第五十七話 仲間を救え!
途中まで書いてたデータが消えてやる気がなくなってしまったが、何とかアップできました。
更新遅くてごめんね。
俺の名前はモーベン=ルーキンス。
少し前まで冒険者をしていた。
力を求めて仲間と共に旅をして、冒険者になったことを後悔したことはない。
仲間達は子供の頃からの友人達で仲が良く気の良い奴ばかりだ。
下級職から中級職に上がるまでの間は特に問題なく平均よりも早くクラスチェンジすることができた。
だが、中級職に上がってから問題が生じる。
レベルの上りが遅く、なかなか上に行けない状況が続いた。
皆、ストレスを感じてダンジョンに行くことを渋ったので休むことが多くなった。
それが気分転換になれば・・・
そう思っていたのは俺だけだったらしい。
気分転換の休日で仲間はすっかり不抜けてしまった。
上を目指すことよりも、今を楽しむことを覚えてしまった仲間達。
いや、俺もその一人だ。
モンスターを倒してレベルを上げれば誰だって上級職になれる。
冒険者にならないエルフの民は「冒険者なんて簡単な職業」と馬鹿にする者もいる。
これは力があるから街中で暴れる粗暴な冒険者へのやっかみもあるのだが、それでも俺達にとってその言葉は神経を逆なでするには十分だった。
寿命の関係で人間は上級職に慣れない。
寿命の長い他種族は上級職に辿り着くことができると言われているが、実際に上級職になれる人間なんてそう多くないはない。
下級から中級には努力、中級から上級には才能がいる。
冒険者の中にはそう言って諦めてしまうものが多数いる。
中級職になるとそれなりにお金の余裕があるから無理に目指す必要がなくなるのも大きな要因だろう。
やがて、仲間達は『上級職を目指す者』と『今の生活で満足する者』に別れるのだが、リーダーがなんとかバランスをとっていたのだが、『上に行くための新戦力』が加わってこのバランスが完全に崩壊した。
新戦力の補充によってバランスを失ったパーティーが解散するのは自然の摂理の様に抗うことのできない定めだった。
パーティは新戦力と共に上級職を目指す者達と今のままの戦力で楽しく暮らしていく者達に別れた。
ただ、ここで俺に問題が生じる。
同じ町で生まれた仲間達と仲良く冒険を楽しんでいた俺にとって仲間の解散は予期せぬ事態だった。
どうすればいいのかわからずにいた俺にそっと手を差し伸べたのは、一番仲の良かったディートだった。
ディートは伝説級職業に憧れている。そんな彼は当然、上を目指す側の人間だ。俺は彼の手を取って新たなる仲間達と上級職を目指す旅に出た。
己の身の程も知らないままに・・・
レベルを上げるために危険を承知で難易度の高いクエストに旅立った俺達はそこで全滅の憂き目に遭った。
そんな時に、アイツは現れた。
紅い髪と瞳を持つその男は黒い笑みを浮かべながら俺達の前に現れるとこういった。
「力を手に入れて生きるか。力なきままに死ぬか。どっちがいい?」
その言葉に俺達は1も2もなく答えを返した。
「力が欲しい」と切実に願った。
男は黒い笑みを漆黒に染め上げて笑うと俺達を魔人へと変貌させた。
そこからの記憶は曖昧で・・・ アルトさんに助けてもらうまでの記憶があまりない。
だが、俺はアルトさんに会うことであの悪夢から解放された。
そんな俺だからこそ、同じように魔人にされた仲間達のことを彼に告げて助けを乞うことができる。
彼は約束してくれた。
俺の友を救ってくれると・・・
だから俺は、彼が来ることを信じて戦える。
俺は今回のリリス討伐作戦で共に戦う仲間であるディート君との合流地点で彼を待ち伏せしている。
彼を魔人化から救うために俺はアルトが来るまでの時間稼ぎをしなくてはならない。
(魔人化から解放された今の俺に魔力の吸収能力はない。でも・・・ 時間を稼ぐぐらいなら・・・)
俺が気合を入れ直すとほぼ同時にディートがやってきた。
ディートは俺の姿を確認すると立ち止まった。
魔人化が解けて髪と瞳の色が元に戻った俺の姿に驚いた顔をしている。
(まぁ、その顔は当然だよね。)
本来、魔人化から元に戻ることは不可能だ。
魔人化自体の確率が低く、例が少ないので研究もそれほど進んでいないので実際には元に戻す方法があるのかもしれないがそんな話は聞いたことがない。
だから最初、元に戻った時は俺自身が一番驚いた。
「やぁ、ディート。そんなに驚かなくてもいいんじゃない?」
だが、俺はそんなことをおくびにも出さずにディートに話しかける。
ディートは警戒しているのか臨戦態勢を取る。
俺はすでに魔法を仕掛け終えているので、そんなことはせずにまずは話し合うことにする。
なにせ、俺の目的は時間稼ぎだ。
戦闘はあくまでも最終手段に過ぎない。
「おまえ、どうやって元に戻った・・・ いや、なぜ元に戻った。 俺達は共に力を求めて魔人化した存在だろう?」
ディートは驚きを顕わにしたまま問い詰める。
そう、魔人化から元に戻れるだなんて常識外れのこの事態を問い詰めない筈がないのだ。
「実はそれについて興味深い話があるんだよ。」
そう言って俺が一歩近づくとディートは同じように一歩後ずさった。
どうやら、ディートはかなり警戒しているらしい。
「近づくな! その場で答えろ!」
ディートは今にも「魔法を使うぞ!」という威嚇した体勢でこちらを睨んできた。
だが、猛獣使いの職に就くディートの攻撃魔法はたいしたことがない。
森使いである俺の魔法は土属性の魔法に特化しているが、それでも魔法に関してはディートよりも上だ。
(同じ後方で戦うタイプの戦術をとる。だけど、俺は一属性特化型の魔法使い。逆にディートは使役した動物や魔物、魔獣を操るタイプだから魔法に関してはこっちが有利。
接近戦に持ち込まれたら不利になるけど、魔人化から元に戻った俺を見たことで魔人化から元に戻る方法があることが強く印象に残っているので迂闊に近づくことはできないし、こちらの魔法攻撃にもかなり神経を研ぎ澄まさなければならない。
加えて、周囲を土に囲まれたこの地形。)
俺の勝利に疑いようはない。
あとは、アルトさんさえ来てくれれば・・・
そう思い、視線をディートの後ろに向けるがアルトさんが来る様子は全くなかった。
仕方なく俺は、時間稼ぎに話をすることにした。
「ディート。お前は本当にディートなのか?」
俺は目の前にいるディートにそんな質問を投げかけていた。
ディートは「あぁ?!」と怒気を孕んだ声を上げて顔を歪める。
やはり、俺と同じように黒い奴に精神を支配されているのだろう。
こんな表情のディートを俺は見たことがない。
優しく夢見がちだが友達思いの彼にこんな質問をすれば「何言ってんだ?」とキョトンとした顔をしてくるはずだ。
そう思うとディートを早く助けなければという気持ちが強くなった。
でも、それは俺にできることじゃない。
俺はあくまで時間稼ぎ。
自分から攻めるなんてのは自殺行為、戦闘は最終手段と自分に言い聞かせて話を続ける。
「魔人になると黒い靄みたいな奴に体を乗っ取られるだろう? 俺もそうだった。 君もそうなんじゃないのか?」
出来うるだけ優しくそう問いかけた。
だが、その言葉はディートの逆鱗に触れてしまう。
「なんだと? 貴様、乗っ取られる? 黒い靄? まるで、自分が違う存在に取って代わられるように言うのはおかしくないかい?」
ディートの口調は穏やかで怒声は上げていないが表情と態度は明らかに先程よりも怒気を強めている。
どうやら、黒い靄に体を乗っ取られているのは間違いなさそうだ。
だが、黒い靄側からすればそれはおかしい事らしい。
「今までの弱い自分を捨てて強大な力を持つ魔人に生まれ変わる。それが君たちの願いだろう?なのに、体と乗っ取られた?弱い自分を捨てて新しい自分になった。ただそれだけのことだろう?自分たちで望んでおいてその言いぐさはないんじゃないのかい?」
ディートの言うことはもっともだ。
俺達は弱かったから力を求めた。
その結果が魔人化という手段だった。
だが、俺達は力を望んでも魔人化したかったわけじゃない。
「確かに俺達はあの時、力を望んだ。でも、魔人化なんて望んでない!」
俺は自身の意見を述べる。
そう、俺達は騙されたのだ。
被害者なのだと・・・ だが、その言葉を聞いてディートはさらに眉根を釣り上げる。
「魔人化を望んでいない?! なのに力は欲しかった?! 弱者の分際で!死にかけのお前たちを助けたのは誰だと思っている!! まさかお前!自分は被害者だなんて思っていないだろうな!! 己の力も才能も理解せず、憧れを胸に秘め、身の程もわきまえずに行動した結果、死にかけておきながら助けられた法方が気にくわないから刃向うだと?! いい加減にしろよこの馬鹿が!!」
ディートの怒声が洞窟に響き渡る。
そして、その言葉は俺の胸に深く突き刺さった。
確かに、その通りかもしれない。
助けてもらった分際で、力を欲し与えられた分際でそのことに対して文句を言うな。
その意見は分からなくもない。
でも、人として最低限の自由すらも奪われたあの状況をよしとすることはできない。
同じ目に遭っている仲間をあのままにはできない。
だから、俺は引くわけにはいかないんだ。
そんな思いで睨みつけているとディートは「もういい分かった。お前はいらない。」と言って攻撃魔法を発動する。
だが、所詮は猛獣使いの放つ魔法。
俺はすぐさまウォールの魔法で土壁を自分の前に作成するとこれを防いだ。
ディートは続いて第二波、第三波と攻撃を仕掛けてくるが俺のウォールはそれぐらいでは破れない。
(やっぱりそうだ。時間を稼ぐだけなら俺一人でだって余裕じゃないか!)
この時の俺はそう思っていた。
その後も、ディートの攻撃は単調で俺は攻撃によって壊れた土壁を再度、ウォールを発動する事で修復するだけでいい。
防御一辺倒の何とも情けない策だが、目的を果たす為の最善手である以上しかたがない。
(そう、これは最善手なんだ。)
そもそも、魔力を無尽蔵に扱える相手とまともに戦うなど無謀にもほどがある。
土の防御魔法は一度作れば魔力をあまり消費しない。
他の魔法に比べて非常に便利で使いやすい魔法だ。
(このまま守り続ければ勝てる・・・!)
そんな確信にも似た感情が芽生えた瞬間だった。
俺の足元に見たこともない魔法陣が展開される。
「しまっ・・・!」
逃げなければ・・・!
そう思った時にはもう遅かった。
発動した魔法は強い光を放ち俺の眼をくらませる。
そして、聞こえてくる足音。
明らかにこちらに向かって来ていることを察した俺は土壁から離れて距離を取る。
距離を取り目を見開くと土壁を乗り越えてディートがこちら側にやってきていた。
そして、魔法攻撃が再開される。
俺はすぐにまたウォールの魔法を使おうとしたのだが・・・
「発動しない! どうして・・・!」
そう思った俺の前には警告画面が出ていた。内容は『必要魔力量に到達していません』というものだった。
すぐさまステータスを開きつつ攻撃を躱す
魔法攻撃を何とかかわしてステータスを見るとそこには・・・
魔力量 0
と表示されていた。
どうやら先程の光を放つ魔法は視界を奪うものではなく魔力を奪うものだったらしい。
だが、この魔法は非常に厄介だ。
魔力を失った魔法使い系の職業は存在価値が一瞬にしてゼロになる。
(こんな魔法を持っていただなんて・・・!)
そう思いながらも攻撃を避けながら俺は出口に向かって走った。
魔力がない今の俺にはもはやディートを止めることはできない。
ここは逃げ回って時間を稼ぎつつ魔力の回復を待つのが得策だ。
今思えば、ディートがこんな魔法を持っていたからこそ。
伝説級の職業に就くリリス=クロニクル討伐計画なんていう大それた作戦をとれたんだ。
魔法使い系職業にとって魔力はいわば生命線に等しい。
それを失うことは戦力としてゼロになるだけでなく周りの仲間の足を引っ張るお荷物にしかならない。
所謂、マイナスの存在だ。
「クソ! クソ…!」
俺は自分の浅はかさと逃げることしかできない惨めさに涙を流しながら必死に出口に向かって逃げた。
俺は森使い。例え周囲を地面に囲まれた洞窟から出たとしても洞窟の外は気がうっそうと生い茂る森の中。勝機はまだある。
そう、この時の俺はそう思っていた。
そこが死への終着駅だと全く考えてはいなかったのだ。
ガシリ
洞窟を抜け外に出た瞬間だった。
俺の体を巨大な手が掴んだ。
その手は乱暴に俺の体を掴むと握りつぶすかのように俺の体にその指を食い込ませた。
「ガ・・・ハ・・・・」
強烈な痛みと胸を圧迫されて呼吸ができない。
声を上げられない。
(誰か助けて・・・! アルトさん・・・!)
だが、そんな俺の想いは誰にも届かなかった。
「よくやったぞレックス。 無様だな。モーベン。俺達を裏切った罰だお前はたっぷり甚振ってから殺してやろう。」
最初は俺を捉まえた大型の魔獣を見てにっこりと微笑んだディートは、次に俺を見て黒い笑みを浮かべて楽しそうに笑った。
おそらくは俺にこれからひどい拷問でもするつもりなのだろう。
(どうしよう。魔力がないから抵抗して逃げだすことなんてできない。)
「さぁ・・・ どう料理して・・・」
僕がそう口に出した瞬間だった。
背中をゾッとするほどの悪寒が通り過ぎた。
『何かいる!』そう思って振り向くがそこには何もいなかった。
だが、わかることがあった。
それは何かがここに近づいていること。
「ここにいてはいけない」と僕の中の何かが警告を発している。
(甚振って遊んでいる時間はないな・・・)
そう判断した俺はモーベンを見上げる。
彼は僕の可愛い魔獣に捕まり苦しそうに悶えている。
だが、その瞳には何かしらの希望の光を宿していた。
きっとそれはここに近づいてくる誰かに期待してのことだろう。
だが、その瞳が僕をさらにイラつかせた。
「本当に・・・ モーベン。君はいつもそうだね。」
僕は出来うる限り優しく微笑んだ。
彼は「なにが?」とでも言いたげな表情を浮かべてこちらを見る。
「君はいつだって周りに期待して、何も自分では行わない。僕たちのパーティーが解散の憂き目に遭った時も君にはリーダーや仲間達に期待して何も言えなかった。パーティー解散後はどうしていいかわからずに他人の表情を窺っていた。そして、僕の意見に追従して一緒についてきた。君はいつだって自分の意見を言わず他人の意見を聞くばかりで何もできない。今だって君は誰かに期待して自分では何もしていない。」
彼は僕の言葉に傷ついたのかその表情を歪めた。
だが、その行為は僕の神経を逆なですることでしかない。
「君は僕を助けに来たつもりだろうけど。実際君が行ったのは陳腐な時間稼ぎだけ。いつも他人任せな君にはそれしかできないという判断なんだろうけど、その考え方は間違っているよ。モーベン=ルーキンス。君には僕を救えない。人の意見に追従するだけの君の浅い考えのもとに出て来た時間稼ぎなんて通用しない。結局君には誰も救えず、何もできない。」
そうモーベンには何もできない。
何かをしたいという意思を持っても今までにその経験がない君にはその手段がないのだから・・・
「ルーキンス。君に敗因は今まで何もしてこなかったことだ。何もしてきていない君には成功は元より失敗した経験すらない。それはつまり君の人生には何もない空白だけが広がっているということだ。そんな君に夢に焦がれて我武者羅に生きてきた僕に勝てるわけないだろう?」
ディートはそう言って微笑むと歩み出した。
まるで俺の事なんて目に入っていないかのように・・・
「食べていいよ。レックス。」
その言葉と共に先程よりも強く握りしめられて俺の体は宙を舞う。
そして、目の前に広がるのは巨大な牙と大量の唾が待つ口の中。
「・・・!」
ガギリ
俺は声を上げることもできずに絶命した。




