上がると俺はトイレに向かう。

寝ていると寝込みを襲われそうなので起きることにしたのだ。

正直、眠たいし起きたくないのだが寝込みを襲われるよりはいい。

既に肉体的関係を一度犯しているが、だからと言って惰性でそんな関係を続けるつもりはない。


朝起きてトイレに行ってから顔を洗い身支度を整えると俺は部屋を出る。

リリスはそんな俺の後に平然とついてくる。

服を着替える時ぐらいは部屋から出て欲しいが、残念ながらリリスはそんな気の利く奴じゃない。

寧ろ、俺の気替える所を見て楽しんでいる様な女だ。

何を言っても聞きはしないだろう。


部屋を出た俺の後ろにリリスが平然とついてくる。

2人揃って一階に降りると朝食を取るためにテーブルに着く。


「おはよ~。何になさいますか?」


猫耳獣人の女性店員が元気に挨拶して注文を取りに来た。

もちろん、注文を取りに来た今さっきメニューと水を置いたばかりなのだが、俺とリリスはなんだかんだでこの宿にだいぶ長い間お世話になっている。

なので、メニューは期間限定の物か新作がない限りはだいたい把握している。

そんなわけで、俺とリリスはメニューを開くことなく適当に注文を行って朝食を取る。


「今日の予定はどうするんじゃ?」


店員が注文を取って席を離れたタイミングでリリスが話しかけてきた。

俺はコップに入った水を少し飲んでから答える。


「昨日の話でダンジョンの攻略は明日だからな。今日は休みだし・・・」


そこで俺は言葉に詰まってしまう。

本当ならば夜寝ていない分、昼まで寝ていたいのだが、その場合はリリスの妨害が予想される。

ならばここは眠気と戦うことになっても外に出た方がいいだろう。

いざとなればクルトかドッペルと精神を入れ替えてしまえばいい。


ただ、髪の色が赤黒い状態から赤い状態になってしまうから、周囲に警戒心を与えてしまうのでそんなに気軽にできないのが難点だ。

それさえなければ今すぐにでも後退して精神世界で眠りにつきたい。


そんなわけであくびをしながら適当にリリスと会話しながらやってきた朝食を食し終わると宿を後にした。

最初来た時にリリスが食堂で色々揉めたらしいが、今では特に問題もなく平然と毎日が過ぎている。

まぁ、誰もリリスを恐れて話しかけないだけだけどな。


ガラシャワやパラサイトアント討伐、さらには俺の魔人化などの騒動でリリスの実力は噂話として広くひろまっている。

リリスはそのことに迷惑しているが、特に否定したりはしていない。

その理由は俺だ。

パラサイトアントの巣内でのプロミネンスアローによる人的被害はゼロだったが、それでもルートを潰されたり巣内の温度が急上昇して、多大な迷惑をかけることになった。


これを俺がやったという風に広まってしまった場合。

この街に住む人たちに多大な不安を与えることになる。

ただでさえ危険な魔人が存在するのだ。

そんな魔人が街を消し飛ばしかねない魔法を使えることが知れ渡ればパニックになることは間違いない。


史実として、上級職についていた者が誤って魔力を吸収しすぎて魔人化し、上級職でしか使えない最上位系の魔法を発動して森を焼き払ったことがあるそうだ。

魔人化したその上級職の者は自身が発動した魔法に飲み込まれて死亡したらしい。


これは魔人の知能が低いことを表すと同時に何をしでかすかわからない不安定さも現している。

下級職や中級職の魔法ならば、そこまで強力な魔法が存在しないのでこうなることはないそうだが、魔力を無尽蔵に扱える故に危険なことには変わりなかった。

俺はステータス上は下級職なのでプロミネンスアローは撃てないことになっている。

真実を知るのはパーティーメンバーとガラハットさんだけだ。


などと、考え事をしながら歩いているが特に当てはない。

リリスは周囲を見て適当に会話を振ってくるが、特に興味を惹かれる物はなかった。

時期的に服屋の品が様変わりはしないし、この辺の飯屋はほぼ制覇している。

人気のない所にある隠れた名店的な物があれば話は別だが、大通りを歩いているのでまず見つけることはできないだろうし、探す気もない。


今日の俺の目標は『リリスに襲われないこと』と『暇をつぶすこと』だ。

ダンジョンの攻略は明日行うので今日は行かない方がいいだろう。

行ったらきっと俺一人でも攻略できてしまう。

それを今日してしまった場合、明日のダンジョン攻略の意味がなくなってしまう。


正直言って、別にパーティープレイがしたいわけではない。

練習にはなるだろうが、ここの敵では相手にならない。

それでも俺が最後の攻略を5人でと思ったのは、魔人化した俺を怖がらずに、逃げ出さずに一緒にいてくれた感謝の表れだ。

せめて、3人がそれぞれの足で立てる所までは見届けてから旅に出る。

それが、俺にできる最初で最後の仕事だろう。


(でも、正直・・・ あの3人は惜しいよなぁ~・・・)


人間としてではなく、男としてあの3人を失うのは惜しい。

リリスの様な見た目幼女の年齢熟女よりも、歳の近いアーシェやアリスはもちろん。

若干若いがセリスも可愛い。

おっと、アイツは男だったか・・・

そう考えると惜しいのは2人だな・・・


ああ、あの2人がセリスの保護欲を誘う可愛さに籠絡される未来が見える。

でも、あの2人だからな・・・

セリスの性格もあるし・・・

セリス以外の男を選ぶ可能性も十分以上にある。


ううん。

なんだか複雑な心境だが・・・

考えない様にしよう。

魔人相手にあの3人を連れて行くのは足手纏い以外の何物でもない。

なにせ、相手はリリスですら苦戦する相手だ。


まぁ、リリスが≪伝説級≫の割に弱いっていう謎の現象のせいなんだが・・・

だが、ブルデーモンを倒した最後の一撃はすごかった。

アレが本来の力だとするともしかして今までレベルを下げて戦っていたのだろうか?


「リリスさん。アルトさん。おはようございます」


考え事をしていると突然、真横から見知った声が聞こえてきた。

振り向くとアーシェ達3人が私服姿で立っていた。

最初に声をかけてきたのはアリスで、俺とリリスが振り向いてからアーシェとセリスがそれぞれ挨拶をする。

俺とリリスも返事を返すと3人は俺達に合流して歩き出した。


「御二人はこれから予定があるのですか?」


「いや、ないが。どうかしたのか?」


隣を歩きだしたアリスの質問の意図がわからずに疑問を返す。

するとアリスはアーシェやセリスと目配せをしてアイコンタクトを行う。

3人は頷き合って何かの意見を合意した様だ。

そんな3人を見ているとリリスの姿が目に入った。

彼女は3人がついてくるのが面白くないのか少しむくれている。


別に2人きりだからと言ってデートでもないし、俺はリリスを基本的に無視しているのだが、彼女にとってそれは問題にならないらしい。

やはりこいつの精神的なタフさは厄介だ。

まともに相手をしていても仕方がないので適当に接することにしよう。


「では、これから私達の買い物について来てくれませんか?」


アリスは俺の回答を聞いて嬉しそうに微笑むとそんな提案を出してきた。

そういえば、今日は装備を一新するために休みを取ったんだったな。

特にすることもないのでついて行くのもいいだろう。

リリスと二人きりと言う状況も避けられるしな。


「別にかまわないぞ。」


俺が2つ返事で了承すると3人は笑顔を浮かべて微笑み合い、リリスはなぜか俺を哀れむ目を向けてきた。

いや、そこは嫌そうな目をしろよ。

なぜ、俺を憐れむ。


そんなことを考えながら5人で武器装備を扱う店へと向かう。


そして、その道中で俺はリリスの哀れみの視線の理由に気づいた。

いや、正確には思い出したという方が正しいだろう。

俺達のパーティーは女3人、男2人の比率の5人組パーティーだ。

だが、俺以外の唯一の男であるセリスは残念ながら中性的な女顔をしている。

いや、正直言って他の女3人よりも身体つきはともかくとして、顔だけ見れば一番の美少女だと俺は思う。

なので、こいつが男でなく実は女なんだと紹介されても納得できる。

故に、セリスのことを知らない周囲の人々には女4人に男1人のパーティーに見えるだろう。


そんなハーレム的な状況下の男に嫉妬の念が向かない筈がないのだ。


そんなことはセリスを仲間に入れてすぐに武器屋に行った時に気づいたはずだったのに、睡眠不足のためにすっかり頭から抜け落ちていた。

しかも、俺に向けられる視線は前よりも酷い物にレベルアップしている。

その理由は、俺やリリスのパラサイトアント討伐作戦での実績と、俺の半魔人化のせいで名前と顔が売れていることが大きい。

そのせいで俺の顔を見た連中は、嫉妬にプラスして殺意まで向けてくる。

リリスの顔が売れていなければ、俺は『女を誑かした罪』で周囲の冒険者たちに襲われていたかもしれない。


なにせ、男の冒険者は女に飢えている。

その理由は冒険者が基本的に男女でパーティーを組まないことが一般的だからだろう。

男と女が、危険な魔物が徘徊する場所で共に冒険をするのだ。

それはドキドキとワクワクが止まらない『常時吊り橋効果状態』というステータス異常が発生しているに等しい現象が起きていることと同義だ。


なので、男女混合パーティーは恋愛が起きやすく、またそれに比例して男女間の恋愛沙汰での揉め事が多くなる。

そのため、男女混合パーティーはほとんど存在しない。

おかげで、男女混合のパーティーを組んでいる俺達は非常に目立つ。

その上で、周囲には男が半魔人と言う危険人物である俺一人に見えるのだ。

俺を殺して可憐な少女たちを助けようという男がいても不思議ではない。


(はぁ、失敗したかな・・・)


寝不足のせいで頭が回らない中、周囲からの視線のせいで余計に疲れを感じながらも俺は逃げ込む様に武器屋に入っていたのだった。

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