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第五十六話 ブルデーモン戦決着

広間に来るまでに交わした約束を思い出し、俺はブルデーモンに対して殺意を向ける。

先程まではアリスやアーシェ、リリスを助けることを優先していたために『倒したい』と特に思わなかったが、自身に攻撃を受けたことで俺の怒りの矛先はブルデーモンに、そして、それを操っているであろうモーベンの仲間に向いた。


(モーベンとの約束は無視しても良かったんだが、気が変わった。お前を操っている術師もお前も俺が倒す!)


確固たる決意を持って俺はブルデーモンに魔法を放つ。

土の魔法と融合し、巨大な魔法陣に流れる魔力を食らうことのできる俺の魔力は今現在、無尽蔵にあるといってもいい。

リリスやアリスに譲渡する場合は2人の魔力の波長に合わせる必要があったが、俺が使う分には変換はほぼ不要だ。


(まぁ土の魔法しか使えないという制限はあるけどな! アースソード六連!)


俺はモーベンの中に居た黒い奴を吸収したことでアイツが使えた土の魔法を覚えることができた。


「ブモウ!!」


魔法をかき消して優位に立ったブルデーモンがアーシェに対して斧を振り上げる。

アーシェは咄嗟に盾を構えるが今彼女は身体強化も盾についていた防御魔法もない。

相対した敵の強さに怯えて身体強化を発動する精神的余裕もなく足が震えているのがわかる。


「アーシェ逃げて!」


アリスがそう叫ぶが逃げたところでブルデーモンの動きの方が早いので背後から一撃を食らって即死するだろう。

だが、このまま攻撃を受け止めてもアーシェの残り体力ではどちらにしても死亡する可能性が高い。


アリスも魔法を消されたせいで待機していた術式展開中の魔法がなくなり即座に魔法を発動できないでいる。

リリスも同様なのか動かないでいる。


だが、ブルデーモンの放つ斧はアーシェに向けて振り下ろされることはなかった。

俺の放った六発のアースソードのせいだ。

六発の内、最初の二発はブルデーモンの足元、背後方向から膝に向けて放ちまず足元をぐらつかせて上半身を後ろに倒し、さらに追い打ちで二発を足の裏から出現させて完全に転倒させる。

ブルデーモンが斧を振り上げてくれたおかげで後ろに倒れやすくなっていたのが功を奏した。


最後に二本のアースソードが天井から伸びてブルデーモンの両肩を捉えるが魔法耐性のあるブルデーモンにはアースソードは突き刺さらず地面に倒す為に押し出す為のものにしかならなかった。

先にはなった四本のアースソードも同様に硬い皮膚のせいで剣の先が割れてしまっている。


(まぁ、威力的に想定ないだな。 泥沼バーグ


続いて俺は転倒するブルデーモンの落下予測地点に泥沼を作り出す。


ボチャン!


転倒したブルデーモンは予想通りに泥沼に頭から落ちていった。

ブルデーモンが沼に落ちるのを確認すると先程から突如として起こる事態に目を丸くしていたアーシェとアリスが動き出す。

アーシェはブルデーモンから距離を取り、アリスは回復魔法をアーシェにかける。


2人が安全圏に向かったのを確認して俺は再度魔法を発動する。

使用する魔法は『マッドハンド』と『アーススタンプ』の二種類。

まず、足のマッドハンドで泥沼に落ちたブルデーモンの体を押さえつけ、アーススタンプで天井から巨大な足を作りだし踏みつける。


どちらの魔法も今の俺に出せる最大威力のものを使用するがそれでも、おそらくはブルデーモンを倒しきることはできない。

泥の手は相手の体を掴み押さえつけるだけで決して絞め殺すことはできない。

天井から落ちる土の足も踏みつけているというよりは置いてあるに等しい状況だ。


だが、泥の沼に顔を沈めているブルデーモンに対してはこれだけでも十分に有効だ。

顔を泥の沼に嵌めて息のできない状況が続けば窒息死させることができる。


(動くな。足掻くな。沈んでいろ! そうすれば、俺の勝ちだ!)


そう思い、全力で魔力を注ぎ泥の手を創造し続けている俺だったが、それを嘲笑うかのようにブルデーモンは腕を足を振るって起き上る。

泥の手はブルデーモンの腕の一振りで破壊され周囲に飛び散り、天井から生えた巨大な足はブルデーモンが振るう斧によってドンドン崩されていく。


「ブモォオオ!!」


ブルデーモンは泥沼から顔を出すとまた雄叫びを上げる。

だが、土で作り出された足や腕、沼は魔法を掻き消す効果では消えはしない。

魔法で作り出された炎や水などならともかく、その場にある物を使用する土の魔法は魔法の効果が尽きてもその場に残り続ける。


(だが、咆哮とあの斧のせいで次繰り出す魔法の生成が途中で止まってしまうな・・・)


そうなると、泥沼からの脱出を阻止する手段がない。

霊体である俺はゴースト同様に魔法の攻撃を受ける。

ブルデーモンの攻撃は基本的には物理攻撃だが、魔法を掻き消す力のある咆哮とあの斧の攻撃は俺に対してダメージを与えることのできる代物だ。


(万事休すか・・・)


そう思い俺が諦めかけたその時、今まで沈黙していたリリスが動いた。


「アーシェ、アリス。下がっておれ。アルト!どこかで様子を見ているのじゃろう?!時間稼ぎご苦労じゃった!あとはワシがやる故、下がっておれ!」


リリスはアリスとアーシェの前に出るとブルデーモンと対峙してそう叫んだ。

2人はリリスの言葉に頷きその場から下がる。

俺も同様にブルデーモンから距離を取った。


「ブモォオオ!!」


ブルデーモンは沼から這い出ると立ち上がりリリスを見るやいなや咆哮を上げて襲いかかる。


「黙れ。」


だが、そんなブルデーモンに対してリリスは小さく囁くように言葉を放つ。

放たれた言葉にはブルデーモンへの怒りだけでなく、自身の情けなさに対する怒りも見て取れた。


「ブモウ・・・!」


次の瞬間にはブルデーモンは地面から生えた巨大な剣により真っ二つになっていた。

リリスが魔法を発動したのだろう。

驚きなのはその速度、術式の展開は黙って様子を見ていた時にしていたとしても、術自体の展開が異様に早かった。


光やレーザーのように放った熱線とは違い今回の魔法は地面から剣が飛び出す俺の使っていたアースソードの上位互換にあたる『大地ガイア剛剣ブレイド』だ。

知識を整理しきれていない俺にはそれが最上級なのか上級の魔法なのかは定かではないが、ガイアブレイドは地面から突き出ると一瞬にしてブルデーモンを真っ二つに切り裂いた。


ブルデーモンはそんな高速のガイアブレイドを防ごうとしていたのか。

斧をぶつけていたようだが、その斧も二つに切り裂かれていた。

魔法をかき消す効果を持つ斧を切り裂いたリリスの魔法。


単純な威力だけではこんな真似はできないだろう。

いくら土の魔法と言えど咆哮はともかく、あの斧の魔法に触れれば魔法の力が消失して効果がなくなり途中で止まってしまう。

本来なら対魔法消失の為の魔法を組み込んで対応するのだが、リリスの魔法はそんな繊細な魔法には思えなかった。


どちらかと言えば、力で全てをねじ伏せた感じだ。

圧倒的な魔法の威力と速度、それによって魔法をかき消す魔法が発動る前に斧を切断しその魔法を破壊。

そんな感じにしか見えない。

そんな圧倒的な力で攻めた光景に俺とアーシェ、アリスの3人は声を失いただ茫然とその様子を見ていることしかできなかった。


「すまんかったの。ワシが不甲斐無い馬鹿なりに迷惑をかけた。」


俺達3人が動き出したのはリリスが振り返ってそう謝罪してからのことだった。


「い、いえ!そんな! 私達の方こそ足手纏いですみません!」


アリスがそう言って頭を下げる。


「危ない所を助けていただいてありがとうございます!」


アーシェもそれに続いて礼を述べると頭を下げる。


「それはワシも同じじゃよ。2人のおかげで助かった。アルトもすまなかったの。またお主に助けられた。」


リリスはそう言って二人に頭を下げると俺の方を見て微笑む。

俺はまだ地面から顔を出していないのにどうやら居場所がバレているらしい。

何もない地面を見て微笑を浮かべたリリスを2人が不思議そうに見ていたので俺はひょっこりと頭を出した。


「ああ、終わってそうそうですまないが俺は行くところがあるので失礼してもいいか?」


申し訳なさそうに頭を下げた俺に対してリリスは「すまんが、魔力を少し回復したいのでそれが終わってからでもいいかの?」とすまなさそうに返事を返してきた。

どうやら先程の一撃でさっき回復した魔力をほどんど使い切ったらしい。


もうブルデーモンは倒したがここはパラサイトアントの巣の中だ。

いつ敵と遭遇するかわからない。

魔力の無いリリスでは2人を守りながら戦うのは至難なのだろう。


俺としても、せっかく助けた3人が俺の去った後で死亡しては意味がない。

幸い、土の魔法と合体しているので俺の本体で肉体はガラハットやセリス、クルトにドッペルのおかげで無事なようなので1回様子を見に行く必要性はなさそうだ。


「わかった。」


俺は仕方なくリリスの提案を受けて魔力の補給をしてからモーベンの後を追うことにした。


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